我が天使よ

杉野と一緒に山道を登って旧校舎に着いた。
僕がいつも使ってる下駄箱には、何故か知らない靴が。
男女どっちでも使えそうなスニーカー…誰だろう。
僕が動かないことを疑問に思った杉野がこちらに来る。
「そんなところで固まってどうした?」
「すでに靴が入ってるんだけどさ、誰のだろう。こんな靴の人、クラスにいたっけ」
「うーん、見たことないな。どっか適当に置いといてさ、クラスで持ち主聞こうぜ」
「そうだね」
忘れないように分かりやすい場所に靴を置いて、下駄箱を去る。
いつも通り教室へ向かう途中、職員室の前に立つ女の子を見つけた。
見覚えのある立ち姿に思わず声を掛ける。

「あれ、名字さん?」

すると向こうは大きく肩を揺らすと、ゆっくり僕の方を向いた。
動揺してるように見えるけどどうしたんだろう。
むしろ動揺したいのはこっちなんだけど。

「なっなぎさくん…?!本物の渚くん?」
「「本物?」」

本物って一体なんのことだろうか。まさか名字さんの周りに僕の偽物でもいるのかな。ドッペルゲンガー?いやそんなことはないでしょ…
自問自答に軽い苦笑を浮かべる。
杉野が怪訝な顔で名字さんの顔を見ると、視線を床にした彼女は何でも無いと首を振った。
ますます怪しい。こいつ渚の知り合い?とでも言いたそうな視線で顔を僕に向けてきたので、簡単に説明する。

「彼女は本校舎のとき同じクラスだった名字名前さん。それなりに話す仲だったんだよ」
「へぇ…じゃあここにいるってことは」
「…うん、そういうことなんだろうね」

どう声をかければいいのか、中々しっくりくる言葉が思い浮かばず僕と杉野で視線を彷徨わせていると、彼女がそんな僕たちの悩みを知ってかとんでもない発言を落としていった。

「変に考えなくていいよ。私自分から好き好んで落ちてきただけだし!!励ましの言葉とか頑張れとかなんかよく分からないけどいらないよ!!来たくて来たんだから!」

僕と杉野は顔を見合わせると交互に言葉を繋げた。
「自分から好き好んで」
「落ちて、きた?」
つまり、ええっと?何らかのE組に飛ばされるような出来事を彼女は意図を持ってしたってことでいいのかな。
一体なんでそんなことを。

「ところでなんだけど、誰か先生はいないのかな」
「あれ、いないの?」
「だからここで10分くらい待ってるんだけど」
「10分も待ってんのか…この時間っていつも烏間先生くらいはいるよな」
「うん、そのはずだよ。ビッチ先生も殺せんせーもいないなんて珍しいね。何かあったのかな」
聞き慣れない名前ばかり並べられた彼女は困り顔で名前を繰り返す。

誰か来ていないかと杉野が廊下から窓を覗き込んだ途端、物凄い速さで校舎に向かう烏間先生の姿。凄い焦った顔してる。

「今のって烏間」
「おい!!!!!!!」

3人の肩が上に上がる。鬼のような形相をした烏間先生と対面した名字さんは震えた声で返事した。何も分からないまま突如現れた烏間先生に、どうしていいか分からず泣き出しそうな彼女がとても可哀想である。

「渚くん」
「はっはい!!」
「彼女は奴とまだ顔を合わせていないな?」
「そのはずです、けど…会ってないんだよね名字さん」
「ここに来るまで誰とも会ってないから多分…?」

その返事に一旦表情を落ち着かせると、先生は職員室に名字さんを連れて入って行った。

残された僕と杉野はお互い顔を合わせるとゆっくり教室へ向かう。
「…あの子、怖い思いしてなければいいな」
「そうだね…でも烏間先生悪い人じゃないし、大丈夫だといいなぁ」

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