メビウスの指輪・3 4




「前の治療はボクが側にいられたから……でも今は蒼衣一人だ」
ココは一点を見つめたまま言う。
「記憶に障害が残るほど、酷い事をされているんではないかと」
…………かつてのボクのように。
「もしくは、それを隠すために記憶をわざと…」
「、なわけねーだろ!」
サニーが強い口調で言った。
「サニー?」
サニーの異常なほどの剣幕にココはたじろいだ。瞬時に沈黙が走り、重い空気が漂う。
その空気をサニーがばつの悪そうな面持ちで破った。
「…リンが一日中付いてっから、安心して良」
「え?」
「、のために、レがIGOに掛け合ったんだし」
サニーの言葉に、トリコが続く。
「オレたちに黙って蒼衣に余計な事しないように、だ。リンならオレらの味方だからな」
最高のガーディアンだろ?と言うトリコの言葉に、ココは驚きを隠せなかった。
「…一日中なんて知らなかった。てっきり仕事の合間に面倒見てくれてるものだと」
「え?!サニー?言ってなかったのか?」
「おま、それ!…リコが伝える役じゃね?!」
トリコとサニーは顔を見合わせた。その後二人して、すまん、とココを見る。
ココは暫く呆気にとられ、次の瞬間、ぷっと吹き出した。重い空気が一掃された。
「……そんな素晴らしい事を隠してたとはね。だったらアレを出そう」
指差した先に、一本のボトルが光る。ココは立ち上がり、それを手に取った。
「あぁっ!ココ!何でそんな良い酒持ってんだよ!」
トリコが立ち上がった。
「、まえ飲まねーんだろ?ォレに寄越すし!」
サニーも続く。
「いや、これはもう売約済みだよ」
「「誰に?!」」

不意にバスルームに続く扉が大きく開いた。湿気を含んだ温かい空気が流れ込んだ。
「出たし〜!」
リンに続いて蒼衣も顔を出した。つややかな頬は赤みを帯びていて、二人の上機嫌を物語っていた。
「ちょ、おま!早すぎね?!」
サニーがリンを指差して言う。
「『美肌の素』だけでもう十分だし!残りは蒼衣と半分こしたし〜」
リンが頬を摩りながら言う。
「トリコどうだし?!このすべすべ!プルプル!」
「…………おぅ」
トリコは素っ気無く答えた。
「これが『美肌の素』の香り?甘くて柔らかい、ボク好みの香りだ」
いつの間にかココが、蒼衣の耳元に顔を寄せていた。
「ほっぺも柔らかい…ね」
不意にキスをされた蒼衣の顔が、逆上せたように濃い朱に変わった。
「……まえ、臆面もなくよくそんな…」
サニーがココの素早さと手の早さに引き攣った。
リンはその光景に目を丸くした後、トリコに向き直った。
「何かずるいし!トリコもこっち来るし〜」
「オレはここからでも十分嗅げた」
トリコはリンに目を合わせずにきっぱりと言い放った。
「そうじゃないし!バカトリコ〜!」
「あぁそうだ、これ。リンちゃんに」
本気で悔しがるリンの手に、ココはボトルを渡した。
「日頃の感謝をこめて。ありがとうリンちゃん」
「え?ど、どういたしまして?」
リンは意味が分からず、受け取ったボトルとココの顔を交互に見た。
「ちょ!それってリンにかよ!」
サニーが勿体無いと喚く。
「当然だよ。ボクの蒼衣が一番お世話になってるんだから」
ココはそう言うと、何やらリンに囁いた。
トリコの頬がぴく、と微かに動いた。
ココの言葉を最後まで聞いたリンは、瞳をキラリと光らせた。
「トリコ……」
「……何?」
その瞳を向けられたトリコは、背中に嫌なものを感じた。
「欲しかったらこっちに来るし〜」
「ココてめぇ!リンに変な事吹き込んだな?!」
うろたえるトリコの言葉に、ココは違うと首を振りつつも笑いを噛み殺していた。
リンはボトルを両手で抱えて、トリコの様子を伺いながら一歩二歩とゆっくりと近寄っていく。
「な、何だよ、リン?!」
「来ないならウチから行くし〜」
「はぁっ?!」
「お酒とすべすべとプルプルを味わうし!」
「何?何この拷問?!ちょ!待て!待てってば!!」
トリコの裏返った声が響くと、サニーはまたかと苦笑し、蒼衣はココと、ココの腕の中でくすくすと笑った。








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