「前の治療はボクが側にいられたから……でも今は蒼衣一人だ」 ココは一点を見つめたまま言う。 「記憶に障害が残るほど、酷い事をされているんではないかと」 …………かつてのボクのように。 「もしくは、それを隠すために記憶をわざと…」 「、なわけねーだろ!」 サニーが強い口調で言った。 「サニー?」 サニーの異常なほどの剣幕にココはたじろいだ。瞬時に沈黙が走り、重い空気が漂う。 その空気をサニーがばつの悪そうな面持ちで破った。 「…リンが一日中付いてっから、安心して良」 「え?」 「、のために、レがIGOに掛け合ったんだし」 サニーの言葉に、トリコが続く。 「オレたちに黙って蒼衣に余計な事しないように、だ。リンならオレらの味方だからな」 最高のガーディアンだろ?と言うトリコの言葉に、ココは驚きを隠せなかった。 「…一日中なんて知らなかった。てっきり仕事の合間に面倒見てくれてるものだと」 「え?!サニー?言ってなかったのか?」 「おま、それ!…リコが伝える役じゃね?!」 トリコとサニーは顔を見合わせた。その後二人して、すまん、とココを見る。 ココは暫く呆気にとられ、次の瞬間、ぷっと吹き出した。重い空気が一掃された。 「……そんな素晴らしい事を隠してたとはね。だったらアレを出そう」 指差した先に、一本のボトルが光る。ココは立ち上がり、それを手に取った。 「あぁっ!ココ!何でそんな良い酒持ってんだよ!」 トリコが立ち上がった。 「、まえ飲まねーんだろ?ォレに寄越すし!」 サニーも続く。 「いや、これはもう売約済みだよ」 「「誰に?!」」 不意にバスルームに続く扉が大きく開いた。湿気を含んだ温かい空気が流れ込んだ。 「出たし〜!」 リンに続いて蒼衣も顔を出した。つややかな頬は赤みを帯びていて、二人の上機嫌を物語っていた。 「ちょ、おま!早すぎね?!」 サニーがリンを指差して言う。 「『美肌の素』だけでもう十分だし!残りは蒼衣と半分こしたし〜」 リンが頬を摩りながら言う。 「トリコどうだし?!このすべすべ!プルプル!」 「…………おぅ」 トリコは素っ気無く答えた。 「これが『美肌の素』の香り?甘くて柔らかい、ボク好みの香りだ」 いつの間にかココが、蒼衣の耳元に顔を寄せていた。 「ほっぺも柔らかい…ね」 不意にキスをされた蒼衣の顔が、逆上せたように濃い朱に変わった。 「……まえ、臆面もなくよくそんな…」 サニーがココの素早さと手の早さに引き攣った。 リンはその光景に目を丸くした後、トリコに向き直った。 「何かずるいし!トリコもこっち来るし〜」 「オレはここからでも十分嗅げた」 トリコはリンに目を合わせずにきっぱりと言い放った。 「そうじゃないし!バカトリコ〜!」 「あぁそうだ、これ。リンちゃんに」 本気で悔しがるリンの手に、ココはボトルを渡した。 「日頃の感謝をこめて。ありがとうリンちゃん」 「え?ど、どういたしまして?」 リンは意味が分からず、受け取ったボトルとココの顔を交互に見た。 「ちょ!それってリンにかよ!」 サニーが勿体無いと喚く。 「当然だよ。ボクの蒼衣が一番お世話になってるんだから」 ココはそう言うと、何やらリンに囁いた。 トリコの頬がぴく、と微かに動いた。 ココの言葉を最後まで聞いたリンは、瞳をキラリと光らせた。 「トリコ……」 「……何?」 その瞳を向けられたトリコは、背中に嫌なものを感じた。 「欲しかったらこっちに来るし〜」 「ココてめぇ!リンに変な事吹き込んだな?!」 うろたえるトリコの言葉に、ココは違うと首を振りつつも笑いを噛み殺していた。 リンはボトルを両手で抱えて、トリコの様子を伺いながら一歩二歩とゆっくりと近寄っていく。 「な、何だよ、リン?!」 「来ないならウチから行くし〜」 「はぁっ?!」 「お酒とすべすべとプルプルを味わうし!」 「何?何この拷問?!ちょ!待て!待てってば!!」 トリコの裏返った声が響くと、サニーはまたかと苦笑し、蒼衣はココと、ココの腕の中でくすくすと笑った。 ← → |