小説 | ナノ

 注文していたメニューが到着すると、カステラとおいもさんを交換しながらそれぞれの味を楽しんだ。
 食べるものも食べたしそろそろ帰ろうかという空気になったところで、花京院は封筒を取り出す。
「これ、キャンプの時の写真」
「あー。ありがとー。今見ていい?」
「もちろん」
 これで一緒にいる時間が伸びるわけだ。クラスの女子のように写真を渡すという用件を先に言ってしまうとやはり改札口で「今ちょうだい」となって終わってしまう。
「わー。この写真すごい。どうやって撮ったの?」
 それはハイエロファントで空撮した写真だった。
「高台から身を乗り出してね」
「え。危ないよー」
「大丈夫大丈夫」
「ふわー、綺麗なとこだったんだね。近くにあるのは知ってたけどあんまり写真とか見たことなかったから……ありがとう」
「いや」
「他の子からもね、写真もらったんだ。こっちも一緒に見ようか」
「ああ」
 公子の方からもう少し一緒にいようということを言われると思ていなかったので、花京院の表情が思わずぱっと明るくなった。
 表情に出過ぎではないかと慌てて頬を引き締めようとすると、やはりにやけているのが分かる。
(気を付けよう……)
「あ、集合写真ー」
 一枚目はセルフタイマーで撮った全員の写真だ。花京院はこういった大人数での写真を撮るときは必ず後ろの端に配置される。高校二年生で178cmはなかなか高身長なのだが、つい最近まで一緒にいた人たちが全員規格外の大きさだったためこうやって改めて日本人の中で写真を撮ると自分の大きさが目立つ。
「ねぇ、この子」
 公子の指が前方でしゃがんでいる茶髪の少女を指さす。黒髪の人物の中、彼女だけが髪を明るく染め派手な服装をしている。
 読者モデルの彼女だ。
「かわいいよね。なんていうか、この写真の中で花京院くんとこの子だけいい意味で浮いてるというか」
「浮いてる?」
「いい意味だってば!ほら、二人だけなんかこう、大学のサークルの人って感じがするというか。いや、別に皆がダサいわけじゃなくて、ほら、私だって全然おしゃれとかしないからさ。ただね、花京院くん、こんだけ背が高くて顔もいいとさ、かっこよすぎて目立っちゃうねって思って」
 公子が慌てて訂正するが、どうもうまく言葉が伝えられないようで、あーでもないこーでもないと身振り手振りを交えながら言い訳をする。
 だが言葉を連ねれば連ねるほど、その溝は深まっていく。
「花京院くんはやっぱこう、モデルとかやってるような、綺麗めな女子と並んでると絵になるよねー。ほら、この写真とかさ。肉焼いてるだけなのに雑誌に載ってそうな一枚じゃん。私だったら野生の食いしん坊が人の野に降り立つみたいな図になっちゃうから……」
 言えば言う程、私とあなたは釣り合わないという意味が溢れていく。
(僕は、そんな話をするために君を誘ったんじゃない……)



「本当は今日ね、雰囲気がよければだけど……告白するつもりだったんだ」
 一人の家に帰って来た花京院は、ハイエロファントの触手を指に絡ませながら独り言のようにつぶやく。
 しかしその言葉を最後に花京院は黙ってしまった。だがハイエロファントには自分の本体が何を考えているのか手に取る様に分かる。
 花京院の頭の中でリフレインする、今日かけられた公子からの言葉の数々。

「こういう美人と似合いそうだよね」
「私なんかが花京院君の隣にいるとさ、私の足の短さと太さが際立っちゃうというか」
「今も私多分、周りから美男子と野獣って思われてるよー、きっと」

「自分を下げて謙遜しているつもりなんだろうけど、僕は自分の好きな人が悪く言われているところなんて聞きたくない。そんなこと言うヤツは、例え本人だろうとお仕置きしなくちゃあいけない」


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