暗闇で一人、ココはソファーに座っていた。 蒼衣と共に眠りに付いた後。彼女が深く眠った事を確認したココは、そっと部屋を抜け出していた。 手には、一冊の薄いアルバム。夕食の後、二人で開いた物だ。 ポケット式のそれに収められた写真を、蒼衣が「随分撮りましたね」と笑顔で眺めていた。 ページをめくり、最後に収められた写真を見た蒼衣は、「太った?」と手に持っている写真と見比べて、ココの笑いを買っていた。 蒼衣は隣で笑ったままのココに軽く口を尖らせて、その写真の隣のポケットに現像されたばかりの写真を入れた。 「『二人だけの結婚式』の写真がまた一枚増えましたね」と言って。 「近いうちに、本当に結婚式を挙げようか」 祭壇から一歩下がったココが突然言い出した。 「キミの身体も、かなり良くなって来たから」 蒼衣はきょとんとした顔でココを見ている。 「突然…どうして?」 「ボクの足のせいで、今までうやむやになってしまっていたからさ」 「それを言うなら私の治療がまだ終わってないから、ですよ?」 そう続けた蒼衣は、ココに自身の左手を見せた。 『治療が終わったら、結婚式を挙げよう』 そう言ってココは、治療を始める前に蒼衣に指輪を贈っていた。 それは既に、蒼衣の指で輝いている。 「結婚式はしてなくても。ちゃんとココさんの蒼衣でしょ?」 蒼衣は首をかしげた。それに、と続ける。 「ここで今…ううん。何度も誓ってくれているのに?また、改めて?」 ココはそんな蒼衣を黙って見ていた。その様子に、蒼衣も少し不安を覚えた。 「それとも何か…あるの?」 私の身に、と続くであろう言葉を、ココは遮った。 「キミのウェディングドレスを着た姿が見たいなと、単純に思っただけだよ」 思いがけない言葉に、蒼衣の頬がぱっと色づいた。 「それから、皆の前で、ボクを選んでくれた最高の女性を自慢したい」 それから、ボクはこんなにも幸せなんだって宣言して。 ついでにトリコには、『早く後に続け』って背中を押してやってさ。 サニーが羨ましそうだったら、少し慰めても良いかな。 もちろんキミには、世界に一着しかない、最高のドレスを用意するよ。 ココはそう言って、蒼衣を優しい目で見つめた。 「幸せにしたいんだ」 改めて言われた蒼衣は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐにココに微笑み返した。 「それなら私。あの場所が良いです」 蒼衣が口にした場所は、思いがけない場所だった。 「あの、大きな樹。私が好きな、白い花の咲く場所で」 IGOの敷地内の。そこで、今まで私を支えてくれた人たちに、祝福されたい。 「なら、そうしよう」 ココは蒼衣の言葉に頷いた。 「でも、花の季節はもう少し先だね」 「それまで、待てない?」 「そんなこと無いよ」 そう言うとココは彼女の指輪が光る手を、そっと持ち上げた。 「この指輪にかけて」 銀色に光るそれは、中央で一度ねじれていた。 「メビウスの輪と同じ…ボクの想いは途切れない。永遠に続くんだから」 ココは蒼衣を抱き寄せた。 「誓うよ。」 ココの無機質な瞳は静かにアルバムの写真を映していた。 ぱらり、とページをめくる音が、室内にやけに大きく響く。 不気味な緊張感が明かりの無い部屋に漂っていた。 そして、つい先日撮った写真のページまで来ると、ココはそれに視線を落としたまま長い間動かなかった。 不意にカタリ、と何かが動く音がして、そこで漸くココは大きく息を吐き出した。 「……18枚。」 ココは何も無い空間に呟いて、パタリとそれを閉じた。 to be Continued. ← |