「みんな早くなーい?」
「名前が遅ぇの!」

すでに待ち合わせ場所には私以外の面子が揃っていて集中的に遅いと攻撃。

ああもう、うるさいなあ。

なんで3日連続で合コンしなきゃいけないの。
しかもまた鮫柄って。
去年の1週間合コン記録に比べたらまだマシだろうけど、あれは相手が違ったじゃん。
あ、そういう問題じゃないか。

「今回の相手、結構イケメンだったよぉ」
「まじで!?ちょっ、見せろ!」
「やぁだ。本番まで内緒?」

くっそ!別に!興味ないわっ!!

「じゃ、行こー!」

もう、やだよ。


今すぐに帰りたいどうしてかってまぁまぁ自己紹介でも聞いたらわかるよ

「俺は御子柴清十郎」
「1年のに、似鳥愛一郎です!」
「松岡凛…」

間違いなく凛だよあの凛ちゃんだよ。
私名乗らなきゃいけない感じ?
あ、死亡フラグ?

「あたしはメグですぅ」
「うちはマホでーす!」
「あ。…名前、でーす、えへ」
「…」

やめて凛こっち見んな!

「お前」

誰かなぁ?!

「名前、凛くんに呼ばれてるよぉ」
「な、なぁにー?」

名字なんだよとか言わないでよ?!

「名字なんだよ」

言いやがった!パーフェクトだよこの野郎!

「名字…です…」
「わり、聞こえねぇ」

くぅ!こうなりゃヤケクソだ!!
もう知らん!!!
さよなら私の命!!
さよなら私の人生!!

「名字だよぉ!」

可愛く言ってやったよもう。
死亡フラグ通り越して死んだわ。
いろんな意味で。

「こいつテイクアウトすっから」

本当に死んだ。
頭が真っ白になった。

「えぇ!?り、凛くん早いよぉ!」

彼女らはやはり凛を狙ってたのか、誰も予測していなかった事態に皆驚きの声を隠せず、次々にものを言う。
しかしそんなのはお構いなしに凛はすでに私の手首を握っていた。

「おい行くぞ」
「え、私許可とか何も」
「んじゃ頑張ってー」
「ちょっと、り…ま、松岡くん!」


拒否権は得られず、強制的に椅子から立たされ外に連れ出される。

捕まれた手首が痛い。

「り、んっ。痛い!離して!」

しかし私の叫びは虚しく、細い、誰も通らないような路地に入り込み、道路に沿って数十メートルはあるブロック塀に押し付けられる。
あぁ、これが俗に言う壁ドンかぁ。
ほんと顔近いわ。
ていうか凛背高いなー。

「まず確認する。お前ほんとに名前かよ」

「そうだよ?私は名字名前だよ?あ、分かった分かった別人だって言いたいんでしょ、凛もすっかり別人じゃない。そんなキャラじゃなかったよ昔は」
「誰もそんな話はしてねぇ。
それよりなんでお前があんなところにいる」
「ハァ?私がどこの誰とつるんで何をしてようったって凛には関係ないじゃない。最後の言葉はそっくりお返しします」
「…お前、合コンで男と遊んでんのかよ」

駄目だ、話が通じてない。

「だったら何よ。他校でましてや数年関わりのなかったあんたが知ってどうすんの」

いつか独り言で言ったように、私は男とは一切絡んでない。
けど、凛の態度を見たら無性にイライラしてそう思わせるような発言をしてしまった。
プラス喧嘩腰、少し言いすぎたかもしれないと勢いで下に向けた視線を戻すと、スイミングクラブにいた時には見せたこともない悲しい顔をしていた。

「り、ん?」
「…っ、んだよ。どいつもこいつも」

どいつも?
私以外に同じような反応をした人がいるってこと?

「え、意味わか」
「お前は」

被せるように言葉を発せられ、口をつぐむ。


「…あいつらとは、今でも絡んでんのか」

あいつら。あぁ、なるほどね。

これには、ぶっきらぼうに「絡んでないけど」と、一言だけ告げる。

その反応は予測していなかったらしく、悲しげな顔から一変して驚きの表情へと変わった。
コロコロ変わる顔だなぁ。

「は?なんで?」
「それこそ関係ないでしょ。あと、いい加減そこどいて。私帰るから」

見下されてるのが気分悪くて腕の隙間を見やりながらそう言えば、私が視線を戻した途端、何か思いついた。とばかりの表情をした凛の姿。

やめて、何をする気なの。

「おいおい、お前、俺にテイクアウトされてんだろ。ちょっとくらい俺に付き合う権利はあるよな?」
「あの場から抜け出させてくれてありがとう。けど私はオッケーなんて出してないし普通は女子の意見を聞くべきだよね。ってことで、さよなッ」

壁にあった両腕のうち、片手が私の口元に移動してきてそのまま塞がれた。
自由に喋る権利を返せよ。


「俺にはオッケーって聞こえたから決まり」

「っ!勝手なこと言わないでよ!手首痛いし!どこ連れ去るつもり!?警察訴えるよ!!」


そんな声は聞こえないと、不敵な笑み(少なくとも私にはそう見える)を漏らしたまま私は岩鳶の町を歩かされる。


行き先も分からぬまま…


(でもなんでだろう、会うのは嫌なはずなのに懐かしいだなんて)
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