小説 | ナノ


 このクラスは何事も班分けする場合女子がもめる。私がよ、なによ私とジョジョが一緒でないと、でしゃばらないでよブス、なによペチャパイ、ブス、ペチャパイ……の応酬だからだ。もうコントのお約束と化しているため、先生はあらかじめくじを作ってきていた。
「男子はこっち、女子はこっちひいてね」
 運が左右することなのでどれだけ気合を入れて引こうが意味はないのだが、公子は内心神様とお母さんに祈りを捧げてからくじをひく。
「じゃあ班ごとに席移動して。こっちから順番に、A、B、C……」
 公子のひいたE班は端数が出ているため人数が少なかった。が、
(まじかよ!)
 承太郎はどこの班になるのかと思っていたら自分の真正面に座った。
(まぁでも当日はサボるってオチでしょ。ふふふ、最悪のパターンを想像してダメージを最小限に抑えるのは人生の基本)
 だが調理実習の材料は各自持ち寄りのようだ。サボられるとなかなかに困る。花京院ともう一人の班員の女子生徒が承太郎に念押しして参加するように言っていたが本人は話をきいていないような気もする。

 調理実習当日、家庭科室。室内はまさにざわ……ざわ……状態だった。195cmの巨体が学ランと学帽の変わりに、エプロンと三角巾を身につけているからだ。いつもは甲高い声で騒ぎ立てる女子も目を丸くして声も出さずにいた。
「いや、さぼるなといった手前なんだが、まさかそこまできちんと準備するとは思わなかったよ」
「エジプトから帰った後も何度かお袋が倒れてな。そんときにメシ作れねぇと色々まずいことがよくわかった」
「似合ってるじゃーん、空条くん!」
 E班を中心に教室内が盛り上がっていた。班員の女子生徒がとくに承太郎のエプロン姿をからかっていたが、本人は花京院と色々話すばかりであまり相手にされていないようだった。公子はというと最早承太郎がラーメン屋のバイトにしか見えなくなっており、脳内でシャッセー!!カータメコイメオオメイッチョーハイリァス!と喋らせて遊んでいた。要するに現実逃避しているのだ。
(いや、実際ここまで近くにこられると目のやり場に困るわ。これならまだ別班で遠くから見たほうがいいわ)
 課題メニューはちらし寿司とお吸い物だった。E班は人数が少ないため分担も各自一つとなり、お吸い物は最初から最後まで公子一人が作ることとなった。
「主人さん、僕コンロの近くにいるから手伝って欲しいことがあったら言ってくださいね」
「ありがとう」
 花京院は寿司の具材の中でも茹でるものの下準備担当になった。
(お吸い物の材料は……これか)
 冷蔵庫から[E班吸い物]と書かれたビニール袋を出して中を確かめる。瞬間、公子は小さく息を吸ったまま呼吸が止まった。
(鯛のアラっ……!)
 教科書にあったのは鰹節から出汁をとるレシピである。アラの下ごしらえなどやったこともない。
(多分これこのまま出汁とると生臭いよね。え、じゃあどうすんの?茹で汁捨てるの?それって出汁でるの?塩水で薄めた醤油飲むハメになるんじゃないの?)
「主人さん、大丈夫ですか?」
「花京院君、早速すぎて泣けてきそうなんだけど早くもギブアップしたい」
「えっ!?」
 ビニール袋の中から鯛のアラをとりだす。お頭部分の目と公子の目は同じだった。
「これは……誰が持ってきたんでしょうか。じゃあ僕がやりますから、エビと絹さやを茹でてもらっていいですか?」
「出来るの!?」
「多分。あ、大丈夫です。失敗したら僕が責任を持って飲み干します」
「いやそれ大丈夫じゃないじゃん。先生に聞きながらやるよ」
「どうしたの?主人さんにはなんか難しいみたい?」
 班員の女子もヘルプにかけつける。
「あの、これから出汁とれる?」
「しょうがいなぁ……じゃあかわってあげる」
「助かったー」
「まさかお出汁も取れないとはね。お吸い物係りになったときに言ってくれれば最初からかわってあげたのに」
「ごめんー!!でもよかった、くじで決めても一人は料理上手が配置されるもんだね」
 そのやり取りを見ながら、花京院は目を細めて冷ややかな表情になった。鯛の出汁を取る彼女の手つきは、確かに慣れている。
(わざとか)
 どこからどこまでが計算づくでやったのかは分からない。だが彼女は公子を貶めることで自分は料理が上手だということを強く周囲に印象付けたい思惑があるのだと花京院には感じられた。そうでなければ、人を小ばかにして楽しみたいだけか。どちらにしろ悪趣味な嫌がらせではあったが、当の公子はまったく意に介さず薄焼き卵を作り始めていた。
(公子が気にしてないなら別に構わないんだけど、なんかこの子やだな)
 承太郎は一心不乱に米を研いでおり、これらのやり取りは一切目に入っていなかったようだ。
「承太郎、米が砕けてるよ」


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -