ただ一方的に、強引に、傘を握り込ませただけの関わりのはずだった。

こんな雨の日に佇む有名人が、あんまりにもあんまりだったから。
俯くその人の横顔がきらきらするほど綺麗で、瞬きひとつで消えてしまいそうで、ざあざあ降る雨を構いもせずに軒下のぴかぴかしたものを眺めてて、なんだか哀しかったから。見てらんないやって思ったから。
だから、わたしには少しだけ大きめで飾り気のない傘をあげただけ。そのとき差し出せるものがそれしかなかっただけ。
雨で足音に気付かなかったのか、ぼんやりしてたのか。急に消えた雨粒に、ようやく瞬きをして。単なる雨粒を飛び散る芸術にした人はたぶん、驚いてた。
なんにも言わなかったし、ババっと腕に挟み込むように傘を持たせた後は、走って帰ったから……はっきり顔を見たわけじゃない。
でも、ほんとのほんとに綺麗だったなぁ。
マジックショット持ってたら撮りたかった。シェアはしないけどね。

次の日には風邪をひいた。
わたしでこうなんだから、あの人はもっと酷いことになってるかもしれない。見惚れてた時間はほんの少しだったと思うけど、もっと脊髄反射みたいに動けたら良かったのになぁ……なんて思いながら寝込んでた。
この話はこれでおしまいだと思ってた。続きようがないし、関わりのない遠い人だし。これからは今までより目を向けるだろうけど、それだけだし。

だから、連打されてるチャイムに急かされて這って移動してドアスコープ見たらその人がいるのはおかしいんだよなぁ……???熱が見せる幻覚か???あ、待って待ってなんかドアスコープ越しなのに目線がすごい合致してるまってまってまって
コンコンコンコンコン
ノックめっちゃしてるぅ……

「ああ、やはりいらっしゃいましたか!昨日は傘をありがとうございました…よろしければ直接お礼を申し上げたいのです。ふむ?もしやお加減がよろしくないのですか?救急隊に連絡いたしますか?」
ガチャッ
「結゛構゛でずぅ゛う゛…」
「おやおや…風邪をひいてしまわれたのですねぇ。僕なんかに傘を譲ったばかりに…いけませんねぇ、紳士として見過ごせません!」

んふっ♪と微笑みを零しながら、薄ら開けたドアを元気よく掴んで足を差し込んだ昨日の有名人。ウッドマンが誇るギルド、虹の彼方のマイスター。心無い人が死神と呼ぶ人。目の下のクマ以外は麗しき紳士。
解体士ホロウがなんでわたしの家を訪ねて来るんですかねぇ……!!

♪♪♪
ホロウくんの探偵力に夢見てるのとずぶ濡れにしたい癖。儚くて美しいホロウくんが傘を返しに来てくれただけの話。
ここから始まる職業未設定モブ系ジーナとホロウくんのラブコメがどこかにあるんですか???読ませてください。
雨の日と傘

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