手を繋いでひとつになろう
これのつづき
「よう名前おはようさん!」
「お、おはよう忍足くん…」
「ちゃうちゃう謙也でええって言うたやん?」
きのう惚れさせる宣言をした忍足くん…改め謙也くんは朝っぱらからやたらグイグイ押し、私の呼び名もいつの間にか変わり、隙あらば私に話しかけニコニコーとして授業が始まる頃には渋々戻る…なんていうことをしている。彼曰く「引く前に押して押して押しまくれ作戦」らしい。本人に言ってどうするんだ。あとそれ効果絶大です。すごくドキドキするんで、その、やめてください。
「名前ー!ええか、今日の放送よーく聞いとくんやで!!」
「う、うん…いってらっしゃい…」
「!! おう!いってくるで!!」
昼休みは放送委員の仕事があるらしく浪速のスピードスターよろしくピュピューッと教室を出ていった謙也くん。騒がしいやつだ。お弁当の蓋を開けて友達と静かなランチタイムを…と思ったがそうもいかず、スピーカーからはじゃんじゃか音楽が流れ謙也くんのやかましい声が響く。テンション高いな…だけど彼の声ってちょっと落ち着く。話しかけてくれるのは嬉しいんだけれど心臓がドキドキしてどうも困る。
「なあ名字さん」
「んー?って白石くん?うわ珍しい」
「せやな、俺ら普段話しせんし…ところで聞きたいことあるんやけどええ?」
「…なんとなくわかるけど、どうぞ?」
「ほんま?いやぁご飯中に堪忍な?んでぶっちゃけ謙也とはどうなんや、付き合っとるん?アベックなん?」
アベックって表現古いよ白石くん!疑問符だらけの彼の質問に私ではなく一緒にご飯を食べていた友達がキャアッと黄色い声を上げる。そういうこと聞かれるんじゃないかなって思ってはいたけどまさか本当に聞かれるとは…。お箸を置いて白石くんに付き合ってないと告げるとこれまたキャアッと黄色い声が上がる。
「え、え?やだ名前付き合ってないん?ウチ付き合い始めたんかと思ってそらもうワクワクしとったんやけど!!」
「いや、まあ…告白はされたんだけど…」
「キャアーッ!!」
「んで?なら名字さん謙也のことふったん?あの浮かれ方成功したんかと思ったんやけどなぁ」
「そ、それはなんというか…ええと、私も嫌いじゃないんだけど…」
どちらかというと好きだけど…というかぶっちゃけ惚れちゃってるけど…それでもあんなことを言った次の日に自分の言葉を撤回するのはいかがなものなのだろうか。でもそろそろめんどくさいのは確かで…どうにかするには私が動かなくっちゃならないんだよね。うーん、どうしたものか。
私の煮えきらない答えに何かを悟ったのか、白石くんは頭を掻き苦笑いをして名字さんと私の名前を言った。苦笑いすらかっこいい男だ。
「まあ謙也は悪い奴とちゃうで。確かに今はむっちゃうざったいけど」
「確かに見とって鬱陶しいわ。名前はよどうにかするんや。こっちが疲れる」
「二人とも謙也くんにひどいな…」
「名字さん、すまんな。頼んだで」
頼んだって言われても、何をどうすれば。こんな恥ずかしいこと口にするのも…メール、は、無理だ。メアド知らないし。距離が縮まったのは嬉しいけど、その気持ちを言葉にするのは怖いし恥ずかしい。さてどうするか…
なんというか、こうするしかなかったから許して欲しい。なんとも皮肉なことだが昼休みに考え抜いた結果、私は謙也くんにお手紙を出すことにした。
ひとつめに、昨日謙也くんがくれたみたいなルーズリーフに書いたお手紙。放課後中庭で待ってますとそれはもうそのまんまである。いやだって呼び出しの手紙なんて書いたことないからどう書けばいいのかなんともかんとも…
ふたつめに、今の気持ちを思いのまんま綴った恥ずかしすぎる手紙。急ぎだったため授業中に書いたがそれはもうこっぱずかしい仕上がりとなった。便箋、封筒なんぞ持っていなかったのでわざわざ購買に行って購入した校章の入っているものだ。中身もそうだけどなんて色気のない。
ひとつめの手紙を謙也くんの下駄箱に置いて、ふたつめは私の手元に。この手紙は私が渡さなくちゃいけないだろうし。こんなことが待っているので部活に身は入らず、呼びかけにも気の抜けた返事ばかりで。ああもう本当に何やってるんだろう私…あんな風に言うんじゃなくって素直にそのままのことを言っておけばよかった…
「よう名前!」
「こ、こんにちは謙也くん…」
謙也くん来るの早いな、さすが浪速のスピードスターだ…どくどくと血液の流れが全身でわかる。少しずつ浅くなる呼吸を落ち着かせようとしてみるけれどあまり効果はない。なんでこんなに緊張するんだろう。昨日彼に手紙を渡した時はさくっといけたのに。
「あっ…あの、これ謙也くんに。その、私から」
うわぁ手、すごい震えてる。恥ずかしい。脳みそがとろけちゃうんじゃないかって思うくらい顔が熱くて謙也くんのこと、まともに見れない。
「えーっと…これは?」
「あの、そのですね、わっ私の気持ちです…ええ…」
「…誰か別のやつが書いたとかじゃ」
「ないから!!」
「……」
「うわぁ!?ちょっとここで開けないでよ!!」
私の制止も虚しく、神妙そうな顔で謙也くんはびりびりと封筒を破き、手紙を読み始める。えーっ!ええーっ!?なにこの羞恥プレイ!!彼の視線が下に行くにつれ、「うわ」とか「え」とかいう声を発し、しまいには盛大に吹き出す謙也くん。私そんな変なこと書いてないハズなんだけどな…
「よし、名前の気持ちはわかった、よぉーくわかったで」
「お、おう」
「俺から言うことはひとつや、はよ言わんかい!!」
「ごめん…」
「いろいろ考えたん、ぜぇんぶ空回りか!あーもう!」
「お、怒ってる…?」
「怒るわけないやろ!なんでこんな嬉しいことされて怒んなきゃならんのや!」
と、とりあえずよかったの…かな?謙也くんは昨日みたいに地面に座り込んで、でも昨日とは違う、照れ隠しみたいな笑顔をして私を見ている。名前、と名前を呼ばれてそのまま謙也くんの近くに座ると、私の輪郭に沿うように手を当てほっぺを揉む。やっこいな、なんて言ってくるもんだから顔が熱い。特に謙也くんが触ってるところが熱くてたまらない。
「あの、さ。空回りなんかじゃないよ」
「え?」
「今日、ずっと謙也くんばかり考えてたし、すごくどきどきした」
「あ、あのなぁ…」
私のほっぺたをぎにゅーっとつまみ(でも痛くない)、片手で自分の口を押さえる謙也くん。て、照れてる…?そんな考えが浮かんだ途端私の体温もボッと急上昇する。熱で倒れちゃうんじゃないか、私。なんでこの人は私をこんなにドキドキさせるんだろう、もうずっと心臓がうるさい。これはもう責任を取ってもらうしかない。まったく謙也くんくんめ。
「すき」
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今回はフリリク参加ありがとうございます!短編の続きを読みたいと言ってもらえるのがすごく嬉しくて、ワーッと書いていたはずが気がつけばこんなに遅くなってしまいました。みちるさんが楽しめるお話になっていたらな、と思います。
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