※前話の対比

抱きしめたい。
そう名前に言ったら、嫌な顔一つせず俺の腕に包まれてくれた。
下心はない。彼女に恋心があるわけでもない。
ただ、色々な事があったから心配して抱きしめた。それだけのこと。

横目でハルを見やると黙々と鯖を焼いていた。
でもその表情は昨日までの名前を見ていたそれで、ハルは昔から嘘つきだな、と眉間にシワを寄せそうになる。

ハルは俺にばれていないとでも思っているのか、おそらく「それ」であろうことを、俺に話してくれない。

俺、知ってるよ。
ボーッとしてるかと思いきや視線の先に必ず名前がいたこと。
俺達の知っている名前のイメージからかけ離れたお洒落をして、貼り付けた笑顔で友人と話す彼女を、ハルは気付くと見てたよね。

何年も一緒にいると、嫌でも考えていることが分かってしまう。
時にそれは、幸か不幸に別れて俺を悩み事の波立つ海へ引き摺っていくんだ。

俺は、海が嫌い。苦手である。
幼い頃の記憶がフラッシュバックして恐怖心に駆られてしまう。

だから、これも同じように苦手だ。

下手に口にしてしまったら、水を飲み込んでしまいそうだな。と、いつも思う。
だからずっと気付かない振りをしてる。

ハルを助けてあげたい、名前を助けてあげたいと思っても、やっぱり、今の俺には無理だ。

ようやく名前と和解できたのに。

まずは俺が海を克服したら、そしたら二人も凛も助けてあげられるんだろうな。

時間がかかるかもしれないけど、待っててね。

頑張って、助けるから

(橘真琴の独白)

短めです。
この後は一気に恋愛パートかけます。(予定)
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