君の泣き声が聞こえる。

「あ……」



 教室を出たところで、会いたくない奴に会ってしまう。春原だ。いつもの薄っぺらい笑顔を浮かべた春原と、鉢合わせてしまった。

 春原は俺を見るなり、嫌味っぽく微笑んだ。「確信犯」といった感じに。涙の首につけられた痕を、俺が発見したというのをしっかりと悟っているようだ。もはやあの痕は、俺に見つかるようにわざとつけたものとしか思えない。



「おはよう、藤堂くん」

「……何がおはようだよ、いけしゃあしゃあと」

「今日、涙休みなんだってね」

「そうだけど」



 こいつ、やっぱり変だ。話していることが理解できないと前々から思っていたけれど、やってることも、変。何がしたくて、涙にちょっかいなんて出しているんだろう。春原が涙に対してどう思っているのかも、よくわからないし。



「大好きな涙がいないからって、浮気とかしちゃだめだよ」

「誰れがそんなこと……、っていうか涙にあんなことしたおまえがそれを言うのかよ」

「んー? あはは、じゃあね」

「……」



 春原の瞳が、一瞬怪しげに細められる。なんだか、妙に心がざわついた。その瞳に、どんな意図が汲まれているのだろう、そう考えると。

 春原は、そのまま去っていく。取り残された俺は、その背中を見つめることしかできなかった。




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