二十二
 鬼というのは、心がもろに容姿に反映されてしまうらしい。考えてみればそうだろう。鬼は、人の邪念を種として生まれた生き物なのだから。魂の形や心が、その姿として表れるのは至極当然のことのように思われる。

 もちろん、別人のように変わるわけではない。しかし、他人から見るとなぜか違って見える……そんな風に変化するようだった。

 それを実感したのは、つい最近のことだった。



「やだ、吾亦紅さんだわ、相変わらずお美しい」

「わあ、ほんと。いつみても素敵ね」



 僕に、女が寄り付くようになってきた。そもそも今まで存在ごと疎まれていた僕は、女に好かれるなんてことがあるわけがなかった。

 こうなってきたのは……やはり、櫨との生活が影響しているのだろう。荒み切った心は、櫨と暮らしているうちに浄化されていった。そして、澄んできた心が容姿に反映されて、女が寄ってくるようになってきた……ということらしい。

 ただ、女が寄ってくるようになったのは、ここ最近のことだ。突然、ぱたりと世界が変わったように、僕に何人もの女が寄ってくるようになったのである。これは、僕の急激な心の変化があったということだろう。その原因は――僕が、一番知っているのだが。



『あっ……だめ、……』



 初めて一緒に寝た、あの夜から。櫨は、僕を求めてくるようになった。口吸いは拒絶してしまったからそれはやってこなかったが、僕の体に触れてくるようになった。あの夜は首筋だけだったが、日を追うごとに肩、背中、腰……と徐々に触れる範囲が広くなってゆく。櫨は僕に着物を脱ぐように言ってきて、そして……丁寧に、僕の体を愛撫する。



『いやならいやと言っていいのだぞ。断ったところで、俺はおまえをこの家から追い出したりはしない』

『……うる、さい』

『ふふ、俺に……こうされたいのだな、吾亦紅。憂いやつ』

『や、やかましい! 余計なことをぺらぺらと……あっ、……ひっ、ぅんっ』



 櫨は、いつでも僕が逃げ出せるように、布団のそばに僕の刀を置いて、僕にはしたないことをしてきた。それが、わざとだとはわかっている。僕が言葉のままに櫨に触れられることを拒むのなら、刀をとって櫨を斬りつければいいのだ。斬るまではいかなくとも、鞘に納めたまま殴ることだってできる。僕がそれをしないのが――僕の答えだと、櫨はわかっていた。その強かさは憎たらしかったが、言葉にすることが苦手だった僕には心地よかった。



『吾亦紅……気持ちいいか。可愛い声がでているが』

『……っ、んっ……ぁ、』

『……耳まで赤いな。わかりやすい奴だ』



 昨夜の櫨は、いつもに増して意地悪だった。僕を煽るようなことをたくさん耳元でささやきながら、僕の体に触れてくる。

 しつこく、乳首をこねくりまわされた。この場所が感じるのかそうでないのかはわからなかったが、そこをいじくられるとたまらなく切ない気持ちになって、そして櫨に女にされてしまったような気分になる。いよいよ、僕は櫨に体で屈してしまったのだと、そう思うと、妙に興奮してしまった。僕は、彼だけにこうして体を許してしまうのだと。



『……っ、はぜ、』

『……おう、悪い、吾亦紅。おまえがあまりにも可愛いから』


 うつぶせにされた状態で責められ続けていたが、不意に腰のあたりにずっしりと重量のあるものを感じて僕は一瞬の恐怖を覚えた。……櫨の、勃起した一物だった。僕のものなど比べる対象にもならないほど、大きい。凶悪なほどに太く長いそれを腰にあてられ、僕は本能的な恐怖を覚えてしまったのだ。



『怯えるな、今日は挿れない』

『今日、は……』

『……いつか、これでおまえを狂わせてやりたいのだが……このとおりデカくてな。ちゃんとおまえの体をこれに合わせていかないと』

『まて……なぜ、挿れる前提で話を進める。僕はまだいいとは言っていな――あっ、はぁっ……ん……!』



 こんなに大きなものを挿れられたりしたら、ひとたまりもない。僕が拒絶しようとすれば――櫨が、ぎゅむ、と乳首を根元から強く引っ張り上げた。僕がたまらず甲高い声をあげて弓反りになって体を震わせれば、櫨が乳首をつまんだままぐっとのしかかってくる。もちろん――馬鹿デカい一物を僕に押し当てたまま。



