乙女リズムゲーム
IDOLISH7
相手)七瀬陸
ヒロインは陸の恋人。
陸side
「ごめんね。本当は、もう少し※※と一緒にいたいんだけど……」
帰宅しようとするオレを、玄関先で見送る※※。時計は、夜の9時を過ぎている。
みんなの努力が実ってかIDOLISH7の人気が出てきて、最近2人っきりになれる時間がなかった。知名度が上がったのは嬉しい事だけど、その分プライベートで自由な時間が減ってしまった。
何かを得るためには、何かを犠牲にしなきゃいけないのはわかっているけど、それが※※との時間になるとは切ない。彼女に言ったら怒られるかな。
やっと作れた2人だけの時間。本当はもっと、もっと※※と一緒にいたい。たわいない話をして、甘えて、甘えられて、恋人同士の時間に溺れたい。
でもオレには明日大事な仕事があって、いつまでも甘いひと時に浸ってはいられなかった。マネージャーでもある※※が、必死になってオレ達の為に取ってきてくれた仕事だ。オレ達は、その気持ちに応えなきゃいけない。
アイドルが輝いていらるるのは、マネージャーのような裏方さんがいてくれるからだ。それに応える為にも、仕事に支障をきたすような行為をしてはいけない。寂しいけれど仕方がないんだ。
会えただけでも十分なんだから。わがままを言って※※を困らせたくはない。ここまでの道のりは、本当に大変だった。そんな時支えてくれたのは、マネージャーや事務所の方々だ。だからこれからはオレ達が、しっかりしなきゃいけないんだ。
オレは寂しい気持ちを呑み込んで、必死に笑顔を作った。
『ううん。短い時間でも陸くんと一緒にいられたし、明日も会えるし』
笑顔を浮かべながら話す※※。直ぐに作り笑いだとわかるような、笑顔だ。※※が本心で笑っているかどうかなんて、ずっと見てきたオレには直ぐにわかる。
今度はいつ2人っきりになれるかわからないけど、アイドルとマネージャーという立場で、毎日顔を合わすことはできから。何ヶ月に一度しか会えない、恋人同士だっている。遠距離恋愛をしている人達に比べたらオレ達なんて、全然幸せな方だ。
「本当にごめん」
『わかってるから』
「そっか…そうだよね。でももし何かあったら、何時でもいいからオレの携帯を鳴らすこと。わかった?」
『何かって?』
「何でもいいよ」
※※なら、何でも良かった。2人っきりの時間を作ってあげられない、恋人への愚痴でも構わない。仕事の愚痴でも構わない。
『うん、わかった』
笑顔で返事をする※※。でも彼女の手が、スカートの裾を握り締めている事に気づいた。
「シワになっちゃうよ?」
『えっ?』
「スカート。そんなに強く握ったら、シワになっちゃうって事」
『え?あ、ほんとだ。あはは……』
恥ずかしいのか※※は慌てて、スカートから手を外す。俺は記憶の1ページを思い出した。
子供の頃我慢しなきゃいけない時や拗ねてる時に、よく自身のズボンを握り締めていた。発したい言葉を必死に呑み込みながら。
「じゃあ、おやすみ。また明日」
寂しいなんて言っちゃいけない。※※だってきっと、寂しさを呑み込んでるハズだから。
『うん、今日はありがと。おやすみなさい。気をつけてね』
背を向けて歩き出す俺に、※※はいつまでも手を振りながら見送ってくれる。
そんな彼女に向かってオレは、何度も振り返った。