小説 | ナノ

「テレンスさん、お願いがあるんですが」
 そう言った彼女の手には二種のはさみが握られていた。その形状はどうやら散髪用のもののようだ。
「髪を、切っていただけないでしょうか?」
「構いませんよ。どのくらいまで?」
「ばっさりと!」

 DIOの館の中庭ではロングヘアーから一気にショートカットになった公子を取り囲んで、ネーナ、ミドラー、マライアの三人が髪をいじりながら女子トークに花を咲かせていた。
「ショートでカワイイ女ってのはホンモノよ。髪型で誤魔化さない、素材のいいオンナってやつ」
「あらー、自分のこといいたいのかしら、マライアってば」
「ウフフ、つまり私がカワイイってこと?ミドラー」
「否定はしないけどねぇ」
「ところでさぁ、公子。どうしてまた急にバッサリと……」
 ネーナが核心に触れる質問をすると、今まで髪をいじって遊んでいた二人も聴く体勢をとる。
「私……いや、僕、女であることを忘れようと思って」
「なんでまた」
「スタンド使いとしてまだ未熟なのに、DIOさまに主従以上の関係を求めてしまいそうになるから」
「……そう言われると何だか」
「私たち複雑な気分になるわ」
 DIOに熱を上げる二人はそれを聞いて何ともいえない表情になり、ネーナはやれやれとため息をついた。

 公子の私が僕になって数ヶ月。あの時楽しくおしゃべりしたミドラーもマライアもネーナも、病院からしばらく出られそうにない。そして髪を切ってくれたテレンスも敗北したとヴァニラが教えてくれた。
「ヴァニラ、出るの?僕も行く」
「お前は戦闘向きではない。どこかに隠れていろ」
「いやだ!」
「感情で動くな。そうしないために、お前は女を捨てたのではないのか?」
 結局、去り行くヴァニラを見送ることしか出来なかった。だが数十分後、それを後悔することになる。ヴァニラならば負けるはずがないという思い込みは、邸内を走るポルナレフの影を見て崩れ去った。
(……せめてジョースターの方は、僕がひきつけておかなくては!)
 支柱がクリームに飲み込まれ、いつ崩れてもおかしくない館の中を公子は駆け抜けた。その姿を階段の下から見つめる人影が一つ。公子の存在に気づいているのは彼だけのようで、隣を走る二人はまだ気づいていない。
「承太郎、どうかしたか?」
「いや、まだ数人スタンド使いが残っているようだな」
「誰かいたか?」
「ああ。だが戦う気がねぇなら放っておいていいだろう。時間がねぇ」

 直後、館の頂上付近から飛び降りるジョースター一向と、完全な日没を待って外へ出たDIOを目撃。追う為の足を準備し、壮絶なカーチェイスを繰り広げたところまでは覚えている。だがジョースターの軽トラに突っ込んでから意識を失っていたようで、気がつけば既に主の姿はなく、野次馬が周囲を取り囲んでいた。
 救急車が来ていないということはそこまで時間が経っていないのかと思い慌てて敵影を探す。だが現在時刻はそれなりに過ぎており、救急車が来ていないのは戦闘の爪あとがここ以外にも市内のあちこちにあるからで救急車が足りていないだけだった。
 とはいえ空はまだ暗い。力になれないまでも、せめて血液パックとしてでもいいから役に立たねばならない。ふらつく足を深呼吸して震えを止め、人ごみを掻き分けて高台を探す。そこからならば、見つけられるかも知れない。
 だが、公子がジョースター一行を見つけるより先に承太郎がすでに姿を捉えていた。その大きな手で、公子の肩を掴む。
「!?」
 振り向いた公子が見たのは、緑色の瞳だった。エメラルドの中に怯える自分の姿が映っている。
「やっと見つけた」
 対照的に承太郎はにやりと不敵な笑みを浮かべた。

