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シーンと静まり返る家。
外からは「ユーリーー?」と俺を探し回るチョンの声が聞こえる。カタカタと思わず肩が震えれば、俺の肩を掴んでいたピドゥルギの手も振動したのがわかった。

そのままチョンの声が遠ざかっていく。また静けさを取り戻した一体に、チョンがもうこの辺りにはいないことがわかった。

突然腕を離されて、もたれていた場所がなくなる。そのまま体がよろけそうになったのを慌てて堪えると、ピドゥルギがフンと鼻を鳴らした。

「余所者はこんな夜中にまで礼儀も知らねえんだな。もういいだろ、さっさと出て行けよ」

はい、わかりました。なんてことはそんなすぐにはできない。
この格好でそのまま外に出ればチョンに見つかる可能性もあるし、捕獲されたら次こそ何をされるか全く分からない。ただでさえピドゥルギにも貧相な体を晒してるのに、他の人間にこんな格好見せたら…それこそ街から身ぐるみ一つもなしに追い出されてしまうかも。

そう思うと、俺はこの場から動くことはできなかった。
じっとして俯く俺に不機嫌そうに首を曲げるピドゥルギ。俺の顔を覗き込むように一歩前へ出てくる。
「おい、出て行けよ」
「…っ。ピドゥ、ルギさんっ、お願いだ、一晩だけでもいいから、助けてくださいっ」
「はぁ?なんで俺が?わざわざお前の面倒見なくちゃいけねえんだよ」

突き放すような言葉に心臓が冷える。ここで追い出されてしまえば、もう頼る場所はない。チュムがピドゥルギをわざわざ指名したことに何か意味があると思った。
必死にピドゥルギの煌びやかなコバルトブルーやエメラルドグリーンの装飾をした衣服へ縋り付く。跪いてもいいとそのまま腰の方へ必死に手を伸ばした。

「はっ、や、やめろ!」
「お願いです…!何もいりませんから…!本当に一晩ここで匿ってほしいだけなんです…!お願いしますっ」
「ちょ、おまえっ、し、しがみつくなっ!……ックソ!わかった、わかったから!」

追い出される前にピドゥルギの方が折れたみたいだ。
本当かどうか。バッとピドゥルギの方へ顔をあげれば、眉が何重にもしわになっていたのが見えたが「泊めてやるから退けよ」とピドゥルギは呟いた。


「ありがとうございます…っ」
「一晩だけだからな」

そう言うと俺から離れたピドゥルギは部屋の方へ向かう。俺もそのままピドゥルギの後ろをついて行く。
チョンの家とは違って簡素な作りをしている部屋は、ベッドやテーブルなど最低限のものしかない。木でできた壁が大きく目に入るため全体的に茶色い。


「わぶっ」

ボーッと部屋の様子を見てると、突然何かを頭から被された。
真っ暗になる視界に慌てて遮るものを触ると、それはすべすべとした布だった。布から急いで顔を出す。するとピドゥルギが目の前におり、こちらをいつもの冷めた目で見ていた。

「色気のねえ体晒してんじゃねーよ。それともなに?おまえそういう趣味なの?」

ピドゥルギの目線と肌から直に伝わる布の感触に、自分が裸でいたことを思い出す。
俺は慌てて布で体全身を包んだ。

「ち、違う。これは慌てて…」
「は?おまえの事情とかどうでもいいから。俺これから寝るけど何も触んなよ。もちろん俺にも。ベッドにも絶対あがってくんな」
「え…。じゃ、じゃあ、俺は…どうしたら…」
「地べたにでも座っとけば?」
「え…」

床からヒヤリとした冷たい温度が伝わってくる。薄い白地のシーツに身を包まった俺だが、なんせ裸の上から羽織っているせいで肌寒い。

(せめて服か、ベッドで寝かせてほしい……)

しかし、ピドゥルギはこれ以上話すつもりはないと、ベッドに寝転がって俺に背を向けてしまう。

「あ、あの…」
「…………」

俺の声に完全無視だ。もう2、3度声をかけてみたが、いきなり腕を持ち上げたかと思うと、壁をダンッ!と強く叩いて威嚇された。
…俺はこれ以上懇願するのはやめにした。

電気を消して真っ暗な部屋の中。俺は仕方なく、壁の方へ座り込む。なるべく冷たい床に触れないよう薄いシーツで全身を包み直して、ギュッと縮こまる。せめて体力だけでも温存しようと小さくなる悠李だった。








ドンッと体がいきなり床にぶつかった。
重たい瞼を無理やり開けながら、顔をあげれば微かにもれる光からオレンジ頭が見えた。ピドゥルギだ。

「おい。いつまで寝てんだ、起きろ」
「…っ、ぁ、は、はい…」

シーツを引っ張り上げながら、床から体を起こす。結局、昨日は部屋の隅で座り込んで眠っていたようだ。
ピドゥルギはもたつきながら体を起こす俺に苛立ったようで、布ごと無理やり腕を取られた。
そのままグイッと力強く引っ張ると、無理矢理どこかへ移動させようとする。

「っ、ま、まって…!」

体が倒れそうになるのを堪えながら、ピドゥルギに強引に玄関の方へ連れて行かれる。そのまま扉の前へきたかと思うと思いっきり背中を右足で蹴られた。そのまま押し出される形で草の生えた地面に倒れ込む。
思わず顔から倒れ込んでしまって鼻が痛い。なんでこんなことをするんだと振り返れば、オレンジ髪をズボラに下ろしたままのピドゥルギが見下ろしていた。
「もう朝だろ。一晩泊まらせてやったんだ、さっさと出て行け」
「っも、もうっ…?」
「は?なに?一晩だけ泊まらせろって言ったのはアンタだろ。俺も暇じゃねえし、勝手に上がり込んできといて我儘言ってんじゃねーよ」

確かにそう言われてしまうとなにも言い返せない。それでもこんなまだ早朝とも言えるべき時間帯に家を追い出されてしまうのも困った。
渋った様子でうろたえていると、ピドゥルギは「なんだよ!文句あんのかよ!」と吠えてくる。
「おまえ、ここから出て行けよ。お前みたいなのが来るべき所じゃねえんだよ、ここは。他のやつに引き留められる前にさっさといなくなれ」

そう言ってピドゥルギは扉を思いっきり引く。

「あっ、まって!帰り方が…っ!」
「やってきたのはてめーなんだから、帰り方ぐらい俺らよりもずっとわかんだろ。あ、それと、その布いらねえから勝手にしろ」
じゃあな、とも言わず扉をピシリと完全に閉められてしまう。

ピドゥルギに今度こそ本気で追い出されてしまった。
なんだかそれに暗い気持ちで、地面から立ち上がろうとすれば、昨日身体を十分に休ませられなかったのか、節がギシギシといたんだ。

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