「呉須(ごす)の池?」


 安住の村の一件から数日。白百合と詠から知らされた、新たな目的地は「呉須の池」というところだった。

 安住の村の戯という妖怪のことを思えば、そう危険な場所ではないのだろう……織も鈴懸もそう思って彼女たちの話を聞いていたが、どうにも白百合と詠の表情は堅い。もちろん、織も鈴懸も儀式にはまた「あの行為」が必要になるとわかっているから気乗りはしていないのだが、彼女たちの表情をみてますます行きたくなくなってしまう。


「あそこには、強い怨念が渦巻いている」

「……怨念?」

「怨霊に祟られないように気をつけろよ。力のない鈴懸に変わって、妾がそなたに魔除けの術を施してやろう」

「そんなに危険な場所なのか?」


 あんまりにも白百合が念押しをしてきたため、織も怖気付いてしまう。詠は顔を蒼くしてうつむいているから、全てを知っているのだろう。実際に旅にいく織と鈴懸が恐怖を覚えないように黙っているのだろうが、それがかえって二人の恐怖を煽っている。


「とくに、咲耶の霊を持っているそなたは、強い影響を受けてしまうかもしれない」

「……?」


 中途半端な情報をぽろぽろとこぼしては、肝心なことを言わない。そんな彼女を織は不満に思ったが……鈴懸もついているし、白百合にも魔除けをしてもらえるし、大丈夫だろうとも思った。


「ふふ、鈴懸も少し怯えているのか?」

「は? 馬鹿言うな」

「まあ、そう怖がるな。大丈夫さ、おまえは少しだけ、力を取り戻しつつある」

「……え? なんで?」

「ふふ」


 白百合が笑う。

 頼りない安心感と、不安。なんとも言えない心境で、次の行き先は決定したのだった。
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