 本来、神への祈りを捧げるための建物であるモスク。真夜中の宗教施設というのは神秘よりも不気味な雰囲気を醸し出す。それが敵に連れ去られた場所ともなると尚更。
 他に人影はなく、激しい戦闘により混乱に陥った人々の阿鼻叫喚が遠く聞こえてくるのに、妙に静かな気がしてしまう。
「空条承太郎!」
「てめぇの名前を聞いてなかったな」
「DIOさまはどうした!まさか勝てないから僕を人質にしようと思ってるんじゃないだろうな!」
「アイツにそんな戦法が通じねぇことくらい分かる。第一、勝てないからってのはおかしな話だぜ」
「……ま……さか!」
「てめぇのご主人様はもういねぇ」
 ウソ。ハッタリ。そんな言葉でこの不安を拭おうとするがニヤリと笑う不敵な表情があらゆる精神的な抵抗を許さない。
 それに、確かに向こうの車にぶつかったのは覚えている。DIOとジョースターの末裔が邂逅したのは確かなのだ。そして出会えば、どちらかが朽ちるまで戦いが続くことも必至。
 どう思考を巡らせようがシミュレートできる結末は最悪のものばかり。そんな固まったまま動けなくなった公子の意識を叩き起こしたのは、前触れも何もない、承太郎からの突然のキスだった。
「!」
「暴れんじゃねぇ」
「君、何してるんだ!?同性愛者か!?」
「同性?俺のナリを見て女だと思ってんのか?」
「そんなゴツイ女がいるか!君は男が好きなのかという意味だ!」
 瞬間、いつの間にか公子は股を大きな手で掴まれていた。素早いとか見えなかったというレベルではない。まるで時を止められたような感覚に、やはりDIOの敗北を実感してしまう。
「ねぇだろ」
「揉むな!」
「あの館の中でお前を一目見たときから気づいていた。線は細ぇし顔は女だし、何よりお前のど仏がないぜ」
 別に隠すつもりで男装していたわけではないからそういった細かいところに気を配っていなかった。言われてみてそういえばそうだと思ったが今はそんなことを悠長に考える暇はない。
「だからなんだって言うんだ!」
「俺はDIOに勝った。お袋の命はあくまで“返して”もらっただけだ。一つくらい、俺のほうからヤツのものを奪ってもいいような気がしてな……」
「僕は物じゃない」
「だが飼い主がいねぇんだろ?俺のペットにするっつってんだよ。まずはその気色悪ぃ男ものの服を脱ぎな」
 神聖なモスクのフレスコ画が、乱暴に女の服に掴みかかる男の犯行現場を見下ろしていた。
 砂だらけの床に落ちる衣服と、さらしとして使っていた布。それらを取り払えば、やはり自分が女だったということをいやでも自覚する。毎晩風呂に入るたびに思っていたことだ。
「潰すには勿体ねぇもんがちゃんとついてんじゃねぇか」
 嫌いだった二つの膨らみを、大嫌いな男が弄ぶ。手のひらで包み揉み解し、時折突起に爪を立てて強く指を押し付けてはこちらのリアクションを見て楽しんでいるようだ。
 先ほどから何度も拳を握り固めては承太郎の厚い胸板に打ち込んでいるのだがダメージは生じていないようで、そんな抵抗すらも彼の加虐性を煽るだけである。悲痛な声と浮かんだ涙を見てニヤリと笑った。
 不思議なことにその表情に、公子は主の姿を重ねる。こういった表情をよくされる方だった。
(なんで……こんなときに思い出す)
 乱れた衣服の間からちらりと見える、星型のアザのせいだろうか。
「名前……」
「は?」
「まだ聞いてねぇ。いい加減教えろ」
「ふざけるな。死ね」
「……気骨があるほうが、調教のしがいはあるな。何せペットを飼うのは初めてだからよ。まずはご主人が誰かしっかり教えてやんねぇとな。おら、名前も言えねぇ口なら塞ぐぞ、しゃぶれ」
