小説 | ナノ

(ああいう積極的なタイプに引っ張られるのが好きなのかな)
 何故ジャミレが代理としてやってきたのか、そこだけがまだ疑問ではあったのだが、場が盛り上がっているのならばいいかと思うタイプの公子はそのまま流されていった。
(体調悪いってお腹が痛いとかかな。何かお見舞いとお土産になるようなもの買って帰りたいけど食べ物だとマズいかな)
 スマホもないこの時代、彼女との連絡手段は家電のみだったし夜に自宅に電話をかけることは非常識とされていた。
(まあそれだと夜分にお宅訪問して屋台の食べ物を届けに行くのもアレか)
 考え事をしながらぼんやり夜空を見上げていると、隣に座っているもう一人の男子が立ち上がった。花京院と二人で屋上を出て行く。
「トーイーレーだってー」
(お、大声でトイレとか言わないほうが……)

 エレベータで下の階にある花京院の自宅に戻った二人は、冷蔵庫から追加のジュースを出しながら作戦会議を行っていた。トイレと言って抜け出し、同性間で話し合いをするというのはどこの合コンでも見られる風景だ。
「頼むよ……ジャミレを少し引き離してくれ」
「なんでその名前で呼んでんだよ」
「だって本名で呼ぶと怒るから……」
「うっわめんどくせぇな。やだよ。俺もアイツ興味ねぇし」
 花京院が誘った友人はどことなく承太郎にタイプが似ていた。少しダウナー気味で、どんなことも興味ないねという風にクールである。
(だからこそ僕が公子ちゃんに構っていても邪魔されないと思ったんだが)
「早く戻ろうぜ、俺は花火は好きだからよ」
 女子の分の飲み物も抱えて再び屋上に上がると、花京院にだけはジャミレからのお出迎えがあった。それを苦笑しながら見る公子と男子は、顔を見合わせた。
「苦労してんな、花京院」
「でもまぁ、花京院くん遠慮がちなとこあるからああいう押せ押せタイプの子と相性いんじゃない?」
「……マジに言ってんのかよ」
「えー。外見的にも美男美女だしさぁ」
 一見すると二人ともどこか垢抜けた感じのする、高校生離れした雰囲気がある。
「主人はあの二人見てお似合いだと思うわけだ」
「んー、うん」
 何か含んだような言い方が引っ掛かって改めて二人を見たけれど、やはりスタイル抜群のお似合いカップルという感想しか出てこなかった。
 新しくもらったジュースの蓋をあける。炭酸がプシュッと音を立ててぬけるように、公子の口からもため息が抜けて消えていく。
(やっぱり花京院くんには、こういう綺麗な人が似合うよ)
 声は聞こえないが二人は楽しそうに身振り手振りで話している。おそらく花京院が何かからかわれているのか、少しうんざりとした顔になると、彼女の方が爆笑しながら肩を叩く。
(美男美女だけどちょっと漫才コンビっぽいな)

「じゃあ今日はありがとう」
 花火も片付けも終わり、マンションをあとにする。男子が女子二人を送っていくと言ったのだが、それぞれの家の方向が逆だとなると花京院も外へ出るということになった。
「じゃあ花京院、私を送ってってよ」
 花京院は目線でもう一人の男子に合図したが、思い切り顔ごとそらされた。
「……構わないよ」
 ため息交じりに返答する花京院の腕にジャミレがしがみ付こうとしたのだがそれを振り払って二人は逆方向へ消えた。
(花京院くん、恥ずかしがり屋さんだなぁ)
「じゃあ俺らも帰ろうぜ」
「うん」



「花火が終わって皆いなくなって、ようやく言葉が通じる状況になったから言わせてもらうけど、僕君のこと一ミリも興味ないんだ。花火の途中で君、彼氏はアクセサリーなんていっていたけど、僕は君のような趣味の悪い女を飾り立ててやるような人間じゃない。今後馴れ馴れしく僕に話しかけないでくれ」
「な、に言って……大体、ウチのクラスとか、他に釣り合う異性いないでしょお互い」
「今日公子ちゃんが君を誘ったのも考えにくい。少し調べさせてもらうけど、いいよね」
「何よ、女子のこといちいち調べまわるとかサイテー!」
「君に興味はないから別に調べなくても構わない。調べてほしくないならさっきの二度と馴れ馴れしく話しかけるなという言葉を了承してくれ。僕が本当に好きな女性に変な誤解をされちゃたまったもんじゃあないんだよ」


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -