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「おい、いつまで飲むんだよ…歩麻(あゆま)」
終電をなくすのではないかと俺はヒヤヒヤした。一人暮らしではあるため帰る時間帯は別に気にしないが、なんせ眠い。男たちでオールしてカラオケ店で始発なんて待つとなったらろくなことがないのはよく知っている。

「求(もとむ)、諦めな。ここからじゃ駅まで走っても追いつかねーよ」
「は…?だって歩麻がまだ飲んでも間に合うって…」


俺が呆然とそう呟くと一緒に飲んでいた歩麻の友人二人は顔を見合わせてなにか思案したが、こちらを見ると両手の手のひらをくっつけて苦笑した。

「…すまん、求!」

――最初から嵌める気だったのか…!
歩麻を中心にグルとなり、彼らは俺に終電を逃させるつもりだったのだ。
ハッとして、慣れない電車の時刻アプリを起動させて急いで確認する。しかし、最終電車は当の30分前に出発してしまっていた。終電を、逃した。

「求!そんな辛気臭い顔すんなって〜!いつもお前さっさと帰るからつまんなかったんだよ、今日ぐらいは飲み明かそうぜ?」
「歩麻!お前体調悪いとか言ってたのも嘘だったのか!」
「俺がこのぐらいで酔っ払うわけねーじゃん」

そういって歩麻は茶髪の頭をぐりぐりと肩に押し付けてきた。なんてやつだ。
俺は歩麻の頭を無理矢理退かした。ズトンと彼の体は支えるものを失って座敷の下に倒れたが、放っておく。

「求、ごめんな。こいつがどうしてもって言うからさ。それに俺たちもまだ求と喋りてぇし」
「そうだよ、せっかく仲良くなれたんだしさ。飲もうぜ」

歩麻の友人たちは俺をなだめるようにそう言うと、グラスに酒を注ぎ、皿の上に唐揚げなどのつまみを置いた。
三人で自分を嵌めたのは気に食わなかったが、ここで自分が意固地になっても仕方ない。特に今回初対面であった2人に気を遣わせるのもなんだか居心地が悪かったため、俺はしぶしぶ酒に口をつけた。
歩麻の友人は思っていたとおりチャラいというか派手な感じはあったが、寡黙である自分に対し彼らは大変盛り上げ上手だった。店員にも積極的に絡みに行き、話しかけづらいとよく言われる俺にもフレンドリーに接してくれた。気もよく回り、実際、自分はほぼ接待されているような感じだった。だからこそ、彼らに不躾に当たる事もできなかった。

そしてその友人たちを連れてきた歩麻はというと、彼もいわゆる陽キャと言われる部類で、こういう飲みの場にはたいへん慣れている感じだった。彼も大概調子が良くて、学部の授業はろくに出ないくせにレジュメやペーパーの答えを教えてくれる友達がたくさん存在する。ヘアモデルをしていたり、芸能事務所に声を掛けられたりするほど容姿が華やかであることも彼の目立つところだろう。

なんの縁なのか、そんな人気者な彼と俺は飲みに誘われるほど仲良くなってしまった。確か1年のときに授業がよく一緒だったから声を掛けられたことが始まりだった気がする。派手な彼とどちらかというと隅っこにいるタイプの俺。大して共通点もなかった俺らだが、なぜか気が合ったのだろう。リアルが充実している彼とプライベートで遊ぶということは大してなかったが、大学では常に行動を共にしていたぐらいには仲は良かった。

(久しぶりに誘われた飲みなのにオールするなんて…俺の体持つか?)

歩麻たちのような毎日飲み会開いているようなパリピじゃない俺にとって、酒自体も久々すぎる。オールの流れでハメはずさないといいな、と皆に聞こえないようにため息を付いた。



********

それから1時間ほど店で飲み、時刻は夜中1時になろうとしていた。
結構乗せられて飲んでしまったせいか、頭がややぼんやりとする。体全身がなんとなく暖かい感じもするが、気分はそこまで悪くなかった。盛り上げ上手な三人のおかげだろう。最初は少し気が落ち込んでいたが、飲んでいるうちに気づけば楽しんでいた。

(毎回こんな感じであれば、たしかに沢山の友人から毎日パーティーのように飲み会を誘われるだろうな)

次の店へ行こうと、飲んでいた居酒屋を後にする。外気は店内よりは少しひんやりとしていたが、酔いが覚めるという程ではなかった。

ふらりと足が傾いた。体が斜めになるのをそばにいた歩麻に支えられてしまう。

「求、結構飲んだ?」
「うん…いつも飲まない量は飲んでる…」
「求、大丈夫?一旦コンビニ寄る?」
「ううん、大丈夫だ。なんだか少しボーッとするだけ。気分はいいよ」

支えられていた歩麻に凭れ掛かる感じで歩いていると、歩麻の友人が心配そうに声を掛けてくれたが、大丈夫だと念を押した。吐き気もないし、むしろちょっと飲みたいぐらいだ。


「求、もっと飲める?今から面白いとこ連れて行こっか?」

歩麻が肩を抱きながら耳元でそう囁く。
歩麻のことだ。きっとセンスのいいバーにでも連れて行ってくれるだろう。
飲み足りていないと感じる俺はこくんと素直に頷くと、歩麻は「よし決まり!」とそのまま肩を押した。








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