「――白百合さま」



 織と鈴懸が去って行くと、詠が白百合におずおずと話しかける。詠は、白百合から「呉須の池」について全て知らされていた。そのため織のことを大層心配していたのだが……今の話を聞いて、気になることができたらしい。



「鈴懸さまは、力を取り戻しているのでしょうか。それなら、私ももっと安心して織さまを送り出せるのですが……」

「鈴懸か? ああ、前よりもだいぶな」

「……それは、どうしてですか?」



 鈴懸が力を失っているのは、信仰する人間がいなくなってしまったから――それは、詠も聞いていた。そんな鈴懸が力を取り戻してきているのは、なぜだろう。今更彼の神社に誰かが訪れて、鈴懸に祈ったとは考えづらい。



「奴のことを信じ始めている人間が、いるじゃないか。たった一人の人間でも強く奴のことを想ったなら、奴の力は再び戻ってくる。彼との関係がもう少し良くなれば、奴も昔の力を取り戻せると思うぞ」

「えっ……その人間って」



 詠がはっとした顔をすれば、白百合はにたりと笑う。

 もう少し、鈴懸の力が戻ったら、鈴懸の姿を見ることができるだろうか。詠はそう思って、少し楽しみになった。
_32/225
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ #novel数字_NOVEL# / TOP ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -