小説 | ナノ

 最近、DIO様の周辺を嗅ぎ回るネズミが後を絶たない。面倒なことに連中の母体はここエジプトから遠い異国にあり、DIO様は何かのご準備と日光を嫌う体質により出向くわけには行かない。ならば僕がと進言するも、僕には学生としての生活を順守するようにとのお返事だった。
 だがエジプト旅行の日程ももう終盤だ。両親の目を盗んで夜間活動できるのも、あとほんの数日。その間にせめてこの辺りに生えている草は刈り取っておきたいものだが、いくらスタンドを使わないといえど一人で全ての相手をするのは難しかった。
 何より僕はいい後始末の方法を知らない。殺すのは簡単だが下手に死体を積み重ねていけばここへ更なる数の敵を招くだけだ。出来れば肉の芽というやつを植え付けた状態で生かして帰すのが理想なのだが。
「公子!そっちへ回ったぞ!」
「了解っ」
 しかし公子の了解は信用ならない。今がドジだのおっちょこちょいだのという言葉で片付く場面ではないということを本人は自覚しているのだろうか。案の定、意識を逸らせるという公子のスタンドはその効果が完全に出る前に相手を逃していた。
「……公子」
「ごめん」
「中身のない謝罪は火に油を注ぐだけだ、やめたほうがいい」
「……ごめんなさい」
「僕の言っていることが理解できなかったようだな。なるほど、作戦ミスでも君のミスでもない、僕の人選が悪かったのか」
「あの……」
「怒っているわけじゃない。本当に僕のミスだ。君をパートナーに選んだ、過去の僕をぶん殴りに行きたいよ」
「怒ってる」
「帰るぞ。あの程度の連中を取りこぼしたところでDIO様の支障になるようなことはない。単に僕が目障りだったから掃除しようとしただけだ」
「……」
 帰る前にもう一度謝罪の言葉が聞こえたが、それには何も返さずに僕たちは本拠地にしている館へと戻った。

 と、まあ、昨日あれだけしおらしくなっていたのは一体どこへいったのやら、寝て起きれば記憶はリセットされ、今日もやかましく僕の周囲をうろちょろしている。この切り替えの早さは正直驚かされた。
「かきょーいんっ!お昼ご飯食べ行こっ」
「君さぁ……はぁ、まあいいけど」
「よし、どこ行こうか」
「そう言う意味じゃあない……」

「かきょーいんっ、ケーキ買ってきたからコーヒー入れよう!」

「かきょーいんっ、お使い頼まれたから一緒に行こう」

「かきょーいんっ、あのね……」
「公子、うるさい」
「はぁい」

 最近イライラする。ようやく公子が静かになったというのに、何故僕はこんなにも不機嫌なんだろう。それは多分…………いや、違う。断じて違う。そうだ、額がここ数日ずっと痛むんだ。それのせいだ。
 そういえば、静かになったのはいいことなんだがあまりにも静か過ぎる。不気味さを感じるくらいだ。……そうか。口を閉ざすことを覚えたんじゃなくて、単に僕の周りをうろうろしなくなったのか。姿が見えないのに今気づいたくらいだ。そう、僕は公子のことなんて普段から全く関心を寄せていないんだ。
 しかし、もう結構遅い時間だぞ。大体、公子は本来この建物の管理と僕の使用人を任されてここに派遣されてきたはずだろう。もう夕飯作りに取り掛からないと間に合わないんじゃないのか?
 そうだった。戦闘なんて慣れないことに無理に巻き込んだのは僕だ。やはりあれは僕の人選ミスだ。僕が適材適所を理解できていなかったから……。
「あれ、電気ついてねーぞ」
「おかしーな。かきょーいん、どっかいっちゃったのかな」
 公子が帰ってきたのか。知らない男の声もする。別に僕はここに滞在していることにやましい理由なんてないのだが、なんとなく自室へと引き返して身を隠してしまった。
 言われてから気づいたが随分暗くなっていたようだ。窓の外には赤く焼ける町が見える。そして、眼下には公子と見知らぬ男。
「じゃーまたね」
「おう」
 男は黄色い車に乗って街中を走り去っていった。それを確認して僕は階下へ行くと、屋台で買った食べ物をテーブルに並べている公子と目が合った。
「あ、もしかして昼寝してた?」
「……それ、夕食か?」
 香辛料のいい香りが漂っている。容器の蓋を開けると湯気が立ち上り、見た目と匂いで僕の食欲を刺激する。腹も減っているから食べたくはあるのだが、不機嫌な僕はなぜか正反対のことしか言わなくなる。
「夕食を出来合いのものですませるのか?仕事の手を抜くつもりか?」
「え?ごめん。イヤだった?」
「イヤではない。仕事の手を抜くつもりなのかと尋ねただけだ」
「ごめん、時間なくて」
「男と遊び歩くのに忙しいからか?」
「へ?」
 しまった。今のは完全に薮蛇だ。何か言い訳をしなくてはと思う前に公子はどんどんそこを突っ込んでくる。まったくイヤな性格の女だ。
「さっきの?見てたの?」
「見・え・た、だ。訂正しろ」
「えー、どっちでも同じだと思うけど……アイツは私達と同じ、DIO様に雇われてて」
「僕は雇われているわけじゃない」
「ごめん」
「もう君の謝罪を聞くのにうんざりだ」
「う。じゃあ、どうすればいいの?スタンドも何か全然使いこなせてないから、ラバーソ……さっきの人に手伝ってもらって色々練習してるんだけど」
 その一言に僕の目は点になった。まだ気にしていたのか、というより、ちゃんと覚えていたのか。
「は?スタンドの……練習?」
「うん。もうかきょーいんの足、引っ張りたくないから」
「……あれは僕の人選ミスだと言っただろう」
「それは皮肉でしょ?」
「もういい。それに食事もそれでいい。水を用意してくれ」
「はーい」
「……ケガとかしてないだろうな?」
「ん?」
「スタンドの練習もそうだが……あの日、ケガはなかったかと聞いてるんだ」
「うん!全然ない、平気!」
「なら構わない。いいか、お前はもう前線に出なくていい。出なくていいから、僕のために食事を作って僕のためにここを掃除していろ」
「えー。せっかくうまいことできるようになってきたのに」
「口答えするのか?」
「しーまーせーん」
 どうせエジプトにいるのもあと数日だ。あと数日で離れてしまうのだから、せめてその間くらいは僕の側にいろよ。


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