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「ヒコたん〜」
「お、裕里おはよ」

雅彦ことヒコたんは俺の顔を見るとニコリと爽やかな笑顔を見せた。カッコイイ。
明らかにそこら辺の人間と違う圧倒的高顔面偏差値。スポーツ刈りチックな短髪も違和感なく似合ってる。ちなみにヒコたんはサッカーもやってる。


周りのクラスメイトの不快極まりない視線を向けてくるが、俺はそれを徹底的な無視し、ヒコたんに気になってたことを聞く。

「ねえ、ヒコたん。そういえば昨日連絡したのに、返事なかったけどどこにいたの?」
「確かに朝見たら沢山の通知来てたわ。家にいたけどどうした?」

くり、と綺麗な黒瞳がこちらを見る。
嘘とか汚れなんて一つもない澄み切った瞳だ。その瞳は俺も好き。
でも、天然すぎて鈍感なヒコたんは少し嫌いである。

「家にいたのにスマホ見てなかったの?連絡したのに返事こなかった……俺、ヒコたんのことめっちゃ心配したんだからね?それにスマホ見る暇がなかったってなに?もしかして誰かといた?女??ねえ、だれだよそいつ」

嫌な予感がして早口で捲し立てる。ヒコたんは人の善意の裏を気づかなさすぎるのだ。
ヒートアップして口調が強くなってしまう俺に対し、ヒコたんはキョトンとした顔を一瞬するが、すぐに面白いことがあったように破顔した。

「裕里、そんなわけないだろ。俺に彼女いないのだって、お前知ってるじゃないか。そうか〜ごめんな、心配かけて。ずっとゲームに集中してて気付かなかった」

ヒコたんの少しおっきな掌が俺の頭に触れた。
安心させるかのような、でもちょっと髪の毛を擽るような柔らかい手つき。
その優しいヒコたんの頭撫でに、好きピが大好きすぎておバカ爆発な俺はお怒りゲージがシュン、とすぐ治ってしまった。相変わらず単純すぎる。
でもヒコたんから悪意は一切感じられないから、嘘ではないのかもしれない。

「それ本当?ヒコたん」
「うん。俺がお前に嘘ついたことあるか?」
「ないかも…。…でも、次からはちゃんと気をつけてよね」
「おうおう」

そう快活に返事すると、わしゃわしゃと俺の髪をかき混ぜるヒコたん。
他のやつにこんな触られ方したらまじブチ切れもんだけどヒコたんならというかヒコたんだから許してしまう。…うん、やっぱもうちょっとだけ撫でてもらお。


そんなこと思いながら、俺はわざと大人しくする。すると、いつになく俺が大人しくなったせいで周りの雑音が嫌によく聞こえてきてしまう。

「あいつ、また雅彦に引っ付いてるし…なんで雅彦もアイツ構うんだよ」
「雅彦も優しいから突き放せないんだよ、きっと。本当可哀想」
「でもさ、あんなメンヘラ構う方が地雷じゃん?アイツの方がやばすぎだろ。絶対何か裏があるって」

メンヘラ製造機。

クスクスと、俺どころか雅彦まで嘲笑する悪口が聞こえてくる。
神様みたいな雅彦のことまで愚痴るなんて…。マジでアイツら死ねばいいのに。生きてる価値ねえんだよ。それとも俺がネットの力でお前らを社会的に殺してやろうか。


殺意が湧きすぎて思わずキュッと雅彦の袖を掴む手が強くなってしまう。
雅彦もそれに気づいたのか、そっと静かにその手を包み込んでは、指を絡ませた。
ふと、唇が耳元に寄る。

「…あんなの気にしなくていいから。俺は裕里といたくているんだから」
「ヒコたん…」

思わず泣きそうになってヒコたんを見上げる。それにヒコたんはニッと笑った。なにそのキラキラな笑顔、満点、俺今死んでもいい。


ちょいちょいと俺もヒコたんに手招きをする。
ヒコたんは「ん?」とこちらに顔を寄せてきた。
ヒコたんの横顔にそっと近づく。キスできそう。


「ヒコたん好き……」

そっとヒコたんに耳打ちする。

「ん、俺も裕里のこと好き」

そう言ってヒコたんはいつも通りのキラキラした眩しい笑顔を見せた。
あー、もうやばい、本当大好き…。

ヒコたんは一生俺の神様。

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