メビウスの指輪・3 5





「……つーかよ、サニー。お前うろたえすぎだ」
トリコはベッドに仰向けになり、視線を宙に漂わせながら言った。

夜もすっかり更け、5人で過ごす楽しい時間も終わりとなった今。
ココは自分の寝室に、トリコはサニーといつもの通り来客用の寝室にいた。
もう一つ向こうの部屋では、今頃リンと蒼衣が気持ち良い寝息を立てている頃だろう。

「うろたえてたのはリコじゃねーかよ。リン相手に」
隣のベッドからサニーが返した。
「オレは冗談言ってるんじゃねーよ」
トリコの淡々とした声が響く。
「…、かってるし。レらしくね」
サニーは素直に返した。トリコがサニーの様子を伺うと、トリコと同じように真上を見つめていた。
「ココの奴、記憶がどーとか急に言い出すから」
「…確かにヒヤッとはした」
「………レたちの気も知らねーで」
「サニー…」
「や、今の無し。、れはそれで良!」
サニーはタオルケットを勢い良く蹴り上げてトリコから背を向けた。
「ココが幸せならそれで良」
「幸せ、か…」
トリコは溜め息をついた。
「その幸せに嘘を重ねていったら、…いつか必ずボロが出る。だからオレ達は、最低限の嘘しかつかない方が良い」
「……何?」
サニーは身体をもたげ、トリコを見た。
「リンだよ」
「リン?」
「ココはオレたちの言葉を、蒼衣の処置の『間』ずっとリンが付いていると解釈したはずだ」
「あ……」
「実際は違う。処置の『後』だ」
サニーは黙って聞いていた。
「ココがリンに何か聞き出そうとする前に、手札を揃える」
「……わかった」
サニーは小さく息を吐いて、ベッドに横になった。
「正直オレは、ココがリンに耳打ちした時、やられたと思った」
「風呂上りの?」
「あぁ。ココの事だから、『処置の内容を聞きたい』だと思った」
「………」
「違っていてホッとした」
そう言うとトリコは大きな欠伸をした。室内の緊張が解れ、サニーはふふっと鼻で笑った。
「…うろたえたの間違いじゃね?」
「うるせーよ」
月明かりの中、「全く、兄妹そろって…」と言う呟きが聞こえた。
「、んか言ったか?」
「…オレはココじゃねぇって言った」
「え?」
「だから、ココの真似は出来ねぇって事」
「え?」
「サニーお前、わざと聞いてるだろ?」
もう寝るわ!と言ってタオルケットを引き上げたトリコの様子に、サニーは小さく「だっさ」と呟いた。

暫くの沈黙の後、サニーが口を開いた。
「リコ、覚えてるか?」
「え?」
「今日の蒼衣が、『何人目』か」
「…忘れた。……サニーは?」
サニーは大きく息を吸った。
「…も、とっくに数えてねーし」
「…そうか」
「リンもやめたって言ってたし」
「…そうだよな」
サニーは舌打ちして吐き捨てるように言った。
「IGOのやつら、んなにあちこちいじっといて、全然長持ちしねぇし」
「………徐々に延びてはいる」
「んなの、分かってるし」
サニーはタオルケットを頭から被った。
「……これが、最後になると良いし」
「………おぅ」



祈るか。神というものに。
オレたちの冒涜を、赦してくれる神が存在するならば。
魂の一つくらい、くれてやる。



二人は目を閉じた。




to be Continued.








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