十六(2)

 言いようのない喪失感に襲われて、織の全身から力が抜けてゆく。このまま体から心までを支配されてゆくのだと思うと、ひどく哀しくなった。



「くく、よく言った。お望み通り……おまえのいやらしい体を抱いてやろう」

「あっ……」



 ちゅぷ……と音がたてられて、織の孔から指が引き抜かれる。そして、織を縛りあげていた天井に括り付けられている縄がぶちりと切れて、織の体は畳の上に崩れ落ちた。

 ぐったりとしてしまって、畳の上に力なく横たわる織。散らされた花のようなその体を、玉桂が抱え上げて布団まで運んで行く。



「さあ、私を楽しませてくれ、咲耶」

「うっ……」



 上半身は縛り上げられたままうつ伏せにされ、腰だけを持ち上げられる。秘部を玉桂に突き出すような格好をさせられて、織は羞恥で体を熱くした。空気にさらされヒクヒクと疼くそこに、じっとりとした玉桂の視線を感じる。



「ひ、ぅ……」



 ぴたり、孔に熱いものの先端をあてがわれ。孔がきゅうんっと締まる。欲しがりなソコに玉桂は厭らしい笑顔を浮かべた。がしりを織の細腰を掴むと、その状態のまま軽く腰を揺すり始める。



「ぁっ……んっ、あっ……」



 先端で、いりぐちを擦られる。にゅるっ、にゅるっ、といやらしい感覚に、織は目をとろんと蕩けさせて悶えた。

 奥の方に欲しくてたまらなくて、もうナカ全体がきゅんきゅんとヒクついている。玉桂も、織の体がそうして焦れていることをわかっているのだろう、わざとらしくずるんずるんとソレを擦りつけてばかりでなかなか挿れようとはしない。



「ん……ん……」



 しかし、織が目を閉じてぽろぽろと涙を流し、頬を染める――そんな愛らしい悶え姿をみて、玉桂自身も焦れてきた。この可愛い可愛い織に、ずぶっと奥まで挿れてあげたら……どんなに悦ぶだろう、それを想像すると、なかなかに耐え難い。



「――挿れるぞ、咲耶」

「あっ……」



 玉桂のモノも、はちきれんばかり。流石に耐え切れなくなった玉桂が、とうとうソレをナカに挿れてゆく。



「あっ――あ、あぁあ、あ……」

「ああ、やはり名器だな……すごい締め付けだ」

「は、ぁッ――……あ……」



 ず、ず……とゆっくり肉棒は侵入してゆく。ぎゅうぎゅうと締め付け悦びの声をあげる肉壁に、玉桂は瞳を眇めた。すさまじい快楽、征服感。ぐりぐりと奥へ奥へと押し込んでゆくと、織をこの肉棒だけで支配しているような気分になる。

 最高だ。最高の気分だ。

 玉桂はくっと吐き出すように嗤い、そして、――ズドンッと奥を突き上げた。



「アッ――」



 びりびりとした刺激が襲い、織は意識が飛びそうになった。待ち望んだ挿入に体中が悦びの声をあげて、指の先まで力が抜けてゆく。



「は、あ、……」



 強烈な快楽で、織の体はぴくぴくと細かく震えて動かなくなってしまった。腰だけを高くあげて、力なく布団に這いつくばっている。

 玉桂はぐったりとした織を見下ろして、恍惚と目を細めた。乱れた着物からはだけた白い肌は行燈の灯に染められて、艶めかしく桃色に染まっている。そんな柔肌に食い込む、紅い縄。抵抗するようすもなくくたりと腰をこちらに突き出している姿は、堕ちた女のよう。

 あまりにも美しくて、あまりにも淫らで。耳をくすぐる吐息混じりの声は、愛らしい秘めやかさ。玉桂の征服欲を煽るに過ぎるくらいの、織の色香がそこにあった。



「たまらないなあ、咲耶。昔よりも善くなったんじゃないか?」

「ふっ……う、……」

「肉体(いれもの)が昔とは違うような気がするが……もしやその肉体が上質なのか?」

「……っ」



 あまりのそれに、玉桂は黙ってはいられなくなった。

 ぐぐっと腰を織の尻に押し付けて肉棒を最奥まで押し込みながら、覆いかぶさるようにして織を抱きしめる。そして、ぐっと顎を掴んで無理矢理に視線を交わす。



「そうだ、昔の咲耶にはなかった……おまえのような透明は。いくら穢しても穢しても、おまえはなかなか私に染まろうとはしない」

「ぁ……わたし、は……もう、じゅうぶん……あなたさまの、ものに……」

「ふふ、なってないなあ。美しいのだ、おまえは」

「んんっ……」



 奥に挿れたまま、玉桂が腰をゆっくりとゆすりだした。ひくひくっと震えた織の睫毛に、涙の雫が光る。



「あっ……あぁ……あ……たまかつらさま……ん……あっ……」

「おまえは、きっとまだ、私と口付けできないのだろう?」

「……っ、そんな、こと……、……そんな、こと、な……、……」



 くちゅ、くちゅ、と水音が部屋に響く。敷布がこすれる音が耳に障る。最奥にぐりぐりとされたままナカを擦り上げられて、織のアソコはとろとろに蕩けてしまってる。

 秘めやかな織の吐息、それを奪うようにして玉桂は顔を近づけたが――織の瞳からは、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。



「うっ……うー……あっ、……あ、……うー……」

「そら、まだできない。ふふ、燃えるなあ、おまえを堕としたくてたまらない」

「おとし、てぇ……たまかつら、さま……ぁんっ……あっ……」

「くく、なんと愛らしい」



 イカせてもイカせても、心のどこかで想い人のことを忘れらない織のことが、玉桂は気に入ったらしい。

 「咲耶」は、はじめから心を闇に堕としていた。淫らで美しく、しかしそこに魂の輝きが存在しなかった。魂はここでようやく、織が「咲耶」と違うということに気づいたらしい。どんなに犯しても穢しても、決してその輝きを失わないこの肉体(いれもの)は――「咲耶」ではない、と。



「――おまえ、名をなんという。おまえ自身の名前を、私に告げるがいい」

「あ……、ん、ぁ……織、です……碓氷 織……と申します……あっ……」

「そうか――織、か。美しい名だ――ああ、おまえを嫁にしたくて堪らなくなったよ、織。何が何でも、おまえの心を竜神から奪ってやろう」

「ひぁっ……」



 「織」。その名を呼び、玉桂はにんまりと微笑んだ。口にしてみればその響きは心地よく、この肉体と魂に真にふさわしいもののように思えた。

 玉桂は織をぐっと抱き上げると、向い合せに座るようにして、もう一度織のナカに熱を挿入する。縄を断ってやり、解放されたその体をぎゅっと抱きしめてやった。



「あぁんっ……!」

「ふふ、可愛い奴よ。織、はよう、私のものになるがいい」

「あっ、あぁっ……! 私は、たまかつらさまの、もの、ですぅっ……あんっ……」

「くく、そうかそうか、では私と結婚せねば。私に一生を捧げよ。それまでに――完全に、私のもとへ堕ちてこい」



 ぐんっ、と織を突き上げれば、織は蕩けた声をあげて、ビクンビクンと震えた。自由になった手で玉桂に抱きついて、ちかちかと飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止める。



「次の満月の晩――婚儀を開こう。そこでおまえは、私の永遠になるのだ。なあ、織……婚儀では、口づけをしようではないか」

「ぁんっ、あっ、わたしは、……わたしは、っ……あっ……」

「私もおまえに、本気になってしまったようだ」

「あぁっ――」



 奥を、最奥を、何度も突き上げられて。ナカに精を注がれると、それと同時に織もイッてしまった。どぷどぷとナカが満たされていって、織ははーはーと深い息をつきながら、玉桂にぐったりともたれかかる。



「……たまかつらさま……」



 こんなにも、玉桂に抱かれることに快楽を覚えてしまうのに。ナカに注ぎ込まれてソコをきゅんきゅんとさせてしまうのに。どうしても、どうしても……口づけだけができない。いつまでもいつまでも、脳裏に鈴懸の名をちらつかせてしまう自分が、恨めしくてしょうがなかった。



「……わたしに、……恋を忘れる方法を、教えてくださいませんか……たまかつらさま……」



 ビクンビクンとイきながら、涙を流す織。玉桂はそんな織のこめかみに口づけを落とし、苦笑いをする。



「――それができたなら、私はこんなに必死になっていないさ」







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