触って溶かしてあげましょう。

「ふあ……」



 ああ、眠いな。

 1限目から授業にでていた俺が頭の中で考えていたのは、ずっとそれだった。だって、この時間はいつも寝ているし。机に突っ伏して寝たい気分だけど、今教壇に立っている先生は厳しいことで有名だ。居眠りなんかしたら怒鳴られてしまう。でも、真面目に授業なんて聞いていたらそのまま意識を失ってしまう……そんな危険にさらされた俺がみつけた暇つぶしが、



「――はい、じゃあ芹澤、そこ読んで」

「はい。……風すこしうち吹きたるに、人はすくなくて、さぶらふ限りみな寝たり……」



 芹澤観察だ。

 先生たちのお気に入り芹澤。あてられても決して間違えることなく、朗々とした声で答えて……そんな様子がいつも癪だったけれど、昨日の今日だと違って見える。ピンと伸びた背筋とかすました顔とか……あれで、昨日男に襲われかけて、しかも俺に触られて泣いたんだもんなぁ……って考えるとよくわからない興奮に駆られてしまう。

 ああした高飛車でクソマジメな奴こそ、めちゃくちゃにしてやりたい。きっとそれは、人間のもつ破壊衝動みたいなもの。普通はそれを押さえつけることはできるけれど、相手がすっごく嫌いなやつだからその抑止力が緩んでいるのかもしれない。とにかく俺は、芹澤を泣かせてやりたい。あの泣き顔を、もう一度見たい。

――芹澤が、嫌いだ。嫌いだから泣き顔に興奮する。

 いつの間にか自分のなかを芹澤が満たしていることに、びっくりだ。嫌いな奴でいっぱいになるほど――不快なことは、ない。



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