夏戦 | ナノ

 バイトのお兄さんとおばあちゃんと

話しかけてきたのは、さっきからちやほやされてる男の人だった。

「あのっ。君、ここに来たことないの?」
「え?あ、はい。………記憶ないです」
「そうなんだ…」

1つだけ、ずっと気になって仕方なかったことがあったから頑張って、ほんとに1年間分の勇気を出す勢いで、お兄さんに質問してみる。

「…お兄さんこそ、親戚のうちの、一人じゃないんですか?」
「僕は夏希先輩のバイトでここに」
「バイト、ですか」
「うん。人手が足りないからって」
「へぇ…あ、置いて、かれてる」
「そ、そうだった!」
「ほらー!健二くん、早く早くー!」

はぁ…頑張った、私、頑張ったよ…
会話頑張った…うわああん。

そして門で驚くのはまだ早かった。序の口すぎた。
さっきの門はただの入口にすぎず、そこを通り過ぎて坂をさらに上っていったところが、みんなが集まる屋敷だとか。
我が家の何倍なんだろ…う、気になる。
「うーん、30倍くらい、いやそれ以上かな?」

お母さんもお父さんも毎年こんなところ来てたなんて!

「なまえが仕事で毎年来ないのが悪いのよ」
「お母さん怖い」
「ボソボソ呟いてるあんたの方が怖いわ」

ようやく屋敷についたらこんなに暑いのに着物を着たTHE・おばあちゃん!的な人がいて。

(でも着物って夏に着たら涼しくて、
冬に着ると逆に暖かいみたいな話があったようななかったような)

でも見た限り、大おばあちゃんの娘くらいじゃないかなって私は思う。
大おばあちゃんはもうちょっとシワとかある気がするんだ、勘だけどね。

「こ、このたびは、90歳の誕生日、おめでとうございます」

ハハハハ。地雷を踏みましたね、お兄さん。

「……お祝いは私の母に言ってあげてね」
「え………」
「け、健二くん!!行くよ!!」

*************

「万理子おばさん、こんにちは」
「あら、美南ちゃん。今年もわざわざ東京から来てくれてありがとうね」
「私たちのほうこそ、毎年呼んでもらっちゃって」
「母さんがいいって言うんだから、そんなのはいいの。それよりもしかしてなまえちゃんかしら?」
「そう。今年は連れてきたわ」

強制的という理由は今後以下略ですましたい。

「お久し振りね、なまえちゃん。元気だったかしら?」
「え、……あ、はい」

お久しぶりです?どなたです?
私あなた様を知りません。なんて言えない。もどかしい。

「さ、書斎に母さんがいるから挨拶しておいで、きっと喜んで迎えてくれるわ」
「体調はどう?大丈夫そう?」
「えぇ、今は大丈夫みたい。どうせ花札か一人将棋でもやってると思うわ」

花札?

「どうしたのなまえ?行くよ」
「あ、うん!」

なんで、花札のワードに反応したんだろうか。

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