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「はぁ?メイド喫茶?」
「あぁ、この前の金曜日に多数決で決まったんだ」
「それはわかったけど、なんでヒコたん当番になってるわけ?は?メイド服着るって何???」
「いや、俺もどうかとは思ったんだが、みんなが言うからさ」

ハハハ、なんて笑ってヒコたんは恥ずかしそうに頬を指でかく。

「でも、まあいい思い出になるだろ。せっかくのイベントなんだから、裕里もみんなと楽しめるといいな!」
「えっ」

いやいやいやいや。絶対無理っしょ。てか、なんでヒコたん案外ノリノリなわけ??はぁ????????




結局体調崩して金曜日欠席してしまった俺は土日休日を経て学校へとやってきたのだが。

いつも通りの日常を送ると思って5限目を終了し、放課後でさっさとヒコたんと帰ろうと思ってきた矢先、とんでもない話を告げられた。


『裕里、そういえばうちのクラスはメイド喫茶をすることになったぞ!』


え?何が?

まずはポカン、と。
そして、文化祭という言葉を聞いて、そういや近々文化祭シーズンになるなぁと思い出す。
そしてうちのクラスの出し物は俺が居ない間に「メイド喫茶」に決定。まぁ、ありがちな出し物だなって感じ。

そこまでは良かったのだが、



『裕里の担当はまだ決まってないんだ!一応裏方になると思うが、それで大丈夫か?あ、俺?それがな!俺、接客の担当になったんだが、メイドさんをやらないといけないことになっちゃたんだよ〜いや、まさかメイド服着て女装するハメになるとはなぁ。ハハハ!』

いやいや、なに笑ってんだよ、ヒコたん。そこは全力で拒否しろよ!!!



メンヘラの俺からしたらそういう学校行事かつクラスの団体戦は躁と鬱を繰り返しやすいため、なるべく学校に出てきたくない。

多分、そのことがクラスメイトもわかっていたんだろう。俺が欠席になると思って、勝手に出し物決定され、勝手に裏方の方へまわされていた。いや、しかし、何これ?一応俺、クラスメイトだけど、完全に俺の意見聞く気ないよね?しかも、その話をどうして俺に誰1人してこねえんだよ、朝からいただろうが。なんで、一日が終わった今、ヒコたんから話を聞かされてるわけ??は?何、俺が嫌われてるから????



……まあ、それはいいよ、まだ。

なんでヒコたんが『メイドさん!!!』やることになんだよ!
女装とかヒコたんに絶対似合わねえに決まってんだろ!あんな筋肉ムキムキの爽やかイケメン、ふりふりのスカート似合うと思ったわけ?!どんな眼と頭してたらそんな発想になるんだよ!?体はバチバチだし、スカートから見える足もサッカーやっててゴリゴリの筋肉質で最悪だぞ!センス悪すぎか!誰だよ最初に言い出したやつ!!



そんな俺の心情とは反対に、メイド服を着ることになぜか満更でもなさそうなヒコたん。

俺はそんなヒコたんの態度へ次第にイライラとしてくる。

「ヒコたん、やめてよ。なんでヒコたんがメイド服着ないといけないのか意味わかんない。ヒコたんかっこいいんだからそういうのやめて。絶対似合わないもん!」
「そうかな。でも、俺の衣装の案までもう決めてくれたらしいんだよ。それで、今日早速採寸しようって話になってるんだ。ここにきて、やめるなんていったら、今まで頑張ってくれた皆に可哀想じゃないか?」

え、なんでそこでヒコたんの善意ムーブが起きるの。
ヒコたんにはそもそも男のプライドがないの?メイド服着ることにもう少し躊躇いを持ってよ!

「でもさ、ヒコたん!」
「おーい、雅彦〜〜!今から採寸するよ〜!」
「あっ、裕里ごめん!話の途中なんだが、係の人に呼ばれてしまった!まあ、クラス皆は納得してくれているからさ、俺のメイド姿見苦しいかもしれないが許してくれ。それに俺のために皆も頑張ってくれてるんだ。…裕里なら、わかってくれるはずだよな?」

え?わかんないわかんない。全然わかんない!てか俺の性格上、そんなので納得したことなかったでしょ、ヒコたん!
あぁ〜〜〜ほんと何この展開?イライラしてきた。

「ほんとまじ、許せねぇ。ヒコたんにメイド服着せて大衆に晒して回るとか……マジぶっ殺す……」
「お!裕里、わかってくれたみたいだな!それじゃあ待たせると申し訳ないから、ちょっといってくるな!また後で!」
「えっ?」

ヒコたんには俺の言葉が聞こえていなかった(通じていなかった?)のか、爽やかに俺に手を振ってはそそくさと採寸しにクラスメイトの女子達の方へ行ってしまう。

え、まじでやるの…?嘘でしょ、ヒコたん…。
 


ガーン、と言う効果音とともにヒコたんに聞き入れてもらえなかったショックから頭が冷えて、俺の脳みそはむしろ冷静になっていく。

…そうだ、ヒコたん、こういう学校イベントごと大好きなんだった。みんなで協力して頑張るっていうのに一番熱くなっちゃうタイプだ。だから、俺1人がいくら言ったとしてもみんなのために頑張ろうな!って言い出して聞かないんだ……。
絶対、体育祭とかの最後の締めに男泣きするタイプじゃんかヒコたん。


キャイキャイと楽しそうに衣装係と話すヒコたんとは対照的に俺はポツンと取り残されて立ち尽くしてしまう。

今からどうする、俺?

…でも、今更他のクラスメイトと仲良くしようとしても、大抵浮いちゃって、結局気分最悪なまま終わるし、今から1人で帰ってもまた虚無の時間が待ってるだけ、あの部屋で何もすることがない。
しかも、金曜休んだおかげでもう3日もヒコたんに会えてない俺だ。そのせいで、ヒコたん欲求不満な俺はここで帰るのがなんだか悔しかった。


もちろん、文化祭の準備でクラスメイトも結構な人数、教室に残っていた。

ヒコたん以外で話せる人間といえば、ちゃんさやぐらいだけど、ちゃんさやはどうせこういう時自分が目立つようなことをしたいから、俺みたいな隠キャ無視するだろう。ヒコたんがいない間、わざわざ普段話さない他のクラスメイトに話しかけて、寂しい気持ちを紛らわすこともする度胸もない。




結局俺はカバンを持って、すみっこのドアのすみに寄った。


(ヒコたんは俺がこんなとこで沈んでるのを見て、罪悪感に苛まれたらいいんだ…)


そう思ってふん!と地面に座り込む。


(でも、どうせ今のヒコたんには俺の姿なんて視界にも入ってないんだろうな)

そう思ったら俺は、今すごくすごく死にたくなった。



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