i7短編 | ナノ

▼ 似た者同士

「……ごほっ」

 朝起きると身体に違和感を感じる。喉が痛い、身体がだるい、咳が出る。あれ、これはもしかして。

「……37.3度…」

 もしやと思い体温を測ると37度を超える微熱。これは間違いない。風邪だ。私は風邪を引いてしまった。
 何か原因あったっけ……と考えると、つい先週、天くんが風邪を引いてしまい看病していた私。もしかしたらそこから移ってしまったのだろうか。

 まぁでもすぐに治るだろう。市販薬ならあるし、とりあえず飲んでまた寝よう。今日がオフでよかった、そう思いながら再び眠りについた。




 ピンポーン


「ん……」

 家のインターホンが鳴り、私は目が覚める。今何時だろうと思ってベッドの傍にある時計を確認すると、夕方だった。結構寝てしまった。
 それにしても誰だろう、宅急便か何か頼んだっけ。だるい身体を起こし、ドアホンで外を確認するとそこに写っているのは


「!」

 じっとカメラを見つめている天くんだった。


「天くん……!?あれ、仕事じゃ、ごほっ」

 なんでこんな時間に天くんがいるんだろう。昨日もラビチャで夜まで仕事だって言っていたはずなのに。
 インターホン越しに聞くが、天くんは私の咳を聞いて怪訝そうな顔をした。

『咳?』
「あ、や、ちょっとだけ……」

 少し答えに戸惑う私。これは風邪と言ってしまったら天くんに迷惑かけてしまう気がしたからだ。ただでさえ天くんは病み上がりなのに。そう思って言葉を濁した私。

『開けて』
「ほんとに大丈夫です……っごほ、」
『いいから開けて』

 しかし時は遅かった。ドアホンに映る天くんは、カメラ越しに睨むような、威圧をかけるような目でこっちを見て強い口調で言ったんだ。……これはすぐに開けないと怒られそうだ。私はそう思い、入口のオートロックを開けるのだった。


「……あ」

 開けたは良いものの、自分が今寝起きだということに気付いた私は固まってしまう。寝起きで何も整えていない自分を天くんに見せたくない……!
 身体がだるいながらも、最低限の身だしなみだけ整えようと髪の毛をとかしていると、ドアのインターホンが鳴った。鍵を開け、できるだけ体調が悪いのを知られないように平然を装いながら天くんを迎え入れたのだ。

「お邪魔します。やっぱり家にいたんだ」
「天くん、仕事は……?」
「早く終わりそうだから会わない? って連絡したけど既読ないからどうしたかと思って」
「あ、ごめんなさい寝てました……ごほ、ごほっ!」
「………」

 そっか、今日は朝からスマホを確認してなかったから知らなかったのか。あとでラビチャを見てみよう。それよりも咳が自然に出てしまい、天くんの視線がとても気になってしまう。咳をする度に睨まれているような気がする。


「ねぇ、風邪引いた?」
「! 引いてないです! こほ、ちょっと咳が出るだけ、で……」

 天くんに迷惑かけたくない。病み上がりなのに移したくない。だから私は風邪ではない、と言い張るが納得していないようで天くんは眉間にしわを寄せて言う。

「絶対嘘。顔も赤いしそんなしんどそうな顔して言わないでくれる?」
「いえっ……少し咳が出るだけなのでしんどくないですよ…! 大丈夫です! ごほっ!」
「全然説得力ないけど。はい寝て」

 何を言っても口で勝てず、全て返されてしまう。反論の余地なく、天くんに手を引かれてベッド方へと移動させられてしまった。

「ほ、ほんとに大丈夫で……」
「いいから」

 なんとか大丈夫だと言おうとするも天くんは聞く耳を持たずに私をベッドに座らせた。そして掛け布団を動かすものだから私はベッドに入るしかない。ベッドに入った私に布団にかけ直してくれた天くんは、ベッドの傍のソファに座り、私の顔を見て話し出した。


「ひな。キミさ、ボクが風邪引いた時になんて言ったか覚えてる?」

その言い方はずるい。それを言われたら何も言えるわけないのに。

「う、分かりました……! でも移したくないので帰ってください。天くんだってこないだ治ったばっかなのに」
「やだ。ボクもそう言ったのに帰ってくれなかったのは誰?」
「うう……」

 ああ、もう。デジャブかのように、こないだの私と天くんの今の言動は全て同じだから私は何も言えない。こないだ天くんにいろいろ言ってしまったけど、良くも悪くも天くんの気持ちが分かった気がした。
 そんなこと思いながら、布団を口元ぎりぎりまで深くかけていると、天くんは突然私の頬を撫でる。


「……でも多分ボクの風邪移ったよね、ごめん」

 さっきまでの少し強い口調とは異なり、眉を下げて申し訳なさそうに私に言ったんだ。その表情を見て心が痛くなる。

「! そんな顔、しないでください……ごほっ、こないだは私が一緒にいたくていたんですから」
「………」

 私が風邪を引いたのは天くんのせいじゃないのに。そう伝えると天くんは少し黙りながら頬を撫でていた手が上へとつたい、今度は私の頭を撫でた。

「……ん、ありがとう」

 そして優しい目で、私を見てくれたんだ。数回私の髪の毛をすくって流した後、天くんは切り替わったかのように立ち上がっていつもの口調で言い出した。


「じゃあひな、キッチン借りるよ」
「え……?」
「ご飯食べてないでしょ。お粥なら食べれそう?」
「! あ、はい……! ありがとう、ございます…」

 元の口調に戻った天くん。どうやら天くんがお粥を作ってくれるようで、私は素直に布団に入って待つことにした。その数十分後、お粥を部屋へと運んでくれた。とても美味しくいただいた後、少し休憩しているうちに私は眠ってしまったんだ。

 そして目が覚めると朝になっていた。起きて隣を見ると天くんがソファに寄りかかりながら眠っていたのだった。



「天くん……! 昨日ちゃんと帰ってくださいね、って言ったじゃないですか!」
「ひなが心配で帰れるわけないでしょ」
「っ、でも天くんがまた風邪引いたらどうするんですか!?」
「それひなには言われたくないよ」
「でも天くんにも言われたくないです……」


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