小説 | ナノ

 放課後の誰もいない教室ですれ違う瞬間、風に流された長い黒髪に思わず指が伸びた。承太郎の太い指と、柔らかで細めの公子の黒髪が絡み合うと二人の視線も交差した。
「なに?」
「あ、いや……きれいだと、思って。実は前から触れてみたいと思ってた」
「……そう」
「好きなんだ、主人のことが」
「ごめんなさい。私と空条くんじゃ、住む世界が違いすぎるからそういうこと考えられない」
 カバンを持ち直して公子は小走りで教室を出た。取り残された承太郎は傾きかけた太陽に眩しそうに眼を細め、窓を開けてタバコに火をつける。
(世界って……なんだよそりゃ)
 世界もクソも同じ空間に突っ立っているのだから同じ世界に住んでいるに決まっている。お互いに触れる事だってできた。それなのに、住む世界が違うというのはどういうことか。
 いや、心当たりが全くないわけではない。自分の素行を振り返れば正直付き合いづらい部分が大分ある。そういうことを彼女も言いたかったのだろうが、
(はいそうですかと諦められるもんでもねぇんだよなぁ)
 紫煙がオレンジの空に溶けていった。

 承太郎が公子にふられて一週間程したある日の昼休み、いつものように人気のない場所に移動して花京院と弁当を食べる。教室で食べようものなら周囲の女子からの差し入れ攻撃がやかましいので空き教室を探してそこで食べる。まあそれは建前で、本当のところは腹がふくれたら一服したくなるからだ。
 ケースの底面をトントンと叩いて飛び出した一本を咥えた所で花京院と目があった。
「あんだよ」
「そんなだから主人さんに住む世界が違うなんて言われるんじゃあないか」
「禁煙してまで女のケツ追いかけたいわけじゃねぇ」
「主人さんの元カレ、随分品行方正な男子だったそうじゃないか」
 ライターが着火した瞬間その言葉を聞き承太郎の動きが止まった。だがすぐに親指に熱さを感じて慌てて手を離す。
「君から相談を受けてね、ちょっと主人さんのことが気になったから色々と女子に聞いてみたんだ。彼女達、快く話してくれてね」
 花京院のことだから無理に聞き出すような真似はしないのだろうが、本人が気づかないうちに重要なことを喋らせるような話術を使ったような気がしてしまう。この温和な笑みの向こうでは計算高い無慈悲な花京院がいることを承太郎は知っている。
「他校生のようだが君とは真逆のタイプだ。進学校に通うまじめが服を着て歩いているような感じの人らしい」
「……じゃあ俺は本当に脈がないようだな」
「そうかい?だって結局別れてしまったんだろ?それに男がこういうのも変な話かもしれないが、君以上に魅力のある男は同年代にはいないんじゃないかな」
「……本当に変な話だな」
「人の気遣いへの対応がそれなら前言を撤回しよう」

 公子と元カレを知る人物いわく、正しくお似合いのカップルだったという。美男美女というわけではないが、公子の大和撫子といったような大人しそうな雰囲気と、男の柔和で優しい笑みが、初心で青い学生同士の恋というものを演出していた。事実公子はクラスメイトと違ってがっついてこない彼の態度に誠実さを感じていたし、彼も公子の色を入れていないそのままの美しい髪が好きだといっていた。
 自慢の、黒髪だった。

 だった。

「ジョジョに色目使ってるからだよ」
 青空に黒く細い髪が舞う。体育の授業のため束ねていた公子の髪がぶつりと刃物で切り落とされ、シュシュがぽとりと地面に落ちた。椿の花が落ちるように、そのままの形で。
 風に乗って飛んでいく髪をぼんやりと見ていた。それを切り落とした女子生徒の手に残る束も、強い風が全てさらってしまった。もみ合ったときについた小さな傷から今頃になって痛みを感じる。
「ざまあ」
 嘲笑を残して彼女は逃げ去った。公子にはそれを追う気力がない。実は産まれてから今までショートカットを経験したことがなく、そっと頭に手を伸ばして軽くなった感触にようやく実感が湧いた。
(……美容室で整えないと)
 シュシュを拾い上げると息を切らした承太郎が視界に飛び込んできた。つかつかと距離をつめ、肩を掴まれる。
「怪我は!?」
「え?」
「髪以外に、怪我はねぇか!」
「あ、いや、つば付けとけば治るようなものだから」
 頬骨に浮かぶ赤い線を手で隠そうとしたが、その前に承太郎の口が傷に優しく触れる。
「えっと……あの……」
「さっきアイツが、お前の髪はもうないとかぬかしてきたから何事かと思って来た」
「ああ」
 説明の必要はなさそうだが、ざっと今あった出来事を承太郎に話す。要するにクラスメイトの女子の逆恨みにあって髪の毛を切り落とされたのだが、その逆恨みの原因が承太郎なのだ。承太郎が公子の髪をつい目で追っていたから、それに気づいた嫉妬深い女子が凶行に及んだということだ。
「髪……」
 と言いながら公子の頭を撫でる手が震えている。刃物を持った生徒が校内をうろついているという恐怖、ではないだろう。承太郎がその程度のことで震えを起こすような人物ではないことは知っている。これは、怒りの震えだ。
「あは、空条君もこの髪好きとかいってたけど、なくなっちゃったね。でも、よかったのかもしれない」
「未練がましく前の男のことを考えなくてすむからか?」
「知ってたんだ」
「最近聞いた。だがな、俺は別にお前の頭髪を好きになったわけじゃねぇぞ。お前を全部ひっくるめて、だ」
「……彼も、そういってくれればよかったんだけどね」
 失った髪に触れながら公子は思い出を回顧した。彼が好きだったのは公子のおしとやかな雰囲気だ。横につれて歩くのに邪魔にならない程度にしか自我のない性格と、人に自慢できる見栄えする容姿。
 何となくそういった玩具がほしいだけなんだと気づいてから距離を置くようにした。すると自分の手から離れるという、意見を持つような女はいらないとばかりに突き放された。自ら離れておいてなんだが、公子はまだ多少の未練が残っていたのだ。だがそれも、この髪と一緒に切り落とせるだろうか。
「前の男のことは忘れられそうか?」
「……さあ」
「忘れさせてやる」
 髪を失った部分をぼんやり触っている公子を見て、承太郎もまた一つの考えが頭を支配していた。今ここでなら、多少強引ではあるが上書きできる。公子の、恋愛感情に自分という存在を塗りつけられる。
(逆に、ここで手を離せばコイツは一生髪を見るたびに違う男を思い出す。今、奪うしかねぇ)
「空条くん……?」
「目、閉じな」
「……ごめんなさい、私やっぱり前の……」
 髪を切り取られたあとに更に暴力的に支配するのは、彼女の心の傷を抉ってしまうだけではないかという不安がないわけではない。だが承太郎の獣のような本能が理性と良心を封殺し、その言葉の先言わせないようにした。
 校舎の壁面に公子の背中がぶつかり、そのまま承太郎の胸板とで押しつぶされそうになる。苦しそうに酸素を求めて逃げた唇に噛み付くように更に執拗に追い求める。
 呼吸を荒げる公子の様子に、抵抗する体力をあらかた奪ったことを確認する。何度目かの「やめて」を無視したあと、承太郎はとうとうズボンのジッパーに手をかけた。
 体を密着させていると、手の動きとそこから現れた熱がよく分かる。公子は見えはしないがナニを取り出したのかはっきりと理解してしまった。
「や……助けて……××××くん!」
 恐怖に歪んだ顔が、自分から逃げて別の男を求めている。そうではない、傷つけるつもりはなく、ただ自分を見て欲しいだけなのだと、言葉で説明するこよりも手が動いた。思い浮かぶ言葉を文章にする程度にも頭が回らない。それよりも繋がってしまえば理解出来るという自分勝手な行動理念が承太郎の動きを支配していた。
「主人、怖がるな。気持ちよく、なるだけだ」
 体操服のズボンを降ろす。太ももが外気に触れたことで公子の体は跳ね上がった。同時に授業開始を告げるチャイムが鳴る。授業をサボって、外で男子とこのような行為に及んでいるという背徳感が、公子の感度を倍に膨らませた。
 公子の腹部で下着越しに擦っていたものは更に肥大化し、先にシミを作った。用を足す際の隙間から性器を取り出すと体操服の中に侵入させる。ヘソの凹みに先が引っかかると承太郎の低い声が漏れる。
 承太郎が膝を曲げて位置を合わせている。どの場所にあわせているのか、それが分からないほど公子は無知ではない。何もつけていないそれをナカに入れようとすることが恐ろしく、だからといってこの場面を人に見られたくなくて、悲鳴を飲み込んだ先から声が出そうになる。その悲鳴のような小さな呻きに、一つ甘いものが混ざった。
「……ここか?」
 クリトリスを、承太郎のものでいじられる。先端が濡れているため、ぬちぬちと卑猥な音をたてながら滑らかに動くそれに、公子は思わず身震いした。
「これがそんなに気持ちいいってんなら、いれずにこのまましてやる」
「うっ……」
「ん?そーでもねぇのか?」
 つまり、ゴムのないこの状態で挿入されたくなければ、ペッティングですんでいる今の内に感じていると示さねばならない。そう、気持ちがいいと口に出すか、嬌声をあげるということだ。
(そんなの……無理だよ、恥ずかしすぎて)
「もっとよくしてやろうか?」
 無言は催促ととられた。ペニスの先端が少しずつ降りながら割れ目を探している。
「ち、違うあの……こんなとこじゃ、やだ……。体育のあとで、汗もかいてるし」
「いい匂いだ。シャンプーと、お前の汗がまざった匂いがする。なぁ、つまりここじゃなきゃいいってことだよな?」
「……」
「違うのか?」
「私……」
「どっちでもいい。今は忘れてなくても、とりあえず俺のほう見とけ。な」
 そういいながらクリトリスをキュッとつまむ。痛みを通り越した先の快感が公子を小さく身震いさせた。
「学校、ふけようぜ」



 放課後、花京院に一通のメールが入る。

主人の制服と荷物もってウチに来てくれ。


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