『ハル。おまえもそろそろ結婚とか考えたらどうだ。従者もいないしさ、色々と遅れてるぞ』
『……うん、まあ……そうだけど』
『またその適当な返事。従者はともかく、結婚相手ならいくらでも探せるだろ。おまえなら女のほうからいくらでも寄ってくる』
『……うーん』
――ハル・ボイトラー・レッドフォードは、レッドフォード家の次男として生まれた。
ハンターとして第一線で活躍できるほどの戦闘能力があり、研究機関にて重責を担うほどの頭脳を持ち、誰からも好かれる人となりを持っている。加えて大貴族の次男なのだから、完璧と言ってもいい人間であった。しかし――大きく欠けている部分があった。
『なんか……他人に深いところまで関わって欲しくないんだよね。だから、結婚もあまりしたくないし、従者つけるのも嫌だなあ。この家に生まれたからには妥協しないとなんだろうけどさ』
『……おまえなあ』
ハルは誰かに対して――いや、すべてのことに、興味を持つことがなかった。すべてを「それなり」にこなし、「それなり」に関わっていく、それでいいという人間だった。だから、愛なんて知るわけもなかったし、そして「感情」も他の者に比べれば少々薄かった。何もかもがどうでもいいから、怒りを覚えることもなければ、悲しみを覚えることもなかったのである。
そうして生きてきて、支障をきたしたことはない。あると言えば、レッドフォード家の者が「結婚しろ」「従者をつけろ」と口酸っぱく言ってくることくらいだろうか。
そんなハルの人生で、大きな転機となったのが――ラズワードをレッドフォード家に迎え入れた時。ハルは彼と出逢って、何もかもが変わった。愛を知って――そして、感情が息を吹き返したのである。そう、今まで知らなかった、「怒り」「悲しみ」――そして「嫉妬」や「憎悪」、負の感情と共に。
_243/270