小説 | ナノ

(一方的に気まずい……)
 ピザパーティーを終えて週明けの月曜日。花京院は公子の発言をいちいち性的なものに捉えてしまうことを否定しきれず、あまつさえその夜一人で自身を慰めるのに公子の姿を使ってしまったという後ろめたさがあった。
 そのため珍しく公子を避けるように立ち振る舞う。幸いにもクラスメイトは食事会に来なかった花京院と公子の周りに集まってあれこれ話していたので二人きりになるということはなかった。
 だがいつまでも避けてばかりでは話が進まない。数日後、また図書館で二人きりになったところで花京院から話を持ち出す。
「この辺りって来月頃花火大会があるんでしょ?」
「そうそう。もう一か月もないね……三週間後?くらい?」
「見に行くの?」
「いや、人ごみをなめたらダメだよ!隅田川ほどじゃないけどなんせ都内の花火大会だからね、すっごいことになるよ!」
 当日は空撮ヘリも現れるほどの大規模なものだという。近くには屋台が出店しているスペースもあるのだが、そこは一度入ったが最後、人の壁に阻まれて抜け出せなくなるという。
 だがその程度の情報を花京院が調べていないはずはない。
「じゃあ穴場で見ない?」
「穴場?地元民の私も知らない場所が……!?」
「僕の家」
「あっ……あー」
 そういえば以前お邪魔したあのマンションはかなりの高さだった。しかし花京院の部屋から見えるのは道路と隣のビルだと思われるが。
「屋上が解放されてるからそこで見ようよ」
「なるほど!何人くらいまでなら大丈夫かな」
「え……あ……」
 この時点で、公子の中では二人きりではないということに決定されているらしい。一瞬花京院の言葉が詰まったが、勇気を出してそれを否定する。
「二人じゃだめかな」
「二人……?あ、私と花京院君?」
「うん」(公子ちゃん、あと二人なら誘えると勘違いしてたな……)
「うーん、夜に男の子と二人っきりで出歩くのはさすがに親が」
「皆で行くってことにしちゃえば」
「ごめん、嘘つきたくないんだ」
 自分が無断でエジプトへの旅についていくような性格なので普通の高校生の感覚を忘れていた。もちろん花京院が普段こういった素行の悪いことを推奨するような性格というわけではないのだが。
(もしかして僕のこと警戒してるのかな)
(前のドブ掃除後の打ち上げは私のせいで不参加にさせちゃったからなぁ。これ以上クラスの交流の場を私が取り上げるようなまねは……)
 ではなぜ自分を誘ったのか、を考えるまでに至らない公子であった。
「じゃあ、キャンプ行けなかった人を誘ってみようか」
「あ、それいいね!」
「ただマンションの人皆上がってくるからあまり団体だと迷惑になるんだよね。だから僕が男子一人誘うから女子を一人公子ちゃんが誘って、それで四人でどうかな」
「わかったよ。あたってみる」
 キャンプに行けなかったメンツの中に友人が一人いる。彼女を誘おうと図書室を出る前から公子は決めていた。

「……え?」
 花火大会当日。確かに三週間前に友人に声をかけ、友人に了承の返事をもらい、友人に場所と時間を伝えたはずだ。だが目の前にいるのはモデルの彼女だった。
「どゆこと?」
「だぁーかぁーらぁー、あの子は体調悪くていけなくなったから代わりに私が来たんだって」
「そ、そうか。体調ってどういう具合に?」
「知らないっつーの」
「そっすか」
 近くのコンビニで焼きそば、たこ焼き、フランクフルトに駄菓子の綿あめを買い込んで屋上に行く。花京院の言葉通り、マンションの住人のほとんどが上までやってきているようだ。
「こっちこっち」
 場所取りをしてくれていた男子二人と合流する。レジャーシートにクッションを置いただけの簡素な席であったが人ごみを避けてのんびりと花火を鑑賞できるだけで贅沢だ。
「あれ。聞いてたメンツと違くね?」
「代理でーす」
「代理ですかー」
「そうそう、これ見て見て」
 食料とともに先ほどコンビニで買って来たファッション雑誌を広げる。街で見つけたキレイめ女子コーデというコーナーに、彼女の姿が小さく映っている。だが名前は純日本人の彼女の名前ではなく、ジャミレとなっている。
「じゃみ……?」
「これね、ペルシア語で美しいっていう意味なんだって。私がつけたんじゃなくてスカウトしてきたカメラマ……」
 名前の由来説明は花火の打ち上げ音にかき消された。夜空を一瞬真昼に変える花火の閃光に皆目を奪われたが、しばらくするとジャミレが花京院に先ほどの話の続きを熱心にしている。
「こーのーねー、なーまーえーねー……!」
 だがどれだけ声を張り上げても花火の音には勝てるはずがない。先ほどの雑誌には興味を示していなかった花京院だから、今も話半分というか、聞こえてないふりをしてはぐらかしているようにも見える。
 しかし公子の席から見ると、声を届けようと必然的に距離を詰める二人が、特別親しい間柄のように見えた。
(……花京院くん、ああいうタイプが好きなのかな?)


prev / next
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -