メビウスの指輪・4 5





暗闇で一人、ココはソファーに座っていた。
蒼衣と共に眠りに付いた後。彼女が深く眠った事を確認したココは、そっと部屋を抜け出していた。
手には、一冊の薄いアルバム。夕食の後、二人で開いた物だ。
ポケット式のそれに収められた写真を、蒼衣が「随分撮りましたね」と笑顔で眺めていた。
ページをめくり、最後に収められた写真を見た蒼衣は、「太った?」と手に持っている写真と見比べて、ココの笑いを買っていた。
蒼衣は隣で笑ったままのココに軽く口を尖らせて、その写真の隣のポケットに現像されたばかりの写真を入れた。
「『二人だけの結婚式』の写真がまた一枚増えましたね」と言って。



「近いうちに、本当に結婚式を挙げようか」
祭壇から一歩下がったココが突然言い出した。
「キミの身体も、かなり良くなって来たから」
蒼衣はきょとんとした顔でココを見ている。
「突然…どうして?」
「ボクの足のせいで、今までうやむやになってしまっていたからさ」
「それを言うなら私の治療がまだ終わってないから、ですよ?」
そう続けた蒼衣は、ココに自身の左手を見せた。

『治療が終わったら、結婚式を挙げよう』
そう言ってココは、治療を始める前に蒼衣に指輪を贈っていた。
それは既に、蒼衣の指で輝いている。

「結婚式はしてなくても。ちゃんとココさんの蒼衣でしょ?」
蒼衣は首をかしげた。それに、と続ける。
「ここで今…ううん。何度も誓ってくれているのに?また、改めて?」
ココはそんな蒼衣を黙って見ていた。その様子に、蒼衣も少し不安を覚えた。
「それとも何か…あるの?」
私の身に、と続くであろう言葉を、ココは遮った。
「キミのウェディングドレスを着た姿が見たいなと、単純に思っただけだよ」
思いがけない言葉に、蒼衣の頬がぱっと色づいた。
「それから、皆の前で、ボクを選んでくれた最高の女性を自慢したい」
それから、ボクはこんなにも幸せなんだって宣言して。
ついでにトリコには、『早く後に続け』って背中を押してやってさ。
サニーが羨ましそうだったら、少し慰めても良いかな。
もちろんキミには、世界に一着しかない、最高のドレスを用意するよ。
ココはそう言って、蒼衣を優しい目で見つめた。
「幸せにしたいんだ」
改めて言われた蒼衣は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐにココに微笑み返した。
「それなら私。あの場所が良いです」
蒼衣が口にした場所は、思いがけない場所だった。
「あの、大きな樹。私が好きな、白い花の咲く場所で」
IGOの敷地内の。そこで、今まで私を支えてくれた人たちに、祝福されたい。
「なら、そうしよう」
ココは蒼衣の言葉に頷いた。
「でも、花の季節はもう少し先だね」
「それまで、待てない?」
「そんなこと無いよ」
そう言うとココは彼女の指輪が光る手を、そっと持ち上げた。
「この指輪にかけて」
銀色に光るそれは、中央で一度ねじれていた。
「メビウスの輪と同じ…ボクの想いは途切れない。永遠に続くんだから」
ココは蒼衣を抱き寄せた。

「誓うよ。」




ココの無機質な瞳は静かにアルバムの写真を映していた。
ぱらり、とページをめくる音が、室内にやけに大きく響く。
不気味な緊張感が明かりの無い部屋に漂っていた。
そして、つい先日撮った写真のページまで来ると、ココはそれに視線を落としたまま長い間動かなかった。
不意にカタリ、と何かが動く音がして、そこで漸くココは大きく息を吐き出した。

「……18枚。」

ココは何も無い空間に呟いて、パタリとそれを閉じた。





to be Continued.








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