金色の午後の日差し、白黒の海。

「昨日、春原と何があったの?」

「えっと〜……ちょっとゆうのことを慰めたというか……」

「それ、そんなに恥ずかしいこと?」

「ううん……裸を見たり一緒に寝たりしたからかなあ……」

「ハダカヲミタリイッショニネタリシタ?」

「いやっ、だからそういうことはしてないんだってば。そういうことは結生としかしないよ」

「えっ、あっ、うっ、うんっ、唐突にデレるのは卑怯だぞ」



 春原についていってみれば、春原は生徒会室に飛び込むと、席についたきり放心していた。ぼーっと椅子に座って、そわそわと落ち着かない様子で髪の毛をいじったり手をいじったりしている。俺たちはそんな春原を、教室の外から覗き見ていた。



「……ゆうね、誰にも見せたことのないキズを見せてくれたんだ。正直どきどきしちゃった。人のキズをみるのは、初めてだったんだ」

「……」



 相変わらず、濁して答える涙の言葉からは、二人の間になにがあったのかを詳しく読みとることはできない。ただこれは、後ろめたくて隠しているわけじゃなくて、二人の問題だからあんまり俺に言いたくないんだと思う。春原が、涙にだけみせたという「キズ」を、涙が俺に話してしまってはいけないから。

 恋人として、それが気になってしまうのは仕方ないけれど。でも、それで春原が救われたのなら良かったと思う。ああして照れくさそうにしている春原なんて、少し前までの彼からは考えられなかった姿だから。それに、それを見て涙が安心したような表情を浮かべているのが、何より嬉しかった。



「……涙」

「ん……?」

「がんばったな」

「……!」



 涙の頭を、なでてやる。そうすると涙はびっくりしたように目をぱちくりとさせたあと……ちょっとだけ、目を細めた。

 あ……笑った。

 たぶん、ほかの人が見たらわからないだろうけど、涙が笑った。

 すっごく、久しぶりだ。どんなに嬉しくてもなかなか笑わない涙。きっと心の中に、自分でも自覚しないような凄まじい不安が、たくさんたくさん渦巻いているから。でも、その不安のひとつが抜けた今……涙が、笑顔を見せた。

 ああ、可愛いな。本当に愛おしい。たくましくなった。嬉しくて、嬉しくて、思わずキスをしたくなってしまう。さすがにこんな場所でするわけにもいかないから……手だけ、繋いでもいいかな、なんて思って。そっと手を伸ばした――そのとき。



「あー! 春原先輩!」

「えっ」



 真後ろで、素っ頓狂な大声が聞こえた。振り向けばそこには――逢見谷。



「春原先輩! 春原先輩! よかった、無事だ……よかった……!」

「お、逢見谷……そうだ忘れてた、連絡すればよかっ」

「春原先輩!!」

「うわっ」



 逢見谷は春原のことしか見えていないようで、俺たちを押しのけて生徒会室に飛び込んでいった。尻餅をついた涙は唖然として逢見谷の背中を見ていたけれど……やがて、困ったようにまた「笑って」、立ち上がる。



「いこ、結生。きっとゆうは、大丈夫」

「お、おう……」



 涙への愛しさに胸がいっぱいになっていたタイムが急に終了して、俺は展開についていけないでいた。そんな俺に手を伸ばしてきた、涙。

 涙が俺に手を差し伸べてくる日がくるなんて、って。もう、すごくすごく嬉しくて、にやけてしまった。にやにやとしてなかなか立ち上がろうとしない俺を見て涙が不思議そうな顔をしていたから、慌てて涙の手をとった。





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