「詠……ここは、」



 織の部屋から離れた、地下通路。ランプを持ちながら歩く詠の後ろを、織は恐る恐る着いてゆく。

 詠は、神妙な面持ちで織の部屋に訪れたと思うと、黙って織を部屋から連れだしたのだ。わけがわからず織は詠についていったが、ここまで来ても一体何があるのかわからない。電気も通っていない地下通路なんて、織は存在すらも知らなかった。



「織様……今回は、私の力不足で危険な目に合わせてしまって、申し訳ありませんでした」

「いや……詠のせいじゃないよ」

「いえ、私のせいです。このままでは、これから織様は、いつまたあのような化け物に襲われるのかと不安に駆られてしまうのでは……そう思いました。私が、あまりにも弱いから。私のような弱い陰陽師が護っていたところで、不安は拭えないでしょう」



 静かな声で、詠は語る。

 今も、鈴懸は織の隣に憑いている。やはり詠には見えていないようで、織もわざわざ鈴懸のことを詠に言うつもりはなかった。



「織様……私は、決めました。どんなに自らの身が危険に晒されようとも、貴方様を護ると」

「詠……?」

「――この先には、碓氷家に封印されているという神様がいます。神様……と言っても、邪神に近いものです。人を呪う恐ろしい神様。しかし……とても、力は強い。私はその神様と契約をして、力を得たいと思っています」

「えっ……契約って……陰陽道のことはよくわからないけれど、そんな危険な神様と契約をしたら、詠が危ないんじゃないの」

「いいのです。わかってください、これは織様のためでもあるけれど、私自身のためでもあるのです。貴方を護ると……そう誓った、私のため。私の誇りを護るため」



 階段を降り、一番下まで降り――大きな、扉の前までたどり着く。護符が何枚も貼られた、禍々しい雰囲気を醸し出す扉。「いかにも」といったそれに織が固まっていると、詠は表情も変えずに護符を剥がしてゆく。



「ですから、みていてください。私の覚悟を、見届けてください。そして……どうか、未来をあきらめないで」



 扉が、開く。黙りこむ織を、隣で鈴懸が見つめている。



「――何か、答えてやれば」



 鈴懸の言葉に、識は応えない。口を閉ざしたまま――歩みだした詠の後ろを、ついていった。
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