小説 | ナノ

 それはエジプトへの道中、あまりにも長い移動時間中の些細な暇つぶしだった。



30ドルのホテルがありました。3人で行ったため一人10ドルずつ払いました。

ところが実際は25ドルであり、オーナーがボーイに5ドル返すようにいいました。

ボーイは2ドルをチップとして着服し3ドルを一人1ドルずつ返しました。

3×9は27で着服した2を足しても29ドルになります。

1ドルはどこへ行ったでしょう?



「え、どこいったの本当に!?」
「今更この有名な問題でこんだけ驚いてくれると何か面白くなってくるな」
「えっ、承太郎知ってるのこれ」
「ああ。しかし論理クイズか……花京院好きそうだな」
「でしょ。他にも色々しってるからね。この問題が解けたら出してあげよう」
「ぬぬぬぬぬぬぬぬ……数学いっつも2だったからなぁ」
「これは数学より国語の問題だと僕は思うよ」

 その日の宿泊ホテルにて。
「では一泊600シンガポールドルとなります」
「はっ!一泊30ドルの部屋が実は25ドルでえっと……」
「まだ解けてねぇのか。いい加減答えを教えてもらったらどうだ」
 ジョセフがカードで決済している隣で承太郎がやれやれといった顔でこちらを見た。呆れているというよりは、半分以上小ばかにしているようななんだかムカつく表情である。だがそんな顔すら整っていると思ってしまうのがまた腹立たしい。
「いやだってこれは答え聞いてどうこうなるってもんじゃないでしょ」
「いや答えを聞いてどうこうなるもんだろ」
「とーにーかーく!考えるから!自分で!」
「部屋取れたぞ。ポルナレフが仇の男についてアヴドゥルと話がしたいようで、大人組と子供組で分けさせてもらった。アヴドゥルはスタンド使いに詳しいからな」
 子供組と呼ばれて今までの承太郎の表情が急に不機嫌になったが、その不満は口に出さずカギを受け取った。
「あれ、アンちゃんは?」
「彼女はスタンド使いとは別の部屋の方が安全じゃろう」
「ですね」
「承太郎、公子に手を出すなよ」
「何故俺だけに言う……花京院にも言えよ……」
 ロビーで待機しているほかのメンツと合流すると、花京院の姿がないことに気づく。トイレに行っているようだ。アンが伝言を頼まれてくれるというので、ポーターを待たせるわけにもいかず部屋へ移動することにした。
「あー、ダメだ。降参!承太郎教えてよ」
 エレベーターの中でついに公子が音を上げる。
「客の支払った27ドルのあとに着服金を加えるのがいけねぇんだ。ホテルに支払ったのは25ドル、着服が2ドル、客に返金された3ドルで合計30ドルだろ」
「……?」
「いや、だから……」
 その後エレベーターを降りてもまったく訳の分からないという顔をし続ける公子に、今度こそ承太郎は呆れかえって見せた。
「だ、だってしょうがないじゃん!」
「さすがにこれで分からねぇなら説明のしようがないな」
 そこに帰ってきた花京院は公子がなにをわめいているのか早速理解し、部屋にあったメモ帳をちぎって机の上に並べた。
「いいかい、公子。まず客三人がこう……10ドルずつ持っているだろ?」
 ちぎった紙を紙幣に見立て、ホテルやボーイと書いた場所まで移動させながら説明をする。
「この問題文の『3×9は27で着服した2を足しても29ドルになります。』というのがひっかけだね。支払ったのは27ドル、そしてホテルが受け取ったのは30じゃない、25+2ドルで27ドルなんだ。着服金は支払った額と足すんじゃなくてホテルの受け取った側に足すべきなんだよ。なぜなら問題が問うているのは客の支払額についてだからね。ボーイの懐の金は支払った額じゃなくてホテルが受け取った額として考えるんだ」
「あー!分かったぁ!納得!」
「おいおい、こんなもんまで使って説明するのは小学校低学年までだろ」
「しょうがないじゃん!」
「大体俺言っただろうが。着服金を足すのが悪いって」
「だってそんなん分かんないじゃん!承太郎のは分かってる人のための説明だもん!いじわる!!」
 ヒートアップしそうな公子をなだめるように花京院が手を叩く。
「あー、はいはい。公子もそう拗ねないの。他の問題出してあげるから。じゃあね、金貨が13枚あり、このうち一つは偽物である。偽金貨は本物と重さが異なるが、重いか軽いかは分かっていない。天秤を3回使って、偽物を見つけるにはどうすれば良いでしょーか!」
「またベターなやつ持ってきたな」
「えー!また私だけ知らないパターン!?」
 先ほどちぎった紙を今度は金貨に見立てて、公子が机の上で動かしながらうなっている。その様子を見て花京院が手で承太郎に来てと合図を出した。
「どした」
 その対応に指を口元にあてて、公子に聞こえないように、小声で話す。
「今度は簡単に答え言っちゃダメだよ」
「随分長いこと悩んでたみてぇだからいいだろ」
「足りないよ」
「?」
「彼女が分からないって悩んでるとこ、僕がもうちょっと見ていたいんだ」
「……おめーさぁ、性格悪いって言われるだろ」







「うーん、降参!もう承太郎には聞かないからね!花京院ー」
(……教えてもらえるといいな。無理だろうが)


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