「――え? 有栖川邸に?」



 織が屋敷の外に出なくてはいけなくなった理由は、難しいものではなかった。碓氷家と権力を等しくする家・有栖川家から舞踏会の招待をうけたのである。今までも、碓氷家にそういった催し物の招待は来ていたが、織が参加するのは初めてだ。いつも屋敷の外に出て妖怪に襲われることを避けていたが、今の碓氷家が最もお近づきになりたい有栖川家に招待を受けたのでは、次男である織は断れない。



「……俺が外に出れば危険な目にあうのは知っているだろうに。死んでもいいと?」

「そんなわけないだろ。ちゃんと護衛をつける。今回ばかりは出て欲しいんだ、織。碓氷家のために」

「……いいよ、わかった。別に死んでも構わない。生きていても何にも楽しくないし、碓氷家のために死ぬのもいいんじゃないかな」

「だからちゃんと織の安全は確保したうえで、……」



 ただ、織はその決定に納得できていない。危険な目にあうとわかっていながらも、碓氷家の顔をたてるために外に出されるのではあたりまえだろう。しかし、それ以前に織は他人の言葉を受け入れるということをほとんどしない人間だった。

 屋敷の外に出れば妖怪に襲われる――だから、ほとんど外に出ない、人と交流しない。他人とほとんど接しない生活を続け、人と話すことが億劫になってくる。

 そして人と話さなくなって「碓氷家の次男は偏屈者だ」などと陰口を叩かれる。そんな負の循環は、織の心を少しずつ腐らせていった。父も母も、そして兄も、織のことは大切に想っており、気遣うようなことを言ってはいるが、織にとってはそれすらも嫌味にしか聞こえない。



「しっかりと織のことは護る。そんなに卑屈にならないでくれ。俺も、そして父様も母様も、おまえのことは危険な目にあわせたくないんだよ。正直今回のことだって、気乗りしないさ」



 だから、必死に諭そうとする識の兄――伊知(いち)の言葉も空回り。織はツンと遠くを見つめたまま、伊知の顔すらも見ようとしない。

 結局のところ、納得しているのかしていないのか、そんな状態で織は屋敷の外へ連れだされることになったのだ。


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