君の世界に色が付く。

 俺たちが起きたのは、お昼を少し過ぎた頃。母さんが用意していってくれた昼食をレンジで温めて食べたあとは、リビングでソファに座ってのんびりとテレビをみていた。そういえばこうしてリビングでいちゃいちゃするのは初めてかもしれない。いつもは家族がリビングにいるから、一緒にいるといったら俺の部屋だったからだ。



「おっ、沖縄。夏がそろそろくるな〜」

「……海」

「涙は海、好き?」

「……べつに」

「まじで? 俺もなー、泳ぐのはそんなに好きじゃないけど、ただ綺麗な海を眺めてるのは好きだな。心が洗われるっていうか」



 テレビでは、沖縄特殊をやっていた。レポーターがダイビングをしていて、きらきらとしたブルーが画面いっぱいにひろがっている。まだ沖縄に行ったことがなくて、こうした綺麗な海を見たことのない俺にとっては、憧れの景色だ。

 でも、涙はあまり興味がなさそうだった。ぼーっとテレビを眺めていて、とくに目の色を変えることもない。海に興味がない人もいるよな、と思ってテレビのチャンネルを変えようとしたところで、涙がぽそりと呟く。



「……いきたい」

「ん?」

「……海に、いきたい。結生と、一緒に」



 あれ、と思う。やっぱり海に興味があるのだろうか。俺が涙の顔を除きこんでみると涙は俺の目を見つめ返してくる。



「……一回海に行ったことがあるけれど、綺麗って思わなかった。でも、結生となら……違うかもって」

「……うん。海、綺麗だよ」



 なんだか、涙の言葉が悲しい言葉に聞こえてきた。俺はそっと涙の肩を抱き寄せて、頭を撫でてやる。

 いつか、涙を海に連れて行ってやろう。ほかにも、綺麗な景色のあるところに連れて行こう。そして「綺麗」って感じてもらいたい。



「涙。海、いこうな。俺と一緒に海に行こう」

「……うん」



 頷いた涙は嬉しそうにしていた。どこへでも、連れて行こうって思った。二人でどこまでも行きたいって思った。それだけの簡単な想いなのに、なぜか、切なくなった。




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