第五幕 6
「――お疲れ、氷高くん。今日はもう、ゆっくり休んでくれ」

「はい。絃さまも」



 すっかり屋敷も静かになったころ、氷高と絃は帰ってきた。時刻はもう日付を越えそうになっている。氷高は絃と別れると、スーツケースを引っ張って自分の部屋へ向かっていった。荷物を置いたらすぐにシャワーを浴びに行こう、そんなことを考えながら。

 屋敷の中は、灯りがほとんど消えていて、ぽつぽつと常夜灯がついているくらいである。だから、氷高は違和感にすぐに気づいた。

 ――氷高の部屋の灯りが、ついている、ということに。

 扉の隙間から、光が漏れているのだ。中には誰も居ないはずだし、電気のつけ忘れなんてこともあるはずがない。氷高は訝しげに眉を潜めながら――そっと、部屋に近づいていく。



「あっ……」



 そっと扉を開けて、氷高はつい小さく声をあげてしまった。ベッドに――契が、寝ていたのだ。頭まですっぽりとふとんを被った状態で、髪の毛だけをちょこんと覗かせて。



「せ、契さま……?」



 なぜ、自分の部屋に契がいるのか。まさか氷高が出張に行っている間に契が氷高のベッドを使っていて、そして今日は氷高のことを想ってベッドの上で泣いていたら、泣き疲れていつのまにか寝てしまっていたなど――そんなこと、氷高にわかるはずがない。氷高はただただ混乱することしかできず、そして契を起こすわけにもいかないから行き場を失い、とりあえず部屋の中にはいったもののどうしたらいいのかわからなかった。

 これは客間のベッドを使うべきか……そんなことを考え、とりあえず箪笥から寝間着だけを取ろう――そう思った時。



「ん……」

「せっ、契さま」



 ベッドが、もぞりと動く。起きてしまったのだろうか……氷高は肝を冷やし、固まる。案の定、契は目覚めてしまったようで……もそ、と布団から顔を出し、ごしごしと目を擦っている。



「……ひだか?」

「あっ、は、はい!」

「……夢に出てくるとか、……最悪、氷高……」

「はっ、え、……す、すみません」



 どうやら契はまだ寝ぼけているらしく、氷高の姿を認めても「夢」としか思っていないようだった。ぼけーっとした表情で氷高を見て、不機嫌そうに目を細めている。

 あからさまに自分を疎むようなことを言われて、氷高は心臓のぐさっと杭でも打たれたようなショックを受けた。渡独する前から契が何か怒っていたのは知っていたが、こうも「素」の状態でそのような言葉を吐かれると、流石に傷ついてしまう。

 氷高はどんよりと気分を落ち込ませながらも、契を寝かしつけようとベッドに近づいていった。もう一度枕に頭を乗せてやれば、また寝息を立て始めるだろう――そんなことを考えて。



「まじ、……夢にまで見るとか、俺、……どんだけ、……」

「契さま、ちょっと失礼します、寝ましょうね、契さま」

「……氷高、なあ、氷高」

「はい、なんですか、契さま」

「……キス、して。そしてそのまま、ずっと、傍にいろよ、氷高」

「……はい?」



 しかし、氷高は契の口から出た言葉に固まってしまう。普段の契ならまずありえない、甘ったるい誘い文句。「寝ぼけているからだ」と自分に言い聞かせたいところだが、寝ぼけているにしても何故自分に対してそんなことを言ってくるのか。

 混乱に混乱を重ね、しかし契にキスはしたくて、氷高は契の誘いに乗ろうと意を決する。ドイツにいる間、ずっと契のことを考えていたのだ。寝ぼけているにしても「キスして」なんて言われて、それを跳ね除けられるわけがない。

 

「契さま……私も、貴方の夢を何回もみたのですよ。貴方とこうして――ベッドで、キスを……」

「氷高……」



 氷高がベッドに腰を掛けて、契の頬に手を添えれば、契はうっとりとしたような顔をして氷高を見つめてきた。

 夢の中で、この人は何を考えているのだろう。夢の中の自分とは、どんな関係なんだろう――……そんなことを考えると、氷高は狂おしい気持ちになった。

 契が、目をとじる。頬を染めて、期待いっぱいにキスを待っているその顔は、まさしく恋をしている表情だった。氷高は夢の中の自分に嫉妬をしながら、そっと唇を寄せていき――……



「――……って、ちょっと待て! えっ、待て! 夢、じゃない!? は!? これ、夢じゃない!?」

「……ッ、なぜ突然目を覚ますのです!?」



 あと数ミリで唇が重なる、というところで。

 氷高は契に突き飛ばされた。



「ひ、氷高……!? な、ななななんでおまえがここにいる!?」

「なんでって……私の、部屋ですから…… 」

「えっ、あ、ああ!? べ、別に俺はおまえがドイツに行っているあいだずっとおまえのベッド使っていたとか、そんなことしてないからな!  た、たまたま、その、たまたま今日はこのベッドで寝てみようかなとか思っただけであって、」

「契さま」

「な、なんだよ」



 契はもはや混乱状態に陥っているようだった。氷高のベッドを使っていたことがバレた、心の準備もできていないのに氷高と再会した、そしてうっかり寝惚けて「キスして」と言ったら本当にキスをされそうになった。様々な衝撃が、契の冷静を奪ってた。

 氷高は、そんな契を可愛いと思った。自分の見ていないところで愛らしい行動をとっていたなんて、狂おしいに決まっている。でも――氷高は、そんな「可愛い」をぐっと抑えこんだ。

 ――言わなければいけないことがある。



「……ただいま、帰りました。契さま」

「……、おう」



 そうだ、「ただいま」。その言葉を、氷高は契に言わなければいけなかった。

 その、ただの挨拶のような言葉は。今の氷高にとって、何よりも大切な言葉だった。礼儀とか、そういった問題ではない。氷高のなかの、ある決意のために。



「……氷高。あのさ」

「はい」

「……みたよ。父さんがあげていた写真。氷高の、……エーゴン監督と一緒に写っている写真」

「――……!」



 その、決意。それを、氷高は契に告げようとした。しかし、その決心がすぐに崩されてしまう。

 混乱をなんとか鎮めて、静かに語りかけてくる、契。そんな彼の言葉に、動揺したのだ。なぜなら、氷高の決意とは――……



「……氷高、楽しそうだったな。……俺、嬉しいよ。氷高が、自分の夢に向かっていっているの」

「――契さま……!」



 氷高の決意、とは。自分の夢のこと。

まさか、契の口からその決意に関わるワードを発せられるとは予想していなかったため、氷高は驚いてしまったのだ。そもそも、氷高がドイツでエーゴン監督と会っていたということを、契が知っているとも知らなかった。



「……いいと、思う。氷高、おまえが行きたい道を進めよ。俺に、それを止める権利はない」

「……契さま」

「父さんも一緒にいたんだろ。それなら、氷高の想いは父さんも知っている。執事をやめるのにそう面倒なことにはならないだろ。すぐにでもここから出て、そしてドイツに移住しろよ。おまえのためだ」

「……止めない、んですか?」



 さらには、次々と契の口から出てくる言葉が氷高の決意を揺らがせた。

 氷高にドイツへ行くことを勧めるような、離れ離れになっても寂しくないとでも言っているような、そんな言葉が氷高の心を傷つけた。契が、自分の夢を応援してくれているのだと、わかっていても。

 

「……止めないよ。だって、俺とおまえは、ただの――主人と、執事じゃん。」

「……、それは、……そう、ですけど、……」

「……おまえだって、……そう思っているだろ。止めるほうが、おかしいんだよ」



 しかし、揺らいだ氷高の決意は、また、再び息を吹き返す。一瞬見せた契の表情が、あまりにも切なそうだったからだ。氷高を突き放すようなことを言いながら、泣きそうに、瞳を震わせている。

 様々な感情が溢れ出てきて、喉の奥に不快感が生まれてしまった。それを解消するように、氷高は、ごく、と唾を飲み込む。こめかみのあたりがさーっと冷たくなっていって、それと同時に、どくどくと心の臓が高なっていく。



「……契さま。ひとつだけ……聞いてもいいですか?」

「……なんだよ」

「……主人と執事である前に、……契さまと、俺。そう考えた時、貴方と俺はどういう関係になるんでしょう」

「……へ、なにそれ。知らないよ。幼馴染? ご近所さん? なんだろうな」

「……明確な、名前はないかもしれませんね。でも、……俺は、……貴方に、……契さまとして、俺を、引き止めて欲しい」

「は?」

「ドイツにいくなって、言って欲しい。もう二度と俺の傍から離れるなって、言って欲しい……!」



 契の、自分の感情を抑えこむような表情に焦燥を覚えて、氷高はついに爆発させた。

 たくさん、考えたことはある。きっと、契がそのような言葉を言うに至ったのは、今までの自分の態度が原因だ。主人と執事という関係からはみ出ることがないように、肝心なところで抑制してしまっていたせい。それが今まで正しいと思っていたし、これからもずっとそうやっていこう――そう思っていたけれど。

 契の、表情。本心を隠すことが下手な、彼の顔。それを、見ていたら。切なそうな顔をしたり、焦ったようにキスをしてきたり、やきもきして怒ったり。そんな契を見ていたら、氷高はあることに気付いたのだ。

 ここまで、抑えこむ必要はどこにあるのだろうかと。

 契に、特別な感情を向けてはいけないと思っていた。「ご主人さま」である契に、特別な関係を期待することは不敬にあたる、そう思っていた。彼は主人、自分は執事。その枠から出ることはあってはならない――そう思っていた。けれど、違う。そうやって、自分の「本心」を抑えこんで、肝心なところだけを絶対に言葉にしないで、そうしていたら――契は、こんなにも哀しそうな顔をする。それは、「氷高 悠唯」として正しいことをしているというのだろうか。



「……契さま」

「え、」

「どうか、バカな奴だと笑って聞いてください。俺は、ひとつ、ドイツで決意したことがあるのです」

「……、うん、」

「……俺は、貴方のそばにいる。その選択をとります」

「――は!?」



 だから、氷高は決めた。抑制はしない。自分の気持ちと向きあおうと。それを契がどう思うのか、それを完全に見通すことは不可能だ。しかしそれでも、自分の心を隠し続けるほうがきっと、契にとっては哀しいこと。



「ば、ばかかおまえ! 本当にそれは大馬鹿だ! どこの世界に夢を捨ててまで、契約関係なんか続けるやつがいる!」

「――そうです、俺は大馬鹿です! 俺のすべてをかけて、恋を選んだ、大馬鹿です!」

「――え……?」




――何を、氷高は言っているんだろう。

 契は氷高の言葉に、固まってしまう。珍しく氷高が声を荒げたことにもびっくりしたし、何より……氷高の言った言葉の意味自体がわからない。

 「恋を選んだ」――とは?



「……絃さまには、止められました。そして、貴方も私の考えを否定する。掴めそうになった大きな夢を捨てるなど、愚か者がすることだと、俺を糾弾する。けれど――……けれど! 俺は貴方が好きだ……! 貴方がいない未来なんていらない、貴方が傍にいないのに夢を叶えても、俺は幸せになれない!」

「えっ、あ、あの、……ひだか……?」



 今までの氷高からは考えられないような勢いでド直球な告白をされて、契は思考がフリーズしてしまった。完全にキャパオーバーである。かーっと顔を赤くし、おろおろと視線を泳がせて、しどろもどろに「いや」「あの」と口ごもるばかり。

 ずっと会えなくて、ずっと触って欲しくて、でもなんでそんな風に切なくなってしまうのかわからない。そんな悶々とした想いを抱いていた氷高に、あまりにもわかりやすい告白をされて、契の頭の処理が追いついていないのである。今自分は嬉しいのか、恥ずかしいのか、びっくりしているのか。今まで自分は彼のことを好きだったのか、嫌いだったのか。ぐちゃぐちゃと頭のなかが混ざり合って、結局ひとつにまとまらない。

 ようやく絞り出したのは――……氷高の幸せってなんだろう。そんなこと。自分が彼をどう思っているか、それよりも、彼にどうしてほしいのか。契はその想いを最優先させた。彼の幸せのために、自分が彼にいうべき言葉はなんなのか、それを考える。

 焦る頭を落ち着かせ、興奮気味の氷高を見据え。契は軽く息を吸って、出来る限り落ち着いた声色で、声を発した。



「……昔、氷高……言ってたけど」

「……はい?」

「……亡くなった、由乃さんに……『夢を追い続けて』って言われたんだって。氷高はそう教えてくれた。いいの? お母さん、氷高に……映画監督になってほしいんじゃないの?」

「……母さんは、……夢を追うための能力を、がんで失ってしまったから。だから、健康体の俺にそう言ってきたんです。……映画監督になる夢も、応援してくれた。けれど、母さんが『夢を追い続けて』って言ったのは、別に……映画監督を目指し続けろって意味ではありません」

「違うの?」

「俺に幸せになってほしいってことだったんです。母さんにとっての幸せは、歌うことだった。だから、歌声を失って幸せも失ってしまった。俺には夢を諦める理由なんてどこにもないんだから、どうか幸せを諦めるな、夢を追い続けてって……そういう意味で母さんは俺に言ったんです」

「……氷高の幸せ、って」



 なぜ――こんなにも、氷高の幸せについて自分は考えているんだろう。別に、氷高はただの執事なんだから……俺のしたいようにすればいいじゃないか。契は氷高の切羽詰まったような顔を見ながら、そんなことを思う。彼を拒絶したいのなら、すればいい。彼と一緒にいたいのなら、傍にいろと命令すればいい。それなのに契は――氷高が幸せになるために、自分はどうすべきか……そんなことばかり、考えている。

 正直。「傍にいろ」と命令したい。その理由もわからないけれど、とにかく氷高には傍に居てほしい。けれど、それが彼のためにならないのではないかと考えると、その言葉はでてこない。

 契の葛藤に、氷高は気付いているのだろうか。いや、気付いていないだろう。氷高は氷高の中で、葛藤していたのだから。契の気持ちに気付く余裕など、なかった。



「俺の幸せは……契さまの、傍に、……。……いえ、」



 しかし――お互いに、お互いの葛藤に気付くことはなかったが、お互いの想いは重なりつつあった。契は絞りだすような氷高の声に、こく、と唾を呑み込む。彼の表情に、思わずどきんと心臓が跳ねた。

 氷高は震える手で契の手を取ると、ゆっくり、持ち上げる。その手が本当に震えていて、汗ばんでいて、あまりにその氷高の様子が珍しいものだから、契は呆然としてしまった。

 氷高は顔を赤くして、瞳を震わせて、そっと契の手の甲に唇を寄せる。手の甲に吐息がかかって契がびくりと手を震わせると、氷高までビクッ! と体を震わせた。

 あと数ミリ、触れるか触れないかの距離で、唇が触れる。そこで氷高は動きを止めた。伏し目がちの目を隠す睫毛が震えていて、契まで緊張してきてしまう。



「――貴方を、好きでいることです。」



 そこからの氷高に――契は目を奪われた。

 迷ったように、苦しむように、瞳を震わせ……そして、目をとじる。懇願するように、あまりにも淑やかに、氷高は契の指先に口付けたのだ。



「氷高――……」



 氷高にとって、契に恋をするということは――不敬にあたること。しかしそれでも、もう、想いを抑えることなんてできなかった。とうとう、告白してしまった。ずっとずっと抑えこんで、無視してきた想いに答えを出してしまったのである。

 氷高は、ここに来るまでに、契に想いを伝えようとは覚悟していた。しかし、その覚悟に至るまで、酷く苦しんだ。自分の中で、執事として持つべきだと信じていた倫理観と激しく戦っていたからだ。主人に恋をしてはいけない、と。なんとかそれに打ち勝っても、いざ告白してみると――凄まじい後悔が迫り来る。

 きっと、契さまは不愉快に思ったに違いない。執事が主人に恋心を抱くなど……無礼だと、侮蔑するかもしれない。



「……氷高。顔、あげろ」

「……、契さま」



 顔を赤くしたまま、自らへの嫌悪感に項垂れる氷高。契はそんな氷高を見て――糸が切れたように、ふっと小さく吹き出した。辛そうに、もがくように、そんな顔で告白をされて。契は氷高に、なんとも言えない愛おしさを覚えたのだ。

 契は氷高の頬を優しく撫でると、柔らかい声で命令した。なかなか聞けない契のその声に、氷高はハッとしたような顔をして、顔を上げる。



「……俺さ、氷高には世界に羽ばたいて欲しいって思っていたんだよ。でも、そんな顔で好きなんて言われたらさ、……」

「契さ、ま」



 契が、両手で氷高の頬を包む。そして、こつ、と額をぶつけてきた。

 氷高が、目を見開く。契の瞳に――涙。そして、顔には……困ったような、優しい笑顔。



「……どんだけ俺の存在がおまえのなかででっかいんだよ。好きって言うのにそこまで緊張すんなよ。いくら俺が契さまでもさ……ばかじゃねえの」

「……、」

「いいよ、俺のこと好きになっても。俺が許す。おまえは幸せになれ」

「契、さま……ッ、」



 ――契が、氷高の恋を許した。それは、氷高にとって何よりも嬉しいことだった。

 今まで自分を抑え込んでいた鎖が一気に壊れた氷高は、がばっと勢い良く契に抱きつく。勢いのあまりそのままベッドに押し倒してしまえば、契が「はいはい」と氷高の頭を撫でてくる。氷高はとうとう耐え切れなくなって、涙を流して……契をキツく抱きしめながら、嗚咽を上げ始めた。




「ほんと、おまえ、ばか」

「はい、……俺は、……ばかです、……好きです、……契さま、……好きです」

「ばかだよ、マジで大馬鹿。馬鹿すぎて……呆れる」



 契はぶつぶつと氷高に悪態をついていた。複雑な気持ちが、心の中で渦巻いていた。

 氷高は、本当に夢を諦めてしまっていいのだろうか。自分のせいで、未来の氷高 悠唯という映画監督が登場しないなんて……それは許されるのだろうか。そんな風に氷高の恋を許したことを後悔しながら――氷高に、こうして想いをぶつけられることに喜びを覚えていた。彼の恋心を一心に浴びることが、本当に嬉しかった。
 
 自分は、エゴイストなのだろうか。そんな、自己嫌悪を抱く。それでも、どうしても……こうしていたい。彼とずっと一緒にいたい。絡みあう想いがかえって熱となり、契は狂おしい想いを抱いていた。心臓の鼓動はドクンドクンとあまりにも激しく、息をするのも苦しい。



「こっち見ろよ、」

「はい、」



 何が、正解なのだろう。そんなことが、どうでもよくなってくる。

 契に声をかけられ、氷高が少しだけ体を起こす。至近距離で契と目を合わせれば――契は顔を真っ赤に染めて、甘い声で言ってきた。



「……ばか執事。」



 なぜか、その言葉が酷く愛おしげで、氷高は胸が震えるのを感じた。契はそれを悟ったのか、氷高の頭に手を添えて――軽く、自分の方へ引き寄せる。

 二人は、唇を、重ねた。熱く、激しく重ねた。



「契さま――……」




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