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「……以上が、ラファエル様からの伝言です」


 同時刻、レッドフォード邸・客間。ハルの兄・エリスは早朝から現れた客人の応対に追われていた。


「こんな早い時間から……わざわざありがとうございます」

「いえ、そんな」


 穏やかな笑みを浮かべながら、エリスは言葉を連ねた。しかし実のところ、その心中では苛立ちだけが募っていた。

 その理由はズバリその客人にある。

 本日の客人、レヴィ=マクファーレン。彼は三大貴族の一つ、マクファーレン家の当主である。マクファーレン家は古来よりレッドフォード家と親交を深めており、エリスも長い間レッドフォード家の長男としてマクファーレン家と交流を交わしてきた。レヴィはごく最近マクファーレンの当主となった若者なのだが、代々のマクファーレンの当主を知っているエリスにとって彼はあまりにも許し難い存在であった。

 マクファーレンは風の天使・ラファエルに使える「堅実・優美」で有名な貴族であった。これまでの当主もそれに沿った、実に誠実な人達だった。

 しかしどうだ。このレヴィという男。


「……その、レヴィ様」

「なんですか?」

「……失礼ですが、このような場にそのような格好でくるのはどうかと……」 

「ああ、これですか? すみませんね、これからハンター業が控えていまして。制服のままきちゃいました」

「……いや、そういうことではなくて」


 まず、格好がだらしない。ハンターの制服を着てこうしてここへやってきたことは構わない。むしろ、ハンターの制服というのは正式な場でも通用する由緒正しき服である。ただ、問題はその着こなしだ。

 ハンターの制服は、白を基調とした詰襟の上着、その下にさらに同色のベストとシャツを着用する。しかしレヴィはその規律を思いっきり破っているのだ。上着こそ着ているが、その中は指定のものとは全く違う。見るたび違うものを中に着用しているが、今日は黒いシャツを来ていた。しかもボタンをしっかり止めず、首元がはだけている。

 さらに制服だけではない。髪型は品のないツンツンとした短髪。綺麗な銀髪を全く生かしきれていない。さらに耳には黒いピアスと鈍い銀色をしたカフス。

 はっきり言って、いや、端的に言って。不良スタイルである。

 優美なマクファーレンはどこにいった……!こんなそこらへんにいそうな不良がマクファーレンの当主だなんて納得できない!

 今にも叫びたい気持ちを抑えて、エリスは静かに言う。


「まあ、私は構わないのですが、父上が見たらどう思うか……」

「ああ、おエライサンだもんね」

「……」


 口の利き方までなっていない。堪忍袋の緒が切れそうになるのを堪えるのにエリスは必死であった。


「服装というのは、相手への敬意を表すものだとは思いませんか? 貴方の格好はとてもじゃありませんが……」

「何、お堅いなあ、流石レッドフォード家の次期当主様」

「……はあ」

「まあ、その理論が正しいのなら、俺はなにも間違った服装はしていないと思いますよ」

「……どういうことですか?」


 レヴィはフッと笑い、脚を組む。そして背もたれに寄りかかり、エリスを見下すように言った。


「俺があんたたちレッドフォードに敬意なんて払うつもりないってことだよ」


 ガタ、とエリスが立ち上がる。怒りを爆発させたような表情に、レヴィは眉ひとつ動かさない。


「貴方は……マクファーレンとしての誇りはないんですか!! 今まで私達が築いてきた親交をすべて壊すつもりか!!」

「マクファーレンの誇り、ねぇ……ないね、そんなもん。知っているでしょう? 俺がマクファーレンの当主になった経緯くらい」

「……!!」

「それに、貴方の言う誇りってなんですか? 貴族の誇り? ああ、そう例えば……」


 クク、とレヴィが笑う。しかし笑ったと思えばすぐに眉をひそめ、エリスを睨みつける。そして、チラリとエリスの後ろに立つ少女を見やり、言った。


「……奴隷を、たくさん所有することとか?」


 一瞬レヴィの瞳からは、殺意が放たれていた。しかしそれはすぐに消える。レヴィはまた不敵に微笑み、エリスの反応を待っていた。
 

「……貴方は、何か勘違いしている」

「へえ?」

「奴隷……水の魔族の存在……私達はそれが許せない。……貴方のような成り上がりの当主はその所以もなにも知らないでしょうけどね」


 エリスはもはやその嫌悪を隠すことなく表情に表した。立ち上がり、少女を引っ張り床へ叩きつける。


「……!」

「いいですか、レヴィ=マクファーレン……レッドフォードはミカエル様の無念を晴らすべく、罪に塗れた水の魔族に罰を与えている。なにも知らないおまえが知った風な口をきくなよ、これは私達に課せられた使命なんだ」


 エリスは床に転がる少女の腹を蹴った。それから休む間もなくその痛みと苦しさにむせる少女の口につま先を押し込む。


「ミオソティス……そろそろ靴も汚れてきた。……綺麗にしろ」

「……けほ……はい、エリス様」


 ミオソティスと呼ばれた少女は、息を荒げながらも起き上がる。そして、エリスの足をそっと手に取ると、口付けた。


「……は、随分と立派なものですね、レッドフォード……」


 レヴィはエリスに奉仕を続けるミオソティスから目を逸らす。

 ぴちゃ、と唾液の音が響く。時折エリスが無理につま先を押し込んだのか、おえ、と呻き声が混じる。

 レヴィはその音を聞きながら、目を閉じた。


「うっ……はぁ、げほ、げほ!」


 ミオソティスは乱暴につま先で唇を蹴られたために出血していたが、それでも舐め続けていた。唾液を血で赤くしながら、じゃりじゃりと口の中で舌とまぐわう砂の感触を感じながら。


「……ふっ」


 レヴィの唇から、吐息が漏れた。その声にエリスはピクリと反応する。どんな言葉がでてくるのかと、それを思ってエリスは微かに唇の端を上げた。


「……はは」

「……?」

「は、あっはははは!!」


 てっきり青臭いこの青年は怒りを口にするのかと思いきや、爆笑を始めた。エリスは何事かとレヴィを見やる。

 レヴィは身をかがめる。そしてくつくつと必死で笑いを堪えるように腹を抱えながら、エリスを見上げた。


「は、あは……あー、なるほど、レッドフォード……私の知らない事情があったんですね。これは無礼を申し上げました。……いや、失礼。あまりにも感激してしまいまして」

「ほう、貴方にも私達の使命の誇りを理解できましたか。……思った以上に素晴らしいお方ですね、貴方という方は」

「ええ、どうも。……まだまだ私は若いみたいですね……知りませんでしたよ、陵辱を誇りだと、そんなことがあるだなんて……私はもっと世界を知るべきだ」

「まだまだ貴方は当主としての日は浅い。……これからも援助いたしますよ、レヴィ=マクファーレン殿」

「ありがたきお言葉です、是非お願い致します。私の凡俗な頭では理解が難しいと思いますが、レッドフォードの高貴で誇り高い教えをこれからも享受させていただきたい」


 二人は穏やかに笑った。

 レヴィは立ち上がる。別れの挨拶をしようと思ったが、チラリと視界に入ったものに一瞬言葉を失った。

 ミオソティスのスカートがめくれあがっている。臀部を突き出す形で靴を舐めていたからであろう、スカートはショーツが見えるところまで上がっていた。

 丸見えになったショーツの下で、なにやら蠢いている。それは細かく中で振動し、時折ミオソティスの尻肉がヒクヒクとひくついている。


「……今日はお忙しいなか、申し訳ございませんでした」

「いえ、ラファエル様の伝言、確かに受け取りました。今後共、よろしくお願い致します」


 硬い表情でレヴィが言葉を吐けば、エリスは応えた。そしてニコッと微笑み、ポケットに手を突っ込む。布越しに、ポケットの中の手が動いているのがレヴィからも確認できた。


「――ああっ!!」

「おやおや、どうした、ミオソティス……大きな声をあげて……」


 その手の動きに合わせ、ミオソティスがビクビクと体を震わせる。


「あっ……はぁ、ん……んっ!」


 ショーツにじわじわとシミが広がっていく。それが何であるかくらい、レヴィにもすぐにわかった。


「……エリ、スさまぁ……どうか……あ、ああぁっ」

「どうした、お客様の前だぞ?」

「おゆるしを……くださ、い……あ、あああ、……くるし……です……」


 ミオソティスが自らショーツに手を伸ばす。脇から指を突っ込み、ズルリと蠢く物体を取り出すと、はっきりとその姿がレヴィにも見えた。ブルブルと振動しながら醜悪にうねるそれは、ぬらぬらとてかっている。


「は……やく……イキ……た、い……エリ、すさまぁ……」

「……俺はお邪魔みたいですね」


 腰を揺らしながらエリスにすがりつくミオソティスを見て、レヴィが吐き捨てるように言う。そうすれば、エリスは困ったように笑った。


「申し訳ない……レヴィ様……躾が足りなかったみたいで」

「いえ……こんな時間に押しかけた俺が悪いんです、そろそろお暇をいただきます」

「なんだか悪いですね、よろしければ見ていきますか?」

「はは……結構です」


 レヴィはにっこりと微笑んで、エリスに背を向けた。出口に向かうと、メイドの格好をした女がドアを開けた。

 後ろのから、「よし」という声が聞こえた。それと同時に、じゅぶじゅぶと激しい水音と艷声が聞こえてくる。

 レヴィはそれには目を向けずに、部屋を出て行った。

 そして扉が締まる音が聞こえると、舌打ちをする。


「結構なご趣味で、レッドフォード家の次期当主様」




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