修学旅行ー決行

「ついに今日からかぁ。準備大変だったね」
「ここまできて暗殺なのも嫌な話だけどね」

新幹線を待つホームでそんな会話を渚くんとする。肩にかけたカバンにずしりとした重みを感じて一度かけ直す。殺せんせーお手製の修学旅行のしおりなんて、やっぱり置いてくるべきだっただろうか。

「へえ、A組からD組まではグリーン車なんだ。だからって別に何かあるわけじゃないのにね。座席あるだけでもいいじゃん」
「ひゅー、やっぱり言うね名字ちゃん」
「中村さん、だよね?違ったらごめんね」
「名前覚えてくれたんだ!さんきゅっ」

ここにやってきて2週間ちょっと。クラス人数も少なめだし覚えられないわけがない。特に彼女はよく私の視界に入ってきたし最初の方に名前を覚えてしまった。

中村さんと距離を縮めるべく話している最中、渚くんに絡んだ本校舎のクソ野郎がいたけど、ビッチ先生が華麗に登場してくれたおかげで私の怒りも静まる。まるでハリウッドセレブ女優のような服装は私達の中に入ると浮いてしまい、烏間先生に着替えを命じられていた。私からすればいい登場方法だったとは思うけれど、変に目立っても殺せんせーのことがあるから大人しくしててもらった方がいいのかもしれない。
車内で寝巻きになったビッチ先生が少しかわいそうだが仕方ない。お疲れ様ですとこっそり念を送って、ふと何かが足りないことに気付く。杉野も周りを見渡していて目があうといないよな?と聞いてきた。一つ頷くとやりとりに気付いた渚君が声をかけてきて、殺せんせーが車内にいないことがE組に伝わる。一体どこに、と思った矢先窓の外に黄色い何かが見えて、まさかと思えば窓に張り付く殺せんせーの姿。渚くんとの電話の結果、次の駅までこのままでいることが烏間先生へと伝わり、ビッチ先生に続いて…と眉間のシワを寄せていた。お疲れ様です烏間先生。
無事乗り込んだ殺せんせーを確認してから前の席に座る渚くんにこそっと話しかける。
可愛らしく首を向けてくれた渚くんに携帯を見せて、「アドレス交換しよう」と申し出た。

「そういえば僕たちずっと交換してなかったね」
「うん、さっき殺せんせーと電話してる時に思いついたの。せっかくの機会だしみんなともしていこうと思って」

…というのは渚くんとだけ交換して怪しまれないようにするための口実で、実際はもう女の子の大半とは交換が済んでいるしすでにトークアプリでの会話もしている。自然な流れを無事利用できてほっと胸を撫で下ろしていると赤髪が視界に入り込んだ。

「なになに渚くんと名字さんメアド交換したの?いいないいな俺ともしようよ」
「やだっていったらしないで済む?」
「なわけ、意地でもするね」
「えー赤羽とはちょっと」
「そんなに俺が嫌い?」
「嫌いって言っても怒らないでいてくれる?」
「修学旅行中にちょっと怖いことが起こるくらい」
「わーい私赤羽のこと友達として好きだよー交換しようー」

ちょっと怖いことが絶対ちょっとのレベルじゃないと悟ったので棒読みでもいいから嫌々好きだと言ってやる。あーあ、登録しちゃった。絶対この先使わないでしょ。でもその中に渚くんの文字も追加されたので必死でにやけ顔を隠す。念願の渚くんのアドレスかあ。やった。

「名字ちゃん、神崎さんと奥田さんとみんなの飲みもの買いに行くけど一緒に行かない?」
「いいの?じゃあご一緒しようかな」
「やったー!早く行こう!」

ぐいぐい引っ張られる手に楽しそうだなあと笑いながら後をついていく。車両を跨ぐ通路で神崎さんが学ランを着た一回り大きな人にぶつかったが一言謝罪だけして何事もなく去っていく。

「名字ちゃん?どうかした」
「…ううん、なんでもないよ。飲みもの何が売ってるかな」
「そこらへんの自販機と変わらないんじゃないかな?」

ただ、私にはそいつらから出るドス黒いオーラが気になって仕方なかった。

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