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図書委員も全校集会行くなんて…なんて真面目すぎるんだ、うちの学校は。
図書室は全校集会の影響で生憎閉まっており、鯖の本は借りることができなかった。
俺の趣味は魚だ。うちの図書室は月に一度本のリクエストを行なっており、毎月魚の本をリクエスト送っていたらいつのまにか魚コーナーが出来ていた。ちょっと誇らしい。
とぼとぼと教室へ帰っては、生徒達が帰ってくるのを待つ。鯖はやはり寿司が一番うまい。空弁の鯖寿司は特に美味い。
ぼうっと鯖のことを考えていたら案外すぐ生徒たちは帰ってきた。
なにやらざわざわとしている。
変崎も帰ってきて、手を胸に当てて何やらドキマギとした顔つきをしていた。むしろ変顔である。
「ね、ねえ、相馬。凌賀さんって会長の恋人じゃなかったって知ってた?」
「ああ、本当に言ったんだ」
全校集会でわざわざ言う発言だろうか….。
それで?と顔を向ければ、変崎の変顔はさらに悪化した。
「どうしよう、俺にワンチャンどころかツーチャンもスリーチャンもオールチャンもあるじゃん」
「なんの話?」
「凌賀さん、凌賀さんのことだよ…っ!しかもフリーって言ってたし……わぁあ、推しにガチ恋してしまう!!」
『推しが生きてるってウチらの大勝利』など謎発言を永遠とする変崎を、俺は放っておくことにした。なんだか、うちの兄貴と同じような匂いがするからだ。
授業が始まるまで魚のスマホゲーをしようと、スマホを起動させて機内モードを解除する。すると、ポンポンポンポンと大量のラインメッセージが飛んできた。たまに兄のことを探して俺に助けを求める生徒会や先輩のラインが来るが、大概は兄の凌賀からである。
ラインを開けば、凌賀から大量のメッセージが届いていた。
『相馬!全校集会聞いてた!?バッチリだったかな?!』
『相馬!会長が激おこ!勝手に全校集会開いたのがマズかったかもしれん!?』
『相馬!親衛隊の三笠(みかさ)くんに怒られた!《貴方が勝手なことをしたせいでまた学園の秩序が乱れるでしょうが!敵が増えて困ります!》だって!どうしよう〜!』
『相馬!700円くじ、プリン当たった!』
まだ永遠になり続けるスマホ通知に、俺はもう一度機内モードにした。機内モードはデータ通信もカットしてくれるので大変便利だ。充電も早く済みやすいし。
魚のスマホゲーはまた後でにしよう。
ポケットにスマホをしまって、教師が来るのを待った。
いつも通り授業を終えて、放課後となった。図書室で鯖の生態の本を借りれたため、俺は嬉々として部屋へ帰る。
一応ここは全寮制であるため、俺たちは寮に住んでおり、相部屋のため2人一部屋で暮らしている。生徒会は特別なので1人部屋らしい。いいな。
最近夏らしくなりすっかり暑くなったためか、教室でじっと授業を受けているだけでも汗が止まらなくなってきた。極度の暑がりではないが、なんせエアコンの効きにくい席なのであまり暑さは凌げない。
部屋へ戻った俺はまず風呂へ入ろうと、お湯を沸かした。相部屋の奴も今日は部活がないから早く帰ってくるだろう。
風呂の準備をしてはお湯が溜まるのを待つため、共有のリビングでソファに座った。
そろそろラインがパンクする頃だ。
Wi-Fiのついた室内でアプリを起動すると相変わらず大量のメッセージが送られてきていた。めんどくさいのでメッセージを見ずに既読をつけた。大抵困ったことがあれば電話をかけてくるから大丈夫だろう。さっきまで機内モードにしてたけど。
魚のスマホゲーアプリを立ち上げて、お魚を釣っていく。魚釣りも楽しいが、魚を育成するゲームも好きだ。別ゲームを立ち上げ、スマホの中で飼う魚達に餌をやった。
ゲームをしていると、突然ノックが鳴り響いた。誰かが来たみたいだ。
そのまま玄関に向かい、部屋の扉を開ける。
見慣れた顔の先輩は突然開いた扉に一瞬驚きつつも、俺の方を向いた。
「水谷、俺だ。凌賀は来てないか?」
「鮫原(さめはら)先輩。兄なら来てないですよ」
「そうか…。凌賀がどこにいるか、知らないか?あてとか」
「あ、ちょっと待って下さい。メッセージ見直します」
先輩を部屋の外で立たせておくのもなんだか悪いので、中に入れる。ソファに座ってもらい、いつものように麦茶をコップに注いで渡した。
すまない、と言って鮫原先輩は麦茶に口をつける。彼は強面な顔をしているが、案外礼儀正しいし律儀な先輩である。
「なんか15分前に、職員室行ったみたいですね。顧問に絡まれたみたいなこと言ってます」
「本当か。そしたらアイツは職員室に行ったんだな」
「あ。待って下さい。次は後輩に呼ばれて体育館裏に行くみたいです」
「は?何してるんだあいつは」
多分、告白されるんじゃないか?全校集会の件もあって、兄の言う新しい恋とやらが始まるのでは。
鮫原先輩は俺の視線に何か察したのか、「…俺から凌賀に生徒会室へ来るよう連絡しておく」と言った。
「一応、すまないが、水谷からも凌賀に連絡しててもらってもいいか。大事な用件なんだ。あいつ、お前のメッセージ以外は全然チェックしねえから」
「わかりました、今送っておきます」
言われた用件をピコピコと凌賀にメッセージを送る。まだ既読はついてない様子だったが、しばらくしたら見るだろう。
鮫原先輩は立ち上がると、横に置いてあった小さな紙袋を渡してきた。
「あと、これ。よかったら食べてくれ。それじゃあ、また頼む」
「あ、どうも。ありがとうございます」
鮫原先輩はそう言うと、扉を開けスマートに出て行った。お菓子だ。多分チョコレート。
鮫原先輩が出て行ったタイミングで風呂が沸く音がした。
もらったお菓子はテーブルの上に置き、俺はまず風呂へ入ることにしたのだった。
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