四十六

「うっわ、何これ。呪術具?」

「違う……彼女なりの、贈り物だ」

「……へえ〜。またすごいものを……」



 櫨と接することはどうしても避けられないので、彼と世間話をする機会が強制的に存在した。割と頻回に話題としてあがるのが、咲耶の話題だった。僕と櫨が破局するきっかけになる女ではあったが、僕自身彼女については興味があった。怖いものを見たくなる心理のようなものだ。あの、悍ましい化け物について、僕はもっと知りたかったのだ。

 そうして咲耶の話をしている最中に櫨がみせてきたのが、かざぐるまだった。一見すると普通のかざぐるまだが、すさまじい妖気を発している。聞くところによると、咲耶が贈り物だと言って渡してきたもののようだが……僕には、櫨を呪う物体にしか見えなかった。



「咲耶の思念というか、なんというか。これ、あんまり長く持っていないほうがいいと思うよ」

「……、たしかに、普通のかざぐるまでないことはわかるが……咲耶からもらったものだ。やすやすと捨てられるものか」

「いや、櫨のために言ってるんじゃなくてさ。咲耶のために、だよ」

「……咲耶の?」

「……これは、強力な咲耶の思念が込められている。これがこの世に存在していると、咲耶の邪念が永遠にこの世に留まり続けることになる。たとえ、死んでもだ。咲耶が、永遠に呪いとして存在し続けることになってしまうだろう」

「それは、……そのとおりだ。しかし、」

「櫨が捨てられないのなら、僕が棄ててやろうか」

「……」



 櫨はかざぐるまを手放すつもりはないようだが、しぶしぶと僕の提案に頷いた。これを奪ったところで櫨がどうにかなるわけではないが、とにかくこのかざぐるまはこの世に存在してはいけない――それが、直感でわかった。

 ふと、僕は考える。もしかして、咲耶は何匹もの妖怪にこのかざぐるまをあげているのではないか、と。それならば――そのかざぐるますべてを消さねば、咲耶の魂は永遠に救われない。――無理だ。そんなことになっていたのなら、咲耶を救うことなど、無理だ。どの妖怪に、何匹の妖怪に、咲耶はかざぐるまを渡したというのか。それを把握することなど不可能だし、そのすべての妖怪からかざぐるまを回収することなんてできるわけがない。

 何か――何か、方法はないのだろうか。あの呪われた魂を、完全に浄化する方法は――……



「……吾亦紅?」

「あ、いや……。櫨のかざぐるまは、たしかに僕が処分しておこう。……あまり、咲耶にいれこまないでよ、櫨。君が、危険だ」

「……ああ、」



 僕は考えたが、咲耶の魂を浄化する方法など、思い浮かばなかった。孤独の憎悪、それらに塗れたあの魂。それを、僕がどうこうできるはずもなかったのだ。

 僕は、咲耶をなんとかしてやりたい。僕の恋敵ではあるのだが、それ以前に、あまりにも憐れだったから。


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