『挿れたい……俺は、おまえに挿れたいのだ、吾亦紅』

『ぼ、僕を殺す気か! そんなものはいるわけないだろう!』

『……しかし、……おまえのなかに、入りたいよ。なあ、吾亦紅……可愛い、俺の吾亦紅……』



 大きすぎる櫨の一物は、すっかり彼の着物からはみ出て丸出しになっていた。赤黒く、太い血管の浮き出た、凄まじく大きなそれ。雄々しいを通り越して禍々しいそれを目にして、僕は自分の中の雄が消えてゆくのを感じた。このような、雌を狂わせるためにだけ存在するような一物の前では僕は男なんて名乗れない。僕もまた、櫨の前では雌になるしかなかった。

 櫨はどん、と一物を僕の尻の割れ目に置くと、そのままゆっくりと体をゆすり始めた。僕の手首を掴み、完全に僕を組み敷いて。



『吾亦紅……』

『ば、ばか……櫨……あっ……あ、ぅ……』



 ずるんずるんと僕の尻から背中にかけてを熱い肉棒が往復する。それはまるで生き物のようで、僕はこれからこれに壊されるのだと思うとおかしくなってしまいそうだった。感じてしまった。こうされることを待ち望むように、僕は一切の抵抗をすることなく、ただただ彼にされるがままになっていた。

『吾亦紅、吾亦紅っ……』

『あっ、あっ、あっ、……』



 櫨の息があがっていき、体をゆする速度が上がってゆく。僕の体も彼の息遣いに合わせて興奮が増していった。櫨の汗の雫が僕の体に何滴もおちてきて、荒い吐息を耳に吐きかけられ、僕を喰らわんとする勢いで僕に発情する櫨に、僕の体はばかみたいに反応した。無意識に腰を振り、何度も櫨の名を呼び、泣きながら声をあげてしまった。



『孕んでくれ、俺の子を、吾亦紅、……吾亦紅っ……』

『櫨、……あっ……あぁああっ……!』



 櫨は達する瞬間、僕の尻肉を鷲掴みし、肉棒の先端を僕の尻穴に押し当ててきた。そして、入りもしないそれをねじこむようにグイグイと押し込んできて、そのまま――精を吐き出す。先端すらろくにはいっていなかったせいで、精液はどぷどぷと僕の尻に飛び散った。



『吾亦紅……』

『あっ……あん……』



 櫨の吐精は長かった。櫨は精液を出しながら、さらに僕の穴に肉棒を押し付けてきた。征服され、櫨の雌となった僕の体は、その強引な種付けも悦んでしまう。ぐぐっ、とすさまじい圧を尻にかけられ、僕は体を小さく痙攣させながら甘い声をあげていた。

『吾亦紅……愛しい、吾亦紅……』



 櫨の射精が終わるころには、僕の体は彼の精液まみれになっていた。ぐったりと、動けなくなって横たわる僕を、櫨が抱きしめる。



『……吾亦紅、俺の妻になってくれないだろうか』

『……僕の性別は、雄だ』

『俺が神になっておまえと婚姻すれば、おまえも子を産める体になる。いい考えだろう』

『……神って……閻魔大王の使いにでもなるつもりか。たしかにあれになればおまえに神性がつくが……あれはろくな仕事じゃない』

『おまえと結婚するためだ。妻のために必死に働く夫もいいものだろう』

『……勝手にしろ。何年後の話になるんだか』

『ふふ。それまでおまえの体を俺の一物に慣らしておけばいいのさ』

『ばっ……馬鹿か、おまえは! はしたないことをよくもそう平気で……』



 櫨が僕に頬ずりをして、幸せそうに笑っている。その顔があまりにも間抜け面だったから、僕はそれ以上憎まれ口をたたけなくなって、ため息をつくことしかできなかった。



『なあ、吾亦紅』



 ぬるい時間が流れている、そう感じる。今までの僕では考えられなかった。こうして丸腰で、裸で、自分よりもずっとずっと体格のいい男に抱かれていることなど、ありえないことだった。



『……口吸いをしても、いいだろうか』



 初めての口吸いは、どきどきした。他人の粘膜に触れることが、こんなにも気持ちいものだとは思わなかった。

 なぜか、泣いてしまった僕に、櫨が言う。



『泣くなよ、吾亦紅』



 笑え、と。


 
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