本当に寝呆けていた。
これは紛れもない事実である。

ハルに起こされるまで自分が寝ているのも知らなくて、眠気眼を擦ったのだから。

それでも眠気は取れず、ふらふらと危なっかしく階段を降りていき、キッチンの椅子に座って、まだ完全に覚醒し切っていない頭でハルに食事について問う。
てっきり嫌々に作り出すか自分で作れとでも言われるのかと思っていたけれど、温めるだけだと言われて驚いた。
頬杖をついて新鮮な寝巻き姿で鯖を温めるハルを時々見やる。
相当寝呆けてんな、私。

温め終わった簡単だけど美味しそうな食事が並べられ、習慣付いた食事マナーを守りそれらを口に運ぶ。
久し振りに他人が作ったご飯を頂いたからか箸を持つ手は休むことなく進み、なんて美味しいんだろうと心が温まるようで、ポロポロと涙が溢れた。
ばれないように食器洗うね、と俯きながら折角水道前に移動したのに、ハルが隣に並ぶものだからばれてしまったらしい。

逃げるように食器洗いを託して、キッチンを出て風呂に向かう途中、昔ハルと真琴と水を張って一緒に入ったのを思い出して、また涙が出てきた。

扉を閉めて座り込みそうになるのを頑張って我慢して、脱衣所を見渡す。
洗濯機の蓋が空いてるのを見て、ハルが風呂を急かしていた理由が私が洗濯物を入れないと洗濯機が回せないからだと冷静に分析して服を脱ぎかけた。

しまった。
寝巻きと下着、上だ。

まだ洗い物してますようにと祈って階段を駆け上り、衣類を入れた鞄から、寝巻きとして使っているジャージと適当な下着を引っ張り出して階段を駆け下りる。
もう、水音はしていなかった。

そのままの勢いで風呂場まで走り抜けて制服を丁寧に畳み、編み籠に置かせてもらう。

熱気が抜けず、鏡が曇る浴室内に入ってお湯を頭から被った。

_全部流れてかないかなぁ

未だ止まらない涙が排水溝にどんどん吸い込まれているようで、枯れちゃう。なんてくだらない事を考えてるんだろう。

特にこだわりもしてないだろうシャンプーとリンス、洗顔やボディーソープを一通り見て、どうせ短期間なんだ、男物だろうが気にする事ない、借りれるだけ有難い、と言い聞かせて体を洗った。

扉の向こうでガタンと音がした。

機会音がなった後扉の前で人影が動く。

「……、名前」
「…お風呂、入ってるんだけど」
「…ごめん」
「何か御用ですか」
「…後で、いい」

本当に何しに来たの。
というか普通女の子がお風呂入ってる時にやってくるか?
あ、なに。もしかして女子と思われてない?そういう感じ?

相手が相手という事もあり複雑な心境である。
ハル相手に女子と思われてない事を悔しがるのは本当に自分が気に食わない。

それでもやっぱり少なからず女子としての威厳のようなものがあって…

くそう、どうした私。

思考回路ショートしろと手桶に水を溜めて一気に頭から被ってみる。
季節は夏に近い春だけどやっぱりぶるりと体は震えて慌ててお風呂に浸かった。

(すっかり冷めた眠気)
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