 用を足すときのようにズボンを下ろさずにイチモツをとりだし嫌がる公子の頬に押し当てた。触れた瞬間に液体の感覚があったことに嫌悪感は倍増する。
「やめろ!」
「名前だ、言えよ」
「っ……公子!」
「公子……公子か。よし、公子。言えたのならご褒美をやんねぇとな。足開きな、気持ちよくしてやる」
「いるか!さっさと離せ!戦って殺せ!」
 だがその言葉は全く聞き入れられず、暴れる手を押さえつけて地面に縫い付けられた。既に下着すら身につけていない公子の下半身は、足を左右に割ることで秘部を承太郎の視線に思い切り晒すことになる。
「ひっ!」
 更にそこに顔を近づける。触れてしまうのではないかと目を瞑っていると、ぬるりとした生暖かい感触に思わず声を上げた。おそるおそる目を薄くあけると、臀部を撫でながら股にむしゃぶりつく承太郎が見えた。大陰唇を舌でこじ開け、奥にあるクリトリスを捜して這いずり回る。
「や、やめろ!気でも触れたか!そんな、汚いとこを……!」
 抵抗の言葉に返答どころか顔をあげようともしない。むしろずるずると下品な音をわざと大きくたてて中へと舌を侵入させた。
「そ……こ……やめっ」
 舌を抜き差ししながらクリトリスへの刺激も指で加えてやる。まだ何者の侵入も許可したことのない公子の女性の部分は、承太郎から与えられる刺激に蜜を溢れさせていた。
 ふわふわと脳が溶けていくような感覚。足が痺れ、更に奥への侵入を促すように腰を動かしそうになる。ご褒美と言っていたとおり、その快楽は恥辱を悠々と越えていく。
 だがそれ以上に押し寄せるのは、尿意のような感覚。敵の眼前でそのようなみっともない姿を晒すことへの抵抗と、もうここまで恥ずかしい格好を見せてしまったのだから今更という思いが拮抗する。しかし、人としてあるまじきそれを許すことはできなかった。
「くう……じょ、離れろ、その……と、トイレに行かせて」
「しろ」
「え」
「ここでしろ。それはお前の思ってるのと違うやつだから、我慢するな」
「思ってるのと、違うって……」
「長い間男の格好してて女の喜びってやつを忘れたか?それともまだ知らねぇか?どっちでもいい、いいから、俺の指で一回いっちまいな」
 クリトリスを押さえていた指に力が篭る。更に強く抑えられただけで快楽の糸が切れそうだというのに、そこから円を描くように指を早く動かし始めた。
「あぁ……あーっ、だ、めだ……も……」
 違う、と言っていたのがようやく分かった。公子から噴出した液体は無色透明で、それが潮吹きという現象なのだと体を痙攣させながら理解した。
 びしょびしょによごれた部分を丁寧に舐めとった承太郎が、今度は自分のものを取り出す。
「ご褒美は終わりだ。これからは、俺を気持ちよくさせる番だぜ」
「それだけは……やめろ……」
「自分ばっか気持ちよくなってそりゃねぇだろ」
「やめ……」
 再び眼前に現れた巨大なそれは、皮から赤い頭を覗かせており、先端は公子と同じように体液で濡れていた。
 その姿が、ゆっくりと公子の中に隠れていく。今まで受け入れていた舌よりも圧倒的に質量差のあるそれは、快楽以上に痛みをもたらした。
 その痛みに公子は我に帰る。そしてもっと抵抗しなくてはと思いつつも、やめろ、やめろと壊れたレコーダーのように繰り返すしか出来なかった。クリアになった頭だからこそ、今自分が犯されているのだとはっきりと認識してしまう。
「入ったぜ。いいか、これが、お前の新しいご主人の味だ。俺の形をよく覚えな」
 星型のアザだけを見れば、主に抱かれていると妄想することができるだろうか。打ち付けられる腰の動きに公子の体は揺れ、涙が一筋落ちていった。


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