Hell of scenery

「……ッ、」



 夢、を、みていたらしい。恐ろしい、夢を。

 藤堂に、酷いことを言われる夢。でも、それは決して夢の話じゃないと、思う。夢の中で言ったようなことを、藤堂は、言葉にしないだけで思っているかもしれない。

 藤堂が、俺と一緒にいて辛いのは、当たり前なのだ。藤堂は優しいから、あそこまで側にいてくれたけれど、絶対に、いつかは疲れてしまう、そう俺は思っていた。違う誰かと、平凡で穏やかな幸せを得ることに、焦がれるのだと、そうわかっていた。

 だって……気付いたから。夢の中では、言えた言葉。「好き」と、俺は夢の中で、藤堂に言えた。ずっとずっと、言いたかった言葉だったから。夢の中ではぽろりと言えたのかもしれない。そして、ずっとずっと言えなかった……ことは、藤堂にとって、酷く哀しいことだったと思う。俺は、たったの一度も、藤堂に「好き」と言えなかった。言いたかったけれど、言えなかった。恋人なのに、「好き」という言葉も言えない。こんなに、可愛げのない恋人と一緒にいて、なにが楽しいのだろう。そう、気付いたのだ。



「……いた、」



 藤堂のことを考えると、がんがんと頭が痛んだ。同時に、骨の折れた脚も、痛んだ。未練がましい自分を、身体が、嘲笑っているのかもしれない。

 ふわふわと、視界が白に染まる。目の前にあるものも、よくわからない。立ち上がったら、ふらりと倒れてしまいそうで、怖くて立てない。

 どうしよう。学校を、休んでしまおうか。体調のせいで学校に行くのも怖いし、藤堂に会うのも億劫だし。



「……!」



 学校へ電話をかけようとしたとき。玄関から、チャイムの音がなる。……誰かが来たみたいだ。

 こんな時間にくるということは、業者とかではないような気がする。知り合いか誰かだろうか。面倒だと思いながらも、俺はゆっくりと玄関に近づいてゆく。



「……わ、」



 ドアスコープを覗いて、俺は小さな声をあげてしまった。扉の前にいるのは、ゆう。ゆうが、なぜか俺の家に来た。

 ゆうだったら、別に話すことが億劫ではないし、と、扉を開ける。そうすれば、ゆうがにっこりと笑って、手を顔の横で振った。



「おはよ、涙」

「お、おはよ……」

「どう? 脚の調子。まだ痛む?」

「す、少し……」

「学校行けるの?」

「……わ、わかんない」

「もし行くなら、付き添うよ。タクシー呼ぶなら呼ぶし。……電車はちょっとあぶないかなあ」

「えっ、で、でも……タクシー高いから……」

「大丈夫、俺が払うから。明日からは先生に話して迎えにきてもらったりとか出来ない? 親が朝帰りだから送り迎えできないんだって言えば考えてくれると思うけどな。学校は行った方がいいよ」

「……うん、」



 ……正直、学校には行きたくなかったんだけどな。ゆうがお金持ちだからといってタクシー代払ってもらうのも悪いし。でも、俺は断ることがすごく苦手で、しかもわざわざ迎えにきてもらって、「学校にはいかない」なんて、言えない。

 俺は仕方なく、頷いた。そうすれば、ゆうが「よかった」と言って、優しげに、微笑んだ。






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