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とうとう夏になってしまった。
俺の命日もあと3日だ。
しょうがない。俺の誕生日は7月の中旬だ。夏休みに差し掛からないのも仕方ない。まあどうせ今年は受験勉強漬けだっただろうから、楽しむことも大してできないんだろうけど。

「郭那」
「あ、仁志…。練習は」
「休み。この前大会終わったから」
「そう…」

そう言うと仁志はガサゴソとスポーツバッグを漁った。バッグでも整理するんだろう。
こういうとき兄弟で共同の部屋は本当に困る。レール付きのカーテンで普段仕切って入るものの気配は感じるし、音だって聞こえる。
寮付きの学校に行けばよかったのに、仁志は自宅通いを選んだ。自宅の方が気が楽らしい。わからなくもないが、世界を目指すならそこまでは覚悟しろと思った。でも、うちの家庭もそんなに裕福な金はないから、そっちの方がいろんな意味で優しいんだろう。だからこそ、俺たちは高校生になっても一つの部屋で一緒に過ごすしかなかった。

ベッドに寝転がりながら、スマホで検索バーを開く。数日しか生きられない俺の生きがいは「自殺方法 簡単」と調べることだった。
最も死にやすいのは二酸化炭素中毒らしい。意識を失ったときには死んでいる、という感覚らしい。寝てる間にぱっとあの世行きである。しかし、この自殺方法は密閉空間が必要で大変場所を選ぶから、俺のようなプライベートの個室のない高校生は妥当な手段ではなかった。そうやって、包丁で刺す?とか水に顔を突っ込む?とかいろいろ考えたり、調べたりしながら自殺方法を模索中だ。案外自殺するのも難しい。人間っていうのは、苦しい思いをしなければ死なないという風に作られているのだ。また安楽死も社会的には望まれないらしく、死にたい人間にとって法律もとても難しいなぁと思った。
生きていても価値がないのに、死のうとしてもこんなに厳しい壁があるなんてな。

そう思いふけながらスマホの画面をスクロールしていたとき、ふと目の前が暗くなった。その瞬間、両手の指で支えていたスマホをひっ取られてしまう。

「郭那、なにやってんの。…簡単な自殺方法?なにこれ、死ぬ気なの」
「お前、勝手に人の携帯を見るな、奪るな。それに…仁志には関係ないことだ」

全く持って仁志には関係ない。弟にはムカつくことはあるが、かれが自殺になったきっかけというわけでもないし、俺が迷惑をかけるぐらいなら死んだ方が社会にとっても家族にとっても有益だと呑んで自発的にしていることである。むしろ彼には一切迷惑をかけるつもりはない。

「どういうこと。首吊って死ぬの」
「仁志には関係ないだろう。それとも部屋のことを気にしているのか?それなら大丈夫だ、ここでは首を吊らない」

もっといい場所を探すつもりだ。人に迷惑かけないような場所。首を吊らなくても海に飛び込んでしまうのもアリかもしれない。電車や車に突っ込んでしまうとたくさんの人に迷惑がかかるから、海なら人間に迷惑かかりにくいだろうし。

仁志にスマホを返すよう手を差し出すが、仁志は睨みつけたままで、返すどころかズボンのポケットにしまい込んでしまった。

「おい!仁志、返せ」
「なんで俺が郭那のいうこと聞くんだよ。これだったら初めから全部壊せばよかった」
「は?仁志、いいから返せよ」
「やだよ、返さねえ。そんなに死にたいなら飛び降りるぐらいしろよ。死ぬ覚悟もろくにねえ癖にメンヘラみたいに一丁前にこんなこと調べやがって。簡単に死なせねえから」

こいつ…なんなんださっきから。
そうだ、仁志は中学になった辺りから俺の言いつけは無視するし、力でねじ伏せたら全て良いと思ってやがる。なんでこんなクソみたいなやつが生きる資格があって、俺みたいなやつは死なねばならないんだ。そんなんだったら初めから神様は俺を生まなければよかったんだ。

生きることに対してこんなにも長い間悩んだのに、何一つ答えはでないし、結果だって一つもついてこない。もっと動物みたいに、『生』のためだけに生きるように作ってくれればよかったのに。どうして価値とか才能とか人生とか考えなきゃいけないんだ。どうして俺は何一つそれに答えを出すことができないんだよ。


やっぱり死に時は今みたいだ。
机の中からカッターを取り出し、首の出血量は致死しやすいことをふと思い出した。引き出しからカッターを取り出す際にチラリとみた仁志の顔は一瞬にして強張ったのがわかった。いつも偉そうな顔して踏ん反り返っている仁志が面食らった顔をしているのは非常にいい気分である。
結構大きめなカッターを持ってきてよかった。深い傷作れそうだ、これなら1発でいける。グリグリとネジを回し刃先を出した。行くなら思いっきりだ、一回で死ぬ。

そう覚悟し、刃先を首元に当てようとした途端。
いきなり脇腹を強くどつかれて俺はそのまま横に吹っ飛んだ。衝撃の強さからカッターは手から勢いよく抜け落ち、俺の体とは反対の方に飛んでいってしまう。

横腹の鈍痛と同時にピリリと左の首筋が傷んだ。きっと吹っ飛んだ時に触れた刃先が肌をかすめたのだ。液体が濡れる感じがなんとなくした。

「おい、何してんだよ。勝手に死のうとしてんじゃねえよ」
「ひと、っぐ」

すかさず仁志が倒れた俺の上に体重をかけ、抜け出せないようにした。仁志の不機嫌な声はいつにもなく低い。両頬をでかい右手で挟まれ、割れてしまうんではないかというほど強い力で掴まれた。無理やり顔を上に向けられる。



「そんなに死にたいなら、死ぬほどの苦しみ与えてやるよ。郭那は『社会的に死ねばいい』んだ」

見たことのない熱と狂気を持った仁志の顔が悪魔のように微笑んだ。









*********

「きつ、っ。まだやわらかくなんねーの。もっと力抜けよ郭那」

うるせえ、ころす、殺す!
声に出してもないのに、仁志の指は俺の奥を無理やり突き進んだ。

「いたぁい、いたい!いたい!」
「だから力抜けって言ったじゃん。郭那が悪い」

そう言いながら、先ほどふやされた日本の指がぐるぐると奥を弄り始めた。気持ち悪い、なんだこれ、俺は女じゃないのに。
嗚咽が漏れて、涙が止まらない。仁志は相変わらず俺の上に跨ったままで、グチグチと嫌な音が尻の方から聞こえる。

「郭那、泣くなよ」
「ん、んんっ」

仁志が何度目かわからないキスをした。唇から舌を滑りこまされて、ヌメヌメしたものが歯筋や内頬を這っていく。舌は絡めとられて、仁志の唾液を塗り込められた。

くちゅくちゅ、実の弟とキスを合わせながら、俺のアナルは拡張される。たまに仁志が胸や太腿を触るのが気持ち悪くて仕方なかった。

(俺たち兄弟なのに、男同士なのに)

そんな言葉聞かないと、仁志は夢中で唇を重ねる。力が強い仁志に敵わなくて、抵抗も出来なくなってしまった。ベッドに沈めた体がどんどん重くなっていく。裸に剥かれ、本来弟に見られるような場所ではないところまで舐められた。

「ねえ、郭那、もういい?もうさ、一緒に苦しもうよ、俺辛いんだよ、こんな人生」

何が辛いんだよ。お前の人生は大いに完璧だったろ。水泳は才能があって昔から嫌だった勉強なんてしなくても学校に受かったし、顔も俺よりは男らしくて、スポーツもできたから女にだってモテたじゃないか。兄にだって力でねじ伏せられて、こうやって今俺はお前の好きなようにやられてるじゃないか。何が苦しいんだよ。何が辛いんだよ。お前は俺よりも生きる意味を持っていられただろうが。

「郭那っ」
「んあっ、ぃ、いやだ、やだっっ、っっ!!」

グチグチと仁志の先端が俺の内側へ入り込んできた。きっと血とかよくわからない体液でベタベタになっていると思う。気持ちいいとか全くない。それでも仁志は息を乱して、口が嬉しそうに開いた。

「郭那…」
「ひと、し、っあ、きつ、きついっ……」
「力抜いて、ゆっくり」

息ができなくて口をはくはくとさせる俺に仁志はゆっくり口付ける。仁志は俺の舌をまた舐め取りながら、甘ったらしいようにキスをした。ゆっくり下半身を揺すられる。ぐっ、ぐっとした圧迫感はどんどん俺を飲み込んでいった。
仁志は俺の名前を呼びながら、どんどん俺の中へ埋め込んでいく。ピッタリ中が収まっていく感じが、感じたことのない感覚で、真正面から抱きかかえた仁志の背中に縋り付くしかなかった。
仁志の体がグイッと強く押し込まれた。

「ああっ!」
「郭那…全部入った……なか、めっちゃキツくて熱い…」
「や、やめ、ろ」
「俺らついにセックスしたんだよ。俺ら兄弟で、男同士なのにね。ハハッ、俺ら共にクソ野郎だ。神様に逆らった、死なねえといけない存在だ」

そう言って仁志は動くぞと耳元で低く囁いた。
ベッドの上に倒れ込んだ俺に覆い被さり、獣のように仁志は腰を打ち付ける。
がくんがくんと揺れる感覚に合わせ、奥からなんとも言えない刺激とペチペチ肌がぶつかり合う卑猥な音が聞こえる。

なんだこれ、狂ってる、狂ってるやがる。どうして兄弟なのに抱き合ってるんだ、どうして血の繋がっている弟に犯されているんだ、どうしてセックスしているんだ。



「くるしい、人生って苦しいよ…郭那。でも今だけはこんなに気持ちイイんだな」

目眩がするような悦楽が体を支配し始めた時、俺は考えることをやっと辞めた。






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