涙に青空が溶ける。

「……」



 むすっとした顔で、芹澤が俺の隣を歩く。「一緒に帰ろう」、そう誘ってみれば芹澤はあからさまに嫌な顔して断ってきた。でも……なぜか、こうして俺の横を歩いている。誘ってみた後、「意味わかんない」「なんで藤堂なんかと」と俺に文句をいいながら、結局芹澤は俺に歩幅を合わせてついてきたのだ。



「……で、芹澤ってどこに住んでんの」

「東京」

「いやそれは知ってるけど! 帰りはどの駅使うんだって」

「それ知ってどうするわけ?」

「いや、送っていけねえじゃん」

「送る? なんで?」

「ん?」



 一緒に帰るんだし、芹澤がどの駅を使うのかは把握しておかなくてはいけない。でも、芹澤はそんな俺の意図を全く掴んでいないようだった。嫌味で教えてあげない、というわけではなくて、本気で教える意味がわからないといった風である。

 なんでだろう、あんまり人と一緒に帰ったりしてないからかな、と思ったけれど。ふと、ある一つの答えを思いつく。



「……あれ、もしかして……今日も俺の家、くる?」

「へっ?」



 もしかしたら、芹澤は今日も俺の家に泊ろうと当然のように思っていたのかもしれない。だから、わざわざ自分の使う駅を教える意味がわからないって思った。

 ……図星のようだった。そんな、至極あたりまえのように俺の家に泊まろうとしていた自分が恥ずかしくなったのか、芹澤はカッと顔を赤らめる。



「あっ……いや、べっ、べつにっ……泊まりたいとか思ってないし! な、流れでなんとなくこのまま藤堂の家にいくのかなって思って……」

「じゃあ今日はこないのか?」

「へっ……」



 今日は芹澤はなにをするつもりだったんだろう。また夜まで新宿にいるつもりだったなら、それは放っておけない。そう思って聞いてみれば、芹澤はパッと俯いて俺から目を逸らしてしまった。



「……」

「……俺、16:09の電車乗るから」

「え、えっと……」

「……あんまりもだもだしてると乗り遅れるけど」

「えっ……」



 こいつは絶対に「泊まりたい」とか口で言えない。芹澤はムカつくし、口で言ってくれないものをわざわざ家に連れて行くことなんてないのに……俺はおせっかいをしてしまった。高崎線のホームはあっち、って俺が指をさせば、芹澤の表情が微かに和らぐ。ああ、今日もうちに来てくれるんだな、ってそれを見て悟る。



「……行きたいとかべつに思ってないから」

「へいへい、夜の新宿は危ないから田舎で過ごしましょうね」



 顔を赤くしながら、芹澤はぶつぶつと俺に悪態をついてきた。言ってることはなかなかに腹立つことばかりだけれど、表情が可愛いからなんだか許してしまう。

 あれ、なんで俺絆されてるんだろう。これだけ悪態をつかれたら突き放してやってもいいんだけどな。

 俺の横をついてくる芹澤を横目で見ながら、いよいよおかしくなった自分にため息をつく。でも、今日も芹澤が家に来てくれるってことに喜んでいる自分が、たしかにいた。




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