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おじさんが出て行った次の日。
俺は学校をサボることにした。


いつもはおじさんが家にいるから、家で引きこもるなんて罪悪感で到底無理だったが、おじさんは3日間ほど帰ってこない。俺はこれを機にじっと家の中にいることにした。




俺はおじさんのことをおじさんと呼ぶ。
おじさんは俺の父さんでもないし、家族でも親戚でもないからだ。

おじさんは俺を誘拐した日から約2年間俺を家に閉じ込めていた。
といってもほぼ軟禁状態で、こんな山奥誰も寄り付かないから、ほぼ、外で走り回ったりして遊んでいた。別におじさんは暴力を行うわけでもなかったし、食べ物を与えないなどの虐待をするわけでもなかった。むしろお菓子やご飯を好きなだけ食べさせてくれて、甘やかしてくれる方だった。テレビなどで放映されるような危ないことは一切行われず、俺はただ単純におじさんと暮らしていた。


そして俺が家出したのは、俺は勉強が嫌いだったからだ。
学校や塾といった環境も嫌いだった。なんで嫌いかはハッキリしないが、この俺のいい加減な性格と合わなかったのかもしれない。


−−−甘い蜜を吸うために俺は代償行為を繰り返す。どちらかうまい方へ『引き換え』ていく、そういういい加減な性格なのだ。



おじさんは誘拐と『引き換え』に甘い蜜を吸わせてくれた。

勉強が嫌いだった俺はおじさんと出会ったことで、結果的に2年ほど学校に通わなかった。


俺としては煩かったあの親も、いつのまにか俺が失踪した2年の間に母父共々死んだらしい。
母父は駆け落ちをしていたから、彼らを心配する親もいないし、彼らが俺を産んでいることなんてすら知らない。俺の失踪は未解決のまま幕を閉じていた。


そうして、中学に上がってからはいつの間にか俺はおじさんの養子になっていた。

どうやったかのかは知らないが、俺は戸籍上彼の身内になった。

でも彼はおじさんだ。お父さんと呼ぶべきではない。おじさんも俺のその意思に従ってくれた。

だから俺はおじさんの養子となることで、自分の好きな生活を『引き換え』にした。



おじさんはなんだかんだ心配性だ。
俺の将来を心配し、高校まで通わせてくれている。

どうせ適当な形で受けた高校だったのだが、おじさんはそんなに博した給料はもらっていないのに無理に高校へ行かせてくれた。40歳手前の独身のおじさんは結婚する様子も一切なく、家から俺を追い出す様子もない。本当に俺に優しくいのだ。なら、俺はせめて卒業はしようと思った。だからうまい具合に高校へ行き、程よい成績をとって、良いバランスのところを突く。


大学は流石に行きたくないから、このままふらりふらり、おじさんと一緒に働こうかな、なんて思ってる。理由はおじさんのことは別に嫌いじゃないからだ。ちゃんと感謝もしてる。

俺とおじさんは曖昧なバランスの関係を持ち続けているのだ。


「おじさん早く帰ってこないかなぁ…」


俺は無感情にそう呟いた。










○○○○○○○○




あれから、3日経った。
おじさんが帰ってくる日だ。



俺はダラダラとしたTシャツを脱ぎ捨て、洗濯してあったYシャツに手を通した。学校の制服に着替えて身支度を済ませると、そのまま部屋の中を片付ける。


おじさんはいつ帰ってくるかわからない。だが部屋はきちんと片付けて、学校にも行っている素振りをしなければならなかった。余計な不安を煽らないためにだ。

食べ物やゴミなどをまとめてゴミ袋に突っ込んでは紐を括る。いつもはおじさんがトラックでゴミ袋を運んでくれるが、学校に行く途中で近くの団地のゴミ捨て置き場に捨てるため持っていこうと決めた。

結局ダラダラと漫画やテレビを見て過ごした3日間は大変有意義で大変退屈で、今日は遅刻してまでサボる気は起きなかった。


ふわぁ、と欠伸しながら家を出ると、鍵を閉め、ペラペラの鞄とゴミ袋を持って山を出た。





途中でゴミ袋を無事に捨て、通学路を歩いていく。
いつもの道を歩いていくと、繁華街を通っていく際に見慣れた姿が目に入った。

ゲーセンの前でじっと立っていた彼も、すぐにこちらに気づく。


「万智!」
「冬織。おはよう」
「おはようじゃないよ!どこ行ってたんだよ!なんで学校に来なかった!」


冬織は俺の前に勢いよく出てくると、顔をぎゅっと顰めて大きな声を上げた。
あー、また不機嫌な顔にさせてしまったな。


「ごめん。家にずっといた。体調悪かったんだよ」
「なんだよっ!スマホ明日返すって言ったじゃん。なんで、次の日学校来ないんだよ!連絡も俺からできないし、俺、万智に何かあったかと思って…不安で……」
「ごめんごめん。本当に家で寝てたんだよ」

怒った顔から落ち込んだ顔を見せる冬織を宥めるように、背中へ手を回す。
しかし、背中に触れる前に冬織に腕を掴まれた。

「ねえ、どうして連絡してくれなかったの?何かあれば連絡するって言ったよね?俺と約束したよね」
「ご、ごめん…。それは忘れてた…」

馬鹿正直に答えてしまったが、実際、冬織に連絡する程の大したことは起きていない。本当に家の中でダラダラと過ごしていただけだ。
ごめん、ともう一度謝るが、冬織はまだ何か聞きたいようだ。

俺のスマホを取り出してはこちらに携帯のディスプレイを見せてくる。


「万智、それにこのおじさんって人だれ?ずっと頻繁に連絡来てたんだけど、どういう関係なの?」
「あ、それは俺がお世話になってる家の人だよ。多分今遠くに仕事に行ってて、心配して連絡してきてくれてたんだと思う」

冬織からスマホを受け取れば、「今日の正午に家に帰る」とおじさんから連絡が来ていた。
お昼には帰ってくるんだ、おじさん。


スマホの画面を閉じて、冬織の顔を再度見る。
冬織は不機嫌な様子のまま、なんだか煮え切らない顔をしていた。

「…その人とは何もないんだよね?危ないことは?」
「何を心配してるんだ、冬織?おじさんは俺の面倒を見てくれる良い人だよ。高校にも通わせてくれるめちゃくちゃ優しいおじさんなんだ」
「そうなんだ………」
「うん。……もしかして、冬織まだ怒ってる?連絡しなかったのは悪かった。欠席するときはお前にだけ言うよ。ズル休みも報告したほうがいい?」
「なっ…そういうことじゃない!そもそも無断で欠席も遅刻もしちゃダメだろ、万智は!」

そう言って冬織は顔を赤くして怒る。
さっきの顔とは打って変わって、少し気の抜けた怒り顔だ。
ガミガミと怒る冬織だったが、俺は話題がすり替わったことに密かに安堵した。







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