白髪赤瞳と三兄弟1


勝手に身も知らない男達に俺を引き渡した母親はシワになった目を引いてうっすらと微笑んだ。

「うまくやっていくのよ」


洋服に身を包んだ男達と共にガタついた馬車に乗せられる。男達を見比べてはヨレて自分の背丈に合わないボロ雑巾のような着物が恥ずかしくなる。
馬車は山中を越えて開けた田畑を脇目に軽快よく進む。

どういう理由で俺はこの男達に連れられているかはわからなかったが、こんな立派な乗り物や衣服を見繕うほどの金がある者が糸を引いてることは理解できた。老人のような黒系一本もない白い髪を指で引っ張って不安を誤魔化す。


どれくらい揺られたのだろうか。それは突然で、馬の足音がやみ、馬車籠が揺れた。
男達はそれを合図に椅子のそばにある木板の扉を開ける。次々に順序よく降りていく男達を見れば最後の男がお前も降りろと顎で示した。



素直に従い、白ワイシャツの後ろ姿をついて行く。大きな門を超え広い屋敷へと足を踏み入れた。あっという間に目的についたようで男達はこのあと自分一人で行けと扉の前で俺を解き放した。行くあてもないので静かに襖を引くと、広い畳の部屋に少し老けた男と階段のように3人の男子供が並んでいた。
ぼんやりとその様子を眺めると、いきなりピシャリと後ろから音がした。中に入ったのと同時にあの男達が襖を閉めたのだ。まるで閉じ込められたような雰囲気に白髪と同様の白眉が嫌そうに傾いた。

「お前は来(らい)か?」
突然1番年のいった男に話しかけられる。
汚れた紺の着物とは対照的に透き通るような白髪と印象的な紅の瞳の少年は「はい」と答えた。
「そうか。
こちらから殊夜(ことや)、朝貴(あさき)、夕晴(ゆうせい)だ。来、お前は今からこの子達の弟だ。お前の母とも話はついている。仲良くにな」

一方的に男はそういうと、興味を無くしたように部屋を颯爽と出て行ってしまう。身なりの良い子供達は「父上かしこまりました」と頭を下げるが、白髪の少年はよく自体が飲み込めず固まってしまう。

1番背の高い男子が固まった来に声をかけた。
「何も聞かされてないみたいだね。父上はあんな感じで、僕らの母上は昨年息を引き取った。
色々な整理をつけていたところ君の母君の存在があがり、訳あって君は僕たちの弟となってこれから暮らすことになったんだ」
ペラペラと冷静に解説されて、混乱していた来の頭は他人事のようにそうかと納得してしまった。一応、思い当たる節はあり、母のあの見捨てた態度は俺を金目当ての道具として受け渡したものと理解できていたから状況がすんなりと飲み込めたのかもしれない。

「年はいくつなの?」
背の高い男とおもかげは似るが、顔の印象が薄い物腰の柔らかい男子が興味津々に話しかけてきた。
「10です」
「あ、夕晴と同い年なんだ。夕晴、仲良くしなさいね」
そう言ってこちらにほほえみ、彼の後ろに隠れた1番背の低い子どもに話しかける。夕晴と呼ばれた男の子は不安そうにこちらを見つめては、さらに後ろに隠れてしまう。

わからなくもない。
俺はこの見た目で様々な人間から化け物と虐げられてきたから。



3人の兄になる者たちと目を合わせないよう俺は挨拶をした。
「来と言います。兄上たちよろしくお願いします」





そのあとは新しくはいった来の部屋の割り当ての話になった。
不倫相手の母とこの土地一体を占めている地主かつ大金持ちの旦那の間に踏まれた不貞な子供---来を突然身請けすることになった彼らは彼のために部屋を新しく作らねばならなかった。しかし、使用人は住み込みで働いていて部屋は余っておらず、ほぼ機能のしない父親はこちらのことを我関せずといった感じで直子の三兄弟に来の居所への判断は委ねられた。

「やはり部屋は余っていないようだ。使用人達の部屋を空けるにもしばらく時間がかかる」
長男・殊夜が綺麗な黒の着物を揺らして言った。長男は歳が15で、1番端正な顔立ちをしている。くっきりとした切れ長の瞳にキュッと結ばれた薄い唇。鼻筋も通っていて、女ウケの良さそうな顔をしているが、冷たい雰囲気を漂わせているようにも受け取れた。
「それだったら、僕の部屋へおいで。荷物は……なにも持ってきてないんだろう?いろいろ不便があるようだし、お世話をしてあげよう」
長男とは打って変わって、優しく話しかける次男は朝貴という名で歳は12だ。長男のはっきりとした顔立ちと比べ、顔のパーツは悪くないが印象は薄い顔をしていて凡庸な雰囲気も与えている。ほかの人間達と違って次男は怪奇の目もせずかといって恐怖の色も見せず、ゆっくりと話しかけてくる。それは俺は不可解に思えたが、初めての眼差しに少し胸の鼓動が大きく聞こえた。

「え!朝貴兄様、僕を置いてくの?やだやだ」
次男の裾にべったりとひっついていた三男が目を潤ませて泣き出してしまった。
三男は夕晴といい、俺と同い年だ。目はまんまると歳が10にしては大きく、どちらかというと長男の顔立ちに似ていた。しかし、まだ幼子であるためぽちゃりとほっぺたが大きく、甘えたがりな印象が強かった。

泣きじゃくる三男に次男は慌ててかがんで目線を合わせる。次男も三男も着物を着ており、薄紫の次男の着物が三男に触れていたところだけ濃い青紫色へと変化した。
「夕晴、そういうわけじゃないんだ。来は初めて来たばかりだろう?勝手もよくわからないことがたくさんあるから兄上が面倒見てやらねばならないんだ」
「朝貴兄様と離れるなんて嫌です!僕が12になるまで一緒にいてくれると言ったではないですか!僕を置いていかないでください!!」
そう大声をあげては、わんわんと泣き休む様子のない三男に次男は困り果ててしまう。長男も三男を慰めるように背をさする。
長男はしばらくその様子をみていたが、自分の中で諦めたようにため息をつき、白髪の来へ話しかけた。

「来、確かに朝貴がいう通りわからないことがたくさんあって1人では困ることがあるだろう。
私が面倒を見る。私の部屋は1番広いからお前も居やすいだろうしな」
兄上、と朝貴が殊夜の顔を何か言いたそうに見上げた。
「そいつの部屋ができるまでだ」と殊夜が言えば、朝貴が安心したようにありがとうと微笑んだ。そして、朝貴は夕晴が泣き止むまでまだこの部屋にいると告げた。


「そうか。
来、来なさい。私の部屋へ案内する」
長男の顔をした殊夜は躾けるような口調で来にそう言った。自分はこれからのお前の兄なのだと。
来は、大人しく返事をして殊夜の後ろへ着いて行く。
駄々広い畳が敷き詰められた部屋を出て行く間際、同い年の夕晴が朝貴へ慰められている様子が見えた。


(自分はきっと「あれ」を求めてはいけないのだろうな)


来はそう俯瞰して部屋をあとにした。

2/13
prev/novel top/next
clap! bkm


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -