i7短編 | ナノ

▼ 確認必須の約束

※百中編ヒロイン、同棲しているお話です。




 先日IDOLiSH7と撮影が一緒になった時、マネージャーの紡ちゃんと話が盛り上がった。たまたま紡ちゃんの待ち受け画面が見えてしまい、それはピンクのとても可愛いふわふわの動物だったんだ。私は動物が好きで、思わず気が高まって話しかけると、紡ちゃんは笑って「今度会いに来ますか?」と言ってくれた。紡ちゃんとも仲良くなれた気もして、それがとても嬉しくて、すぐに首を縦に振ってしまった。
 そして約束の日、今日はIDOLiSH7の寮にお邪魔する日である。


 ピンポーン

「はーい。あ、ひなさん! いらっしゃい」
「こんばんは。ありがとう、お邪魔します」

 インターホンを押し、玄関から出てきたのは陸くんだった。陸くんは笑顔で迎え入れてくれるも、不思議そうに首を傾げる。

「あれ、百さんはいないんですか?」
「それがね、急な収録が入っちゃったみたいで私だけなんだ」
「そうだったんですね……。とりあえずマネージャーは打ち合わせ延びちゃってるみたいだけど、もう少しで帰ってくるのでどうぞ入ってください!」
「ありがとう」

 私がひとりでお邪魔することが今までなかったからなんだか少し新鮮な気分だ。本当なら百も一緒に来る予定だったけれど、百に急な収録が入ってしまったのだ。
 陸くんに案内してもらってリビングに入ると、いち早く私の元に駆けつけたのは目を輝かせたナギくんだ。

「オー! マイプリンセス!お待ちしておりました」
「あ、えと」

 キラキラした目で私の手を握るナギくん。その勢いに圧倒されていると、キッチンに立っていた三月くんがこちらへとやって来る。

「こぉおら、ナギ! 手離せ! 」
「くすん……ワタシ、ひなのファンです。ひながここにいる、楽しみにしてました」
「お前がファンなのは知ってるけどな、オレは百さんにひなさん守れって言われてんだよ! 怒られるぞ!」
「OH……ミスターモモに怒られたくありません……」

 三月くんの言葉でナギくんは肩を落として離れていく。そうだ、そういえば私が行く前に百は「三月に護衛係頼むもん」と言ってラビチャをしていた気がする。それってこういうことだったのか。

「悪いなひなさん。でもよく百さん許したなー。あの人すげぇひなさんのこと好きだから1人で寮行くとかダメ!って言いそうだけど」

 するとソファーでテレビを観ている大和くんもこちらを振り向く。大和くんは缶ビールを空けていて飲んでいるようだ。

「元々約束してたことだったし、紡ちゃんもいるから大丈夫だったよ。ちょっと拗ねてたけど……」
「……ですよね。って今マネージャーいないから、お兄さんがなんとかしなきゃか。ひなさんとりあえず座って下さい、何飲みます? 生でいいっすか?」
「おっさん! 自分が飲んでるからってひなさんに勧めんな!!」
「だ、大丈夫だよ。私もともとお酒強くないし飲まないから……」

 大和くんに怒る三月くんの怒号が響いた。IDOLiSH7は本当に元気だなぁ、と思わず空笑いしてしまう。

「すみませんひなさん……」
「なんで謝るの? 全然気にしてないよ! 」

 眉を下げて謝る三月くんに、私は即座に手を振った。全然気にしていないのに。

「あ、そうだこれ」
「これなんですか?」

 私は持っている袋を三月くんに渡す。

「お邪魔させてもらうと思って、ご飯の盛り合わせとプリン買ってきたんだけど迷惑だったかな?」
「とんでもないです! むしろ気を使ってもらってあり「王様プリン!!」

 するとその袋を見た環くんが目を輝かせて私と三月くんの間にやって来た。プリンが入っている方の袋を取り、中を覗いてとても嬉しそうにしている。

「ひなっち買ってきてくれたの!? 俺、すっげー嬉しい!」
「環くん! 先輩に対してその言い方はないだろう!? ちゃんと敬語を……」

 そしてそんな環くんに注意する壮五くん。MEZZO"の2人も相変わらずいつも通りだ。

「あはは、どういたしまして。壮五くんも大丈夫だよ、気にしないで」
「いえ、芸能界の先輩ですし、百さんの彼女さんですし、そんなわけには……」
「ひなっちー。プリンのお礼に、おもてなしするから座って待ってて」
「えっ」

 すると環くんはニカッと歯を見せて笑みを浮かべた。おもてなしなんてしなくていいのに、なんて思ったけれど、環くんは腕をまくって気合いを入れている。


「ヤマさんは酒勧めるし、みっきーはナギっちのお世話で大変だから、俺がひなっちのおもてなしする!!」

「ふふ、ならお願いしようかな」


 まるで頑張る子どもを見守るような親のような気持ちになり、そのおもてなしをお願いすることにした。

「環くん、何するんだろう大丈夫かな……」
「ソーウ、お前タマの心配ばっかしてると禿げるぞ。ってことでお前も飲もうぜ?」
「わ、大和さん! 酔ってますよね!」

 心配する壮五くんの肩を組んでソファーに座らせる大和くん。

「OH、ジーザス。ワタシの運命の人はミスターモモの彼女……。この悲しみは、ここなでしか癒されないでしょう。ミツキ、ここな一緒に観てください!!」
「おい、離せよ! こないだ観たじゃねぇか!」

 部屋の隅で三月くんに抱きつくナギくん。

「ただいま帰りました……って皆さん何してるんですか」
「あ、一織おかえり! ほら、マネージャーが今日は百さんとひなさんが来るって言ってたでしょ? でも百さん収録入っちゃって、来れなくなっちゃったんだって」
「……それにしても四葉さんがキッチンにいて、二階堂さんは既に酔ってて逢坂さんを巻き込んで、六弥さんが兄さんに詰め寄っててなんだかカオスな光景ですね。
諸星さん騒がしくてすみません。ゆっくりしていってください」
「いやいやそんな! ありがとう」

 そして一織くんが帰ってきて、陸くんがお出迎えする。


「ひなっちー、ぶどうジュース飲める?」
「うん、飲めるよ!」
「おっけー、はいこれ」
「わぁ、ありがとう!」


 賑やかな室内の中、環くんは準備ができたみたい。私の前に赤いぶどうジュースと、小さなプリンを出してくれた。

「プリンいいの?」
「うん、ミニ王様プリン。お礼に、その、あげる」
「ありがとう!」

 ニコリと得意げに笑う環くんにお礼を言い、今じゃミニ王様プリンとかいろんな種類があるんだなと思わず関心してしまう。

「タマ、お兄さんにもプリンくれよ〜」
「やだよ。今はひなっちをもてなしてんの。てかそーちゃんに酒飲ませないで」
「大丈夫だよ環くん。それより、ぶどうジュースなんてあったっけ……?」

「じゃあ環くん、いただきます」

 そして私はそのグラスに手をかけ、中身を飲むために口をつける。


「キッチンにあった。英語でなんて書いてんのか分かんなかったけど、高そうでちゃんとボトルに入ってたやつ」
「環くん、それってもしかしてーー…ってやっぱり! ひなさん、それ飲まないでください!」

「ん? ………!?」


 そして中の飲み物を口の中に含んだ途端、壮五くんからの声。どうしたの? と聞く代わりに視線を壮五くんの方を見ようとしたけれど、それは無理だった。その飲み物は想像している味とは全く異なるものだったからだ。
 苦い、辛い。想像と全く違う味に驚き、その反動で飲み込む量が多くなってしまった。


「こほっ、こほ……」

 飲み込み、慣れない味と焼けるような喉の熱さにむせ込んでしまう。
 ……これは、もしかして。

「環くん! 君はなんてことをしたんだ!!」
「なんだよ! 俺はひなっちにプリンとぶどうジュースあげただけだろ!」
「よく見てみろ、それはぶどうジュースじゃなくて、赤ワインだ! なんで確認しなかったんだ!」
「え……ワイン?」

 壮五くんの言う通り、これは紛れもなく度数の強いワインの味だった。壮五くんの言葉に、賑やかだった寮が一気に静まる。みんながサーっと青ざめた顔で私を見ているのが分かった。
 ああ、でも、


「と、とりあえずお水を下さい……」


 今はお水を飲まないと。




△▼△▼



 急な収録が入ってしまい、ひなとIDOLiSH7の寮にお邪魔することができなくなった。ユキはドラマの撮影が元々入っていたので、ユキもいない。男だらけの寮に1人で行ってほしくない、というのが本音だったけど、元々約束していたことだし、信頼している後輩達だし、マネ子ちゃんもいるし大丈夫だろう。そう思っていた。
 収録が終わって携帯を確認すると三月からの『ごめんなさい! ひなさんに赤ワインを飲ませてしまいました!』というラビチャ。
 ひなは酒をそんなに飲めないし進んで飲まない。飲んだとしてもサワーやカクテル1杯で顔を赤くして酔って眠くなっちゃう子だ。だからなるべくオレがいないところではあんまり飲んでほしくないのも伝えているし、本人も分かっているはず。もちろん仕事上どうしても飲まなきゃいけなかったり、女友達と遊んだりする時とかは別だけど。
 そんなひなだから、どうしてワインなんてものを飲んだのかが分からなくて、オレはすぐに三月に電話をした。三月は少しパニックになっていて、そんな三月の代わりに一織が冷静に状況を教えてくれたんだ。

 そしてIDOLiSH7の寮にひなを迎えに行くと、ひなは頬を紅潮させ、ソファーでクッションを抱えながら眠っている。


「すみませんすみません本当にすみません! 僕が環くんを見ていなかったからこんなことに……」
「オレも、ひなさんのことよろしくって言われていたのに、本当にごめんなさい!」
「わ、私もその、打ち合わせが延びてしまって皆さんのことが見れなかったので、本当に申し訳ありませんでした!」
「ももりん、ごめん。本当に、ごめんなさい……」

 オレが寮にお邪魔すると、頭をこれ以上になく下げる後輩達。壮五も三月も顔が真っ青だし、なんだかこっちが申し訳なくなるくらい。
 環に関しては涙目……ってか泣いてない?


「みんな頭上げてよ! モモちゃん怒ってないよ? これがわざとなら激おこだけど、環は間違えちゃっただけだもんね?」
「うん、ひなっちに、お礼したかったのに……」
「うんうん、ひなはお礼したくなるくらいいい子でしょ? そう言ってもらえてオレも嬉しいよ!」

 暗い空気を吹き飛ばせるようにいつものテンションで笑って話す。
 実際にこれはわざと起きたことじゃないし、環はお礼をしたくてもてなしただけなんだから。それに、自分の親しい後輩達にひなも慕われるのは嬉しいし。……少し嫉妬したりもするけど。

「ひな」
「ん……」

 そんな複雑な心境の中、オレはソファーで眠るひなの傍に行って軽く肩を叩いた。ひなはまぶたをピクっと動かして、声を漏らした。

「ひな、平気?」

 もしこれで起きないなら抱いて車まで乗せるか…と思ってもう一度名前を呼ぶと、ひなはゆっくりと目を開けた。

「ん、ももせ……?」

 目を覚ましてオレの名前を呼ぶひな。まだお酒が抜けていないんだろう。顔はまだ赤く、目もとろんと据わっている。こんな顔、他の人に見せたくないなぁ。ほら、みんな顔赤くしてるじゃん。

「うん、モモちゃんだよ」
「あれ、私」
「ひなはワイン飲んで寝ちゃったの。迎えに来たから帰ろ。立てる?」
「ん……」

 少しの嫉妬を抱えながら、オレはひなに手を差し出して、ひなの小さな手はオレの手を握る。ゆっくりと立とうとしたけど、酔いなのか眠気なのか、少しだけふらつくひな。せめて車までは頑張ってもらおうと、オレはひなの腰に手を回した。

「お騒がせしてごめんねみんな。オレ達これで帰るから。
マネ子ちゃん、今度ひなと一緒に来るからその時きなこと遊ばせて? わざわざ予定合わせてもらったのにごめんね」
「紡ちゃん……みんなも、ごめんなさい」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ本当にすみませんでした! ぜひまた来てください!」

 マネ子ちゃんとみんなに挨拶して、オレはひなを支えながら寮を出た。外に止めていた車の助手席にひなを乗せ、オレも運転席に座る。


「……ももりん、怒ってた?」
「怒ってたというか……なんか、あれだな。本当にひなさんのこと好きなんだなって感じだよな」
「今度こそ、ちゃんとおもてなしする」
「環くん、絶対に1人でやらないでね」




「……百」
「なにー?」
「ごめんね、来てもらって……。お酒も、飲んじゃったし」

 帰り道、運転するオレの横で気まずそうに俯いて目を伏せるひな。

「んーん、仕方ないもん。気にしてないよ。ひな、まだ酔い醒めてないんだから寝てていいよ」
「ん……」

 オレの言葉に少しだけ罰の悪そうにするひなだったけど、まだお酒が入っていて眠気もあるようで、少しするとひなは眠り始めた。


「はぁ……どうしたものかな」

 そんなひなを横目に、オレはぼそっと呟いた。
 本当は気にしていないなんて嘘だ。誰も悪くないのに少しだけモヤッとしている自分がいる。相手は信頼している後輩達で、ひなが酔ったのだって故意的ではなくて、タイミングが良くなかっただけなのに。

 ねぇ、オレひなのこと好きすぎて困っちゃうよ。
 頭で分かってても、気持ちが追いつかないよ。

 考えれば考えるほど苦笑いとため息が漏れてしまった。ハンドルを握りながら考えていると、いつの間にかもう家に着いていた。考え事をしていたから時間が早く感じたな。
 駐車場に車を停めたオレはひなを起こそうと身体を寄せる。声をかけようとしたけど、オレの身体は自然とひなの唇の方へと動いていた。


 ーーちゅ

 そして眠っているひなの唇に触れるだけのキスを落とす。それに気づいたのかひなはゆっくりと目を開けた。


「ん、百……?」
「起きた。家着いたよ」

 寝起きの顔が可愛くて、思わず口元が緩んでしまう。

「ほら立てる?」
「うん、大丈夫……」
「ん、酔いは醒めたかな。顔色もちょっと戻ってきたね」

 車から降り、ひなに手を差し出して、きゅっと握ってくれるひな。そのまま手を繋いで家に帰ったんだ。


 帰宅後、ひとまず今回のことは、飲む前にちゃんと確認しようね、と話し合った。もちろんなるべく1人で男だらけの場所に行ってほしくないし、オレもできるだけ行くようにする。でも今回みたいなことだって今後もあるかもしれないからそういう約束した。
 とはいえ、オレも貰ったものは中身の確認はあんまりしない。ひなに言ったんだから、オレも気を付けなきゃな。

 

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