“Tear”

 自分の家からは、目を背けている。

 あの人のやっている仕事、家にたくさん送られてくる督促状。知れば知るほどに心が圧迫されるだろうと感じ取っていたから、俺は敢えてそういったものを避けてきた。避けてきたから、よくわかっていない。

 どうすればいいのだろう……そうすれば、俺は、そしてあの人は。普通の家になれるのだろう。

 俺は学校についてからもそればかりを考えていた。授業にも集中できず、休み時間も一人でぼーっとして。心配してきた結生が話しかけてきたけれど、そこで今考えていることを全部吐き出したら、みんなの前で崩れてしまいそうで。悶々と、ずっと、行き場のない煙が充満したような、なんともいえない不快感が胸の中にとどまっていた。



「……涙。大丈夫か。今日、なんか調子悪い?」

「えっ……ううん。ほんと、大丈夫」

「……でも。ほら、もう昼だからさ。外行こう。悩みあったら、そこで聞くからさ」

「……うん。あ、」



 でも、どうしても一人で抱えるにはつらかったから、吐き出してしまいたかった。幸いにも、結生が外で話を聞いてくれるというから、一緒に外に行こうとしたけれどーー俺は、大事な用を思い出す。

 そういえば今日は、生徒会の仕事でやらなければいけないことがあったんだ。



「ご、ごめん。昼休みは生徒会室いかないとだった。今日、結生の家、いっていい?」

「そっか。ああ、もちろん。おいで」

「うん」



 昼休みに入って、もう5分ほど経ってしまっている。結生には申し訳なかったけれど、俺は慌てて生徒会室へ向かっていった。




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