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旗中は教室にまだ帰ってきていないようだった。旗中のクラスメイトも朝から見ていないと言う。

どうしようか。クラスメイトにUSBを預けても良かったが、個人情報が入っていることや放送部のこともあるため本人直接届ける方が良いだろう。

旗中のクラスメイトに感謝を告げて、俺は教室を出た。
旗中を探すために校舎を歩き回った方がいいのかもしれないが、どこにいるかもわからない。それに探し回るのは普通に面倒臭い。…たしか、旗中は教室と寮以外であれば放送室に篭りがちだったはずだ。
まずは放送室当たるのが無難な案だなと考えた俺は、4階の放送室へ向かうことにした。

ちなみに4階は放送室と生徒会室、そして風紀委員会の部屋がある。あとは空き教室になっているが、大体は権力が強いその3つが4階を独占している。放送部は放送室がそこにあるという理由ももちろんあって4階であるが、見晴らしのいい部屋を独占したことで様々な点において便利が良いらしかった。

階段を上り、4階へと上がっていく。
人気の少ない階につくと、俺は放送室の方へ向かった。放送室は奥の教室から2個手前のところだ。その奥の部屋が生徒会室。風紀室は生徒会室とは真反対の奥の部屋らしい。

2、3歩足を進めた時だ。
ドタッ!と手前の教室から大きな音が響いた。
重いものが壁が床にぶつかったような音に聞こえる。

何事だと驚いていると、すかさず「凌賀てめえ!」と叫ぶ声が響き渡る。

凌賀、と言っただろうか…。違う「りょうが」かもしれないが、兄と似た名前を怒号で叫びつけているのには気が触れた。

またガタガタッとものがぶつかり合う音が聞こえる。俺は教室の中の人物に気づかれないよう、そっと教室の壁際に近寄り、窓からそっと中を覗いた。

「クソッ!吐きやがれ榊原ァ!」
「うるせえな、アイツの犬はよく吠えやがる」
「テメェはブッ殺すッ!」
「あんまり煽らないほうがいいんじゃない?なんかますますうるさいんだけど〜」
「黒木(くろき)の犬がわざわざ転校してまできたんだからよっぽどの理由があるみたいだな」

フッと榊原は小馬鹿にしたように笑った。


中には榊原を始めとした生徒会一存と派手な金髪をした男が立っていた。
金髪の男は後ろを向いていて顔はよく見えないが、小柄な体型をしている。

「でもシマに入ってきたのはアンタの方だ。それ相応の処置は受けてもらうぞ」

鮫原先輩がスッと前に出てきて、金髪の男と対峙する。俺は慌てて見つからないように顔を引っ込めた。先輩たちや男は俺がいることにまだ気づいていないようだった。


「うるせえ!端からそういうつもりだ!」

まだ中では揉めているようで激しい怒鳴り声が響きわたっている。この現場でどう動いたらいいかわからず、相馬は立ち往生してしまう。明らかに不穏な雰囲気だ。

(とりあえず様子を見計らって放送室まで走り抜けるか…)

触らぬ神に祟りなし。相馬の意向は決まった。

そっと中を再度伺う。
すると同時に金髪男は地面を蹴って鮫原先輩へ飛び掛かった。鮫原先輩はわかっていたように、勢いよく長い脚で蹴り上げた。金髪男は危機一髪でその動きを避け、鮫原先輩へ素早く攻撃を仕掛ける。
鮫原先輩がしっかりと攻撃を打ち込むなら、金髪男はすばしっこく動きまわるイメージだ。
金髪男の方が動きが早い。鮫原先輩の攻撃を避けながら、隙を見出したのか、思いっきり腹部に蹴りを押し込んだ。


「ゥグッ…!!」

ドンッ!という音ともに鮫原先輩の体が吹っ飛んだ。飛んで行った鮫原先輩の体は、河上先輩がすかさず支えたおかげで床に倒れ込むことはなかった。だが、鮫原先輩は体が吹っ飛ぶほどの威力を受けたせいで、自分の力で立てるほどの余裕はなかったようだ。

(鮫原先輩…!)

初めて見た激しい肉弾戦の様子に声が思わず出そうになる。何が起きてるんだ…なぜ鮫原先輩達は戦っているんだ。

金髪男は鮫原先輩が立ち上がれない様子を横目で見ると、より一層強くその場の地面を蹴って、跳んだ。
そのまま奥の榊原会長へ突っ込む気だ。
男は拳を握りしめて会長へ降りかかる。会長の前へふらりと影が動いた。

「…凌駕」

パァン、と破裂音のような肌がぶつかり合う音が聞こえる。

「…ハッ、またお姫様に守ってもらうとはなぁ」
「うるせえ、その言い方はやめろって言ってるだろ」
「ッ…!!クソ!」

男の拳は会長にではなく、凌駕の掌によって受け止められていた。拳を受け止められた男は凌駕の手を勢いよく振り払った。


「水谷凌駕…」
「なに」
「お前が黒木さんを貶めたのかよ…」
「なにそれ、知らないんだけど。もしやったんなら…コイツに決まってんじゃん」

そう言って後ろにいる榊原会長を凌駕は指す。会長は自分のせいと言われたのが不服なのか、顔をしかめた。

「は?凌駕お前が黒木がしつこいからどうにかしろって言ってたんじゃねえかよ」
「なにそれ、俺のせいにする気?」
「俺はお前のためにやってやっただけだ」
「ハァ?それがいつも余計なお世話って言ってんの!」
「…チッ、凌駕ァ!」

二人のやり取りを聞いてついに怒りが抑えきれなくなったのか、男が凌駕目掛けて拳を振るった。さきほどの鮫原先輩ときとは比ではない威力とスピードだ。
一方、凌駕は会長の方を向いていたため、反応が一歩遅れてしまう。そのまま男の拳が凌駕の顔面に降りかかった。

「凌駕!」
「兄ちゃん!」

会長と俺が同時に叫んだ時。そのまま凌駕は手で拳を受け止めながら身体を床へ低く落とした。床へ落下していく中、凌駕は隙のできた男の脚を掬い払うように蹴り上げた。
ダンッ!!
2つの体が宙に浮き、肉体が床へとぶつかる音が響いた。




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