僕だけが知る、君の好きなところ@

頑張ってる名前に、何か美味しいものを作ってあげる。明日、俺の部屋に来なよ

金曜日の昼休み、突然瀬名先輩に声を掛けられた。話というよりほとんど、命令みたいなものだったけど。
瀬名先輩とは、先輩が所属するグループのプロデュースをし始めてからの付き合いだけど、何かと面倒をみてくれた。多少、言葉の言い回しが意地悪に聞こえる時もあるけれど、それが不器用な先輩の優しさである事もしばらくして知った。
そんな先輩から突然のお誘い。しかも先輩の部屋とは。ファンの女の子達が知ったらと思うと…………少し怖い。
複数のグループのプロデュースを行っている私は、忙しさのあまりお昼を食べない時が多々あった。皆さんの役に立ちたくて様々な案を考えていたら、気づくと昼休みが終わっていた、的な事は日常茶飯事だった。それが当たり前の日常になってて、自分の事なんて考える余裕がなかった。
そんな感じだから心配して、声を掛けてくれたのだろう。とはいえ、瀬名先輩はどうしてこんなに親切なの?“部屋においで”だなんてかっこいい先輩に言われたら、断るタイミングさえうまく掴めなくて。結局、土曜日になってしまった。
余計な物がないシンプルな部屋に迎え入れられた私は、ずっと心臓が駆け足状態だった。瀬名先輩の部屋は必要最低限の家具や物しかなくて、片付いているというより寒々しい感じがした。必要なものと不要なものがはっきりとしている、先輩の性格が滲み出ている気がする。

『先輩らしい部屋ですね』

「そう?余計な物は目障りなだけ。置きたがるヤツって、見ているだけでイラッとするんだよね」

『それも先輩らしいです』

「あっそ。あのさぁ、いつまでも突っ立ってないで、適当に座ったら?」

『あ、はい』

「もしかして緊張してんの?らしくないじゃん」

なんて瀬名先輩は言うけど、男性の部屋に上がり込んでいるんだから緊張するのは当たり前。プロデュースとは違うんだから。

『あの……』

「なに?」

返事をしながら隣に座る先輩。ふわりとシャンプーの匂いがして、ドキッとする。私とは違う、シトラス系の爽やかな香だ。

『あの……どうして誘ってくれたんですか?』

「柄にもなく、って言いたいわけ?」

『嬉しいけど、今日はどうしてこんなに優しいのかなぁって』

「なに言ってんのさ!俺はいつも優しいでしょ。プロデューサーのくせに観察力なさすぎ」

『あははは……』

私の引きつった笑顔に、グサリとトドメを刺してくれた。瀬名先輩って言おうとしていることは間違ってないんだけど、言葉の表現がキツかったりする。
もう少し柔らかい言い方をしてくれたらいいのに、なんて言おうものなら100倍にして返されるから下手な反論はしない方がいい。先輩と関わるようになって私が、一番最初に学んだ事だ。

『あの、今日は何を……』

ご馳走してくれるのかと続けようとした私の言葉を、瀬名先輩が遮った。

「ちょっと、名前。話があるんだけど」

そう言いかけて、先輩はうっすらと笑う。その顔は何かを思案しているようにも、私の反応を伺っているようにも見えた。どちらにせよ、この沈黙の後には、何か思いがけない一言が出るのだろうと思った。
瀬名先輩がこんな笑みを浮かべる時は、何かよくない事を考えている時だから。変な汗が滲み出てくる。

『瀬名先輩?』

沈黙に堪えきれず口にすると、

「名前は、ゆうくんが好きなの?」

やっぱり、突拍子もないことを言い出した。予想すらしてなかった言葉を聞いて、私は目を丸くした。

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