「おまかせください。私(わたくし)が織さまのことをお護りいたします」



 時は明治、文化の華が開いた時代。闇と光の混沌するこの時代、光の中を生きる者は華やかな世界を往来していた。碓氷(うすい)家もその人種のひとつ。大財閥の家として、大きな権力を持っていた。

 碓氷 織(うすい しき)は、碓氷家の次男にあたる青年である。濡れ羽色の髪の毛が色っぽい、美青年。一目見れば必ず心が奪われるほどの美しい面貌であるが、彼はほとんど屋敷の外に出ない。

 理由は、あった。織は人間の他にも、黄泉の世界の者までもを惹きつけてしまうのである。結界のはられた屋敷から一歩でも外に出れば、「魔」の者が寄ってくる。それらが一体なぜ織に寄ってくるのか定かではないが、外に出る度に命の危機に瀕してしまうのでは、屋敷の中に閉じこもってしまうのは仕方ないだろう。

 そんな彼が、この日は外に出ることになった。もちろん、襲われる心配もあるため、護衛をつけて。織と共に箱馬車に乗った少女・詠(よみ)がその護衛である。強力な陰陽術を使える霊媒師であり、屋敷に結界をはっているのも彼女だ。



「織さま、大丈夫ですよ。私がそばにいれば、妖怪は織さまに手をだせません」

「……うん」



 碓氷家の者たち、そして本人も。不安を拭えないでいたが、今は詠を信じるしかない。雲行きの怪しいなか、箱馬車は出発したのだった